若きローズに請われる形で語られる、型破りな女性主人公、レディ・”ヴィタ”・シーモアの思い出話の数々。シーモア子爵とのパリでの出会いと日本旅行での事件、ヴェネツィアでのミス・シレーヌとの壮絶な出会い。レディ・ヴィクトリアシリーズ5作分の前日譚として充実した内容となっている。
・少女時代の”ヴィタ”の運命の地、パリ。19世紀中葉においては、女性だけの学校を作るのは容易ではなかったろう。人間の真と善と美(p45)。そして南北戦争期の白人と黒人の問題。理想は高ければより良いが、この世では現実に対処できる力の大切さが身に染みるエピソード。ミスタ・ディーンの過去も圧巻だ。
・横浜居留地での「伊作」篇は実に切ない。「死に際に会えなかったのは悲しいけれど、その分元気だったときの顔を覚えていられる」(p219)僕はこの言葉に救われた。この一行に出逢うだけでも、本書を手にした甲斐があった。
・時間を共にすること、その時間を永遠の記憶に留めること(p241)。尊い。そして残された者にはやることがあるのだ。
時代と世間の常識にとらわれない、ヴィクトリアと彼女のファミリーの物語は読んでいて心地が良い。続編として、ぜひインド藩王国の内紛話を読みたいな。
レディ・ヴィクトリア完全版1 セイレーンは翼を連ねて飛ぶ
著者:篠田真由美、アトリエサード・2023年1月発行