男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

シーモア子爵夫人のメイド、ローズの毎日は多忙だ。ベティとのおしゃべりに、突然ロンドンのお屋敷に押しかけてきた妹への応対、レディの訪問客との応対を覗き見て……もちろん、仕事もきちんとこなす。13歳で上京して3年がすぎ、昨今はパーラー・メイドの役割も見事に果たすのだ。
そして彼女は、奥様から17歳の誕生日プレゼントにいただいた鍵のかかるノートに、「チーム・ヴィクトリア」の解決した事件を記すのだ。
本書では三つの中篇が披露される。
・清国人料理人のリェンさん(林さん)の父親が護りたかったもの。持ち込まれた"皿"と持ち出された"壺"をめぐって、清国の動乱・英仏の侵略による悲劇の末にリュンさんの得たものは何か。帝国主義の功罪は個人に重くのしかかる。
・公爵夫人のバンシー(ドッペンゲルガー)が夜な夜な「進歩的英国婦人の友愛と向上のための倶楽部」内を歩き、見たものを恐怖に陥れる『あなたの顔をした死神』『仮面とヴェールの影に』は、"男の帝国主義"の時代を生きる女性の自立と歪んだ愛情がモチーフだ。ある女性をエディンバラ大学初の女性入学者として医学部へ進学させようとする公爵夫人。その思いとは裏腹に女性は……。う~ん。結末がプアーなのは何故?
・下町ランベスのミュージックホールから出世したダンサー、サロメ。彼女が描かれた絵画に隠された秘密=王位継承をめぐる熾烈な争いに巻き込まれたレディの手腕が披露される『生首を抱くサロメ』『華麗なる仮面舞踏会』も、それぞれの階級の人物の行動が興味深い。まぁ、ラストはきれいにまとまりすぎた感はあるが。
・危機に際しての覚悟が潔い。いざとなったらロンドンを捨てて出て「旅していない土地、見ていない景色はまだまだあるわ」(p271)と言ってのける。この人生観あってこそのレディ・ヴィクトリアだ。

「勝つことで人を救う機会が得られる闘いなら、少しばかり危ない橋を渡ることになっても、立ち向かう意味はあるのよ」(p187) チーム・ヴィクトリア、その心意気や良し!

どの中篇もヴィクトリア朝の特長が綿密に活かされた作品ではあるが、前2作の長編に比べて中途半端な感じは否めない。それでも、女たちの大英帝国の曙のきざしが丁寧に描かれ、好感が持てた。
次回作予告「切り裂きジャック」にも期待しています。

LADY VICTORIA : IN THE LOCKED NOTEBOOK OF ROSE
レディ・ヴィクトリア ローズの秘密のノートから
著者:篠田真由美、講談社・2020年2月発行

最新かつ純正の、しかも評価の極めて高いSEL24F14GMが発売されているのに、いまさらBatis 2/25を購入? しかもSIGMA 35mm F1.2 DG DN Artを持っているというのに。
いいんです。ZEISSの描写に惚れたから。
実はGMと迷いましたが、手持ちのTouit 2.8/12の映し出す"ZEISSの青"の世界がお気に入りなので、あえて旧機種(2015年発売)であるBatisの購入となりました。(実は中古で手を出しやすかったのも一因。)

ZEISSのレンズを象徴する、美しい化粧箱。
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この特徴的な外観も、購入のきっかけとなった一要素です。カメラα7RⅣに取り付けると実に良い感じ。
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兵庫県・明石市は山陽電鉄・中八木駅の南を通る「浜の散歩道」で試し撮りです。
(PLフィルタを付ければ良かった。)
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魚の棚商店街に位置する「とり居」の名物・明石焼。
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小型・軽量なのでブリーフケースに入れても持ち歩けます。その機動力、良し。


日本に居住する市民は平和を享受し、世界の紛争地帯に比べれば格段に幸せな人生を送っている。毎日ではなくとも、その身に幸せを感じる瞬間は訪れるだろう。
本書は、まさに現在の政治情勢が続いて、日常生活に「ほんの少し」軍事が入り込んだ日常を、あの傑作長編『未必のマクベス』の著者が色鮮やかに描き出す短編集だ。『マクベス』では交通系ICカード、香港、数字をキーワードにしたハードな展開が魅力的だったが、本書では望まない「有事」と日常的に接することの葛藤、組織の論理と矛盾する自らの正義への覚悟があぶりだされる。

『思い過ごしの空』
有名化粧品メーカーの本社に勤める僕は、研究所に籍を置く妻が開発し、営業的に失敗とされた試作品が、ある顧客にとっては「画期的な発明品」であること、僕がそのプロジェクトの担当になった秘密を隠し続けなければならない。何気ない家庭内での会話のはしばしに「発明品」の話題があがらないことを祈る日々。
・軍事産業か否かの境界はあやふやだ(p19)。そう、それは曖昧であり、こんにちTV-CMで有名な大企業の何割かが「しれっと」儲かる軍需に加担しているのも事実である。
・"かはく"と"リダイ"には笑わせてもらいました(p25)。そこでの会話「無人兵器と自爆テロの違い」は、その通りだ。
・「僕は彼女の無邪気さを守っていきたい」(p31)いいな。そして手をつないだ妻のラストのセリフは、胸に突き刺さる。

『彼女の知らない空』
日本国憲法が改正されて最初の冬。紛争地域のQ国に派遣される陸自幹部を友人に持つ空自の三佐は、官舎で待つ妻に打ち明けられない秘密をかかえて、今日も千歳基地に足を運ぶのだ。
・公に戦争をできるようになった日本という国。1万2千キロのかなた、Q国の政府軍基地を離陸する無人爆撃機を操縦するのは僕だ。「紛争に行くのは、ぼく自身だということを」妻は知らない(p53)。当然、一般国民にも知らされていない。
・地球の裏側Q国上空の機体、千歳基地の操縦管制室、米国の司令センター。これらが一体となって現地のターゲットを追う様子は、まさに技術の結晶といえよう。狙われる現地民にとってはたまったものではないが。
・罪悪感と恐怖感(p80)。公務とはいえ、殺人者になるということ。交戦権を認められた自衛官の葛藤がありありと表現されている。
緊急事態条項(p49)。憲法九条の改正よりも重要な秘密はここにある。"総理大臣の一声"で街を戦場に、市民を兵士に変えられること(p80)の意味に、多くの国民はいまも目を逸らす。これ、令和の世で現実的にありそうだな。

上記2編は異色の出来だ。他に『七時のニュース』『閑話・北上する戦争は勝てない』『東京駅丸の内口、塹壕の中』『オフィーリアの隠蔽』『彼女の時間』を収録。

最終編『彼女の時間』を読了後、『マクベス』同様に、身体に力の漲るのを感じられた。

著者様には申しわけないが『閑話・北上する戦争は勝てない』の長時間残業=ドーピング説には違和感があるな。
(あと、p129「株主にする説明する」は変です。)

どんどん変わってゆく平和なはずの日常に、戦慄すること幾たび。
「憲法が変わっても、自衛官は人を殺さない。それが、ぼくたちの誇りだ」(p69『彼女の知らない空』)
そうあってほしいと願う。

彼女の知らない空
著者:早瀬耕、小学館・2020年3月発行
2020年3月12日読了
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彼女の知らない空 (小学館文庫)
耕, 早瀬
小学館
2020-03-06



すでに語りつくされた名作ではあるが、読み込んでこそ、その価値が分かろうというもの。
なんといっても第Ⅲ部-5の後半、ラスコリーニコフが自作論文の解説を披露する場面が圧倒的だ。並ではない「本当の人間」(プラトンの言う「哲人」にあたるのかな?)が自分の発見や思想を全人類のものとするため、それを阻む何百人もの生命を除去することの権利と、その良心に基づいて他人の血を流すことの義務を有し、彼は必然的に犯罪者たらざるをえないことが論理的に展開される。この"対談"から、友人ラズーミヒンの叔父にして予審判事であるポルフィーリイとの思想合戦がすでに始まっていたのかと思うと、文豪ドストエフスキーの構成力の壮大さには舌を巻く。
それにしてもロジオン・ロマーノヴィチ(主人公)、プリヘーリヤ・アレクサンドロヴナ・ラスコーリニコワ、アヴドーチヤ・ロマーノヴナ、ドミートリイ・ブロコーフィイチ・ラズーミヒン、ポルフィーリイ・ペトローヴィチ等々、ロシア語の人名はなかなか手ごわいなぁ。
・百の善行は一の悪行に勝るのか? 古くからの問いかけに対し、彼、ラスコリーニコフは英雄的で特別な人間にはその権利があると理論づける。その決行のきっかけは著しく内的なものであっても、一歩を踏み出した彼は、しかし英雄的行為の意味の消失を悟る。
・仇敵ルージンの妹への求婚を退け、家族団らんと新しい展望が開けるかと思いきや、突如、ラスコリーニコフは決別を宣告する。親友ラズーミヒンが追いかけ、二人が対峙する第Ⅳ部-4のラスト。「廊下は暗かった。ふたりはランプの傍らに立っていた。一分ほど、ふたりは無言のまま」互いに顔を見つめあう。そして無言のまま、二人の間で「ある出来事」のすべてが了解された……。電撃が走ったように「ラズーミヒンは死人のように蒼ざめた」このシーン、まるで読者を試すかのようなドストエフスキーの恐ろしい筆力が圧倒的だ。
・第Ⅴ部-1の会話劇も面白い。コンミューン、フーリエ、啓蒙と労働組合。女性の自由。そしてソーニャの美しい天性。行動するロシア知識人が主導する社会主義の幕開けが予想されるような展開は興味深い。
・馬車にひかれて死んだソーニャの父親の追善供養の席では、『この馬鹿なドイツ女』、野卑なポーランド人の描写など、ドストエスフキーはロシア人からみた異国人の表現に容赦がない。また零落したとはいえ、あくまでも「上品な家柄」を誇る母親カチュリーナ・イワーノヴナの態度はテーブルの席でも傲慢であり、出席者を「酔っぱらったとんまなロバ」「箒で吐き出さるべきバカ者たち」と呼ぶその姿はこっけいでもある。第Ⅴ部-2、追善供養の席の終末は混乱と罵声とに満ち溢れたシュールな場面となる。人の執念、思い込み、情念とはかくも恐ろしく醜いものなのか。そして次なる悲劇がヒロイン、ソーニャを襲うとは。
・第Ⅵ部-2。予審判事ポルフィーリイ・ペトローヴィチがラスコリーニコフに自白を奨めるシーンには鳥肌が立つ。「問題は時間にあるのではない、あなた自身の中にあるのです。太陽におなりなさい」「太陽は何よりもまず太陽でなければならない」(p477)
・ラスコリーニコフの「秘密」を握った50男、スヴィドリガイロフの人生もなかなか興味深い。その目的に破れて彼自ら破滅の道を歩む様はとても悲しすぎる(第Ⅵ部-5,6)。

「遠くへ行くんです」と、かたくなに自分を信用してくれる母親と対面し、ラスコリーニコフが「愛と別れ」を告げる瞬間は切ない。「で、今日はドアを開けて、見るなり、ああ、いよいよ運命の時が来たんだって、そう思ったんだよ。ロージャ、ロージャ」と呼ぶ母の声は悲痛であり、その表情も窺えそうだ。続けての妹との対峙。「そのまなざしに接しただけで、彼は妹がすべてを知っていることを直ちに悟った」 クライマックス直前の美しいシーンは、繰り返し読む価値がある。
「いったい僕は何のために生きるんだろう」と、その問いに苛まれて生き続けることこそ、人が人たりうる証である

多様な示唆に富む本作は、オリジナルな人生に身をゆだねることの意味を考えさせてくれた。少なくとも、「他人の思想の下僕」にはなりたくないな。

悪事と英雄的行為、人類の新秩序、宗教的信念、ニヒリズム、そして愛。重層的なテーマを持つ本作。時をおいてまた読みたい。

罪と罰
著者:フョードル・M・ドストエフスキー、集英社・1990年9月発行
集英社ギャラリー[世界の文学14] ロシアⅡ所収
2020年3月9日読了

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罪と罰〈上〉 (新潮文庫)
ドストエフスキー
新潮社
1987-06-09

罪と罰〈下〉 (新潮文庫)
ドストエフスキー
新潮社
1987-06-09


ついに単焦点レンズに手を出してしまった。
SIGMA 35mm F1.2 DG DN Art
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さっそくSONY α7RⅣに装着してみる。
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開放値F1.2の写りはどうか?
おお、ピント面の解像度は文句なし。Bokehも良い感じ。
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明石海峡大橋
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明石港の夕景
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星座も手持ちでこの通り。F.12万歳!
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重さは性能とのトレードオフと考えて、頑張って散歩に持ち歩こう!



事実に即して広く世界を見渡す(p4)。
本書は、視点を近隣諸国から遠くに置き、そこから見えてくる世界の実相と日本外交のあるべき姿をとらえようとする一冊であり、長年の著者の実績・実体験と相まって興味深く読ませてくれる。
停滞・沈下した平成の30年間を嘆いても仕方がない。いま、われわれにできることは何か。「日本ならではの国際貢献」とは何であるか。その実績と今後の指針が本書にはある。
・グルジア(ジョージア)、アルメニア、ウクライナ、タジキスタン。エジプト、ウガンダ、南スーダン、ザンビア、マラウイ。ブラジル、コロンビア、南太平洋諸国。そして東南アジア諸国。JICA理事長、あるいは国連大使として著者がなしえた信頼醸成と「その国の必要」に基づく「上から目線ではない」支援は、確実に日本への好感度を高めつつ、現地の人材を育成するものであり、長期的・国家的視点からどれほど有益であるかが本書から伝わってくる。
・日々、センセーショナルな、あるいは大国関係のニュースに翻弄されがちだが、小国に目を向けることで見えてくること、その重要性も理解できた。
・途上国支援で地道に実績を築き上げてきた日本。「信頼で世界をつなぐ」(JICAのヴィジョン)その姿に対し、強引ともいえる中国の「開発支援」の遣り口にどう対処するのか、あるいは、けん制するのか。難しいが克服すべき課題であるとわかる。
・「非西洋から近代化した歴史」と「西洋とは異なる途上国へのアプローチ」(p250)が日本外交の強みであり、民主主義的な国際協調体制を深化させる努力が求められる、か。

17章「『ソフト・パワー』の作り方」では、国民皆保険制度を議題とする国際会議での日本のリーダシップと著者の一日の行動が例示される。古くからの実績、確固たる組織と国際レベルの人材、財務の裏付け、トップの関与など「汗をかき、資金を出す」日本が努力によって作り出した『ソフト・パワー』の底力には感銘を受けた。勇ましい掛け声、自己顕示欲のための「血と汗」などいらない。これまでの日本らしい地道な貢献が世界中で評価されていることは実に誇らしいし、この路線を維持・拡大するべきだと思う。

世界地図を読み直す 協力と均衡の地政学
著者:北岡伸一、新潮社・2019年5月発行
2020年3月7日読了

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デモクラシー。およそ現在考えうる最高の政治形態が、その存立基盤である自由と平等を自らが脅かしつつあるという。それも歴史の必然だというのだ。いったいどういうことなのか。自由と平等を享受し続けるために、いま自分たちができることとは何なのか。
特に最終章の「デモクラシーと技術革新は人間と社会をどのように変えてゆくのか」(p298~)には啓蒙された気がする。技術革新時代におけるリベラルアーツの重要性。そして、ポピュリズム≒多数者支配の罠。「郷愁」と「憧れ」の価値(p303)。さもありなん。

デモクラシーの宿痾。すなわち「少数の受益者と、薄く広がるコスト」(まるで2020年の日本の姿そのもの)のため、財政拡大への強いドライブ(p22)を持つ。バランスの取れた政策こそ必要なのだが、閉塞した経済からポピュリズムに傾く内政、加えて多難な多国間政策がそれを容易にさせない状況にある。
・「節度ある」貿易こそは国家間の信頼関係を醸成し、相互に富を生み出す重要な道である。トランプ大統領の通商政策は18世紀「重商主義」への「先祖返り」であり、自国のみ黒字になれば豊かになると錯覚したものである(p66)。かつて英連邦諸国が反対したにも関わらずGATTへの戦後日本の加入を容認したかつてのアメリカ為政者のような、戦略的・長期的自己利益拡大の思想は彼にはない。
・ひるがえって日本。「論理的に不透明な政策決定過程」(p73)をわかりやすくすることこそ現政権に最も必要なものであり、リーダーには「責任を引き受けるということ」が求められる。さもありなん。
・世界最大のリスクファクター、一党独裁国家の中国。予想される「影の銀行」の「信用拡大」の崩壊にどう対峙するのか。歴史から得た知恵をどこまで適用できるのか。理論と実際の乖離するなか、かじ取りの難しさの際立つことが示される(p76)。きたる混乱に備えておかないと。

教育はどうあるべきか。特に大学でのそれに対する著者の意見は明白だ(第4章、第5章)。
「古典を含む人文学や社会科学の遺産をよく学び、何が自分と人間社会全体にとって価値あるものなのかを検討し、「権威」に依拠しない自らの考えをまず母国語で正確に語り説得力のある文章を書く力を養うこと」(p169)と、これは生涯学習のひとつとしても有益だろう。善く生きるために、古典と格闘し、知性と道徳のバランスを築き上げるのが、教育と経験なのだから。
・谷崎潤一郎やアダム・スミスのように、人文学と社会研究の両方が一人の人間の中で見事に溶け合っていること(p117)は理想的だな。
・「新しい人間像」の発見や創造の点で、AIが真の文学を生み出すことはない(p125)、か。
・海外からの留学生を増やすための「大学教育の英語化」を著者は痛烈に批判する。そもそも英語力の堪能な学生はわざわざ日本などを留学先に選ばない。狭い範囲の話になるが、BRUTUS 2019/3/15号(アニメ特集)で「日本語は世界のアニメ嗜好者のラテン語だ」「日本語を学ぶ若い人たちの多くは、アニメに影響を受けている」と読んだ。たしかに、日本で勉強したい学生はすでに日本語力を鍛えているのであり、文部科学省の方針には疑問が生じるな。森有礼の英語公用語論に対する福沢諭吉の反論も納得がゆく(p204)し、「強い国家の言語が広い流通力を持つ」(p206)は、その通りだと思う。

civil市民とcivilization文明。この二つの分かちがたい概念こそ、「文明がいかに他者と共存いうるのかという想像力を必要」(p217)とするかを示している。同質的な多数派が強い社会は市民社会とはなりえない。昨今の政治的な趨勢(決してマスコミでは報道されず、SNS情報による)をみていると、反対者とも共存する「公民としての知徳」がいまこそ必要とされているように思う。
・民主党政権時代の政策を著者は批判する。曰く「『官』から『民』へという掛け声のものに打ち出された諸政策は、幹部行政官の魅力を低下させ……学校秀才が公務員職を目指す意欲を殺いだといわざるをえない」(p249)と。要は「天下り」を減らせば魅力が半減と。「だから、何?」と言いたい。別に悪いことではないだろうし、本書の中でここだけは違和感が残った。そも著者の述べるように「中央から地方自治体に天下る」仕組みが確立され、これが地方自治の行政面、財政面が熟していない(p249)現われであるのなら、まずはここから是正するべきだろう。中央ではなく地方にこそ優秀な若い人材を投入するべきなのだ。これが地方分権の確立の第一歩となろう。

日本型民主主義といえども、デモクラシーのもとで生きる身だ。「未来の成形にわれわれが参与しているという意識」(p259)を持ち、「個人同士の連携」「組織的な連合」(p304)を意識しつつ、自らの知性を鍛錬することを怠らないようにしたい。
自由と平等を享受し続けるために「市民」=一般人ができることとは何か。いかなる権力や風説からも独立して、自由に考え、意見を表明する(p95)ことこそ、その答えの一つだと思う。僕もかくありたい。

デモクラシーの宿命 歴史に何を学ぶのか
著者:猪木武徳、中央公論新社・2019年6月発行
2020年2月14日読了
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神戸市と淡路島とを結ぶ明石海峡大橋。世界最長を誇るこの吊り橋は、1998年に開通し、いまも地域の大動脈として機能している。
何を隠そう、僕は開通2~3日前にこの橋を車で渡ったことがあるのだ(仕事の関係です)。
それはともかく、快晴なので明石海峡大橋(神戸側)のふもとを散歩してきた(2020.2.11)。https://hyogo-maikopark.jp/facility/f01/#ad-image-0
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■橋の科学館
内部の展示ははっきり言って技術寄り。橋梁技術に強い方は興奮するに違いない。
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■舞子海上プロムナード

明石海峡大橋のアンカレイジ内を経由し、橋の直下を少し歩くことができる。
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■孫文記念館
孫文。あまりにも偉大な「アジア最初の共和国の父」である彼の生涯とその中国と日本における足跡、日本の華僑を紹介する展示館。地元に住んでいながら、実は訪れるのはこれが初めてなのだ……。

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「巨大技術」は人類の英知の結晶。また散歩しにこよう。
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軽い感じでぐいぐい読ませてくれる、書籍好きにはたまらない一冊。
・栞子の魅力……書物を通じて人の秘密を透かし見る卓越した推理力。いや、違う。それは本当の本好き、なところにあるのだ。一冊一冊を愛でるようにそっとページを開き、微笑み、感情を深く移入し、そして自分を想う。いいな。
・個人的には第三話「ヴィノグラードフ クジミン『論理学入門』(青木文庫)」がグッときた。しのぶさんの思いやりは『論理学』を超越している。
・何事にせよ「好き」が度を超すと、迷惑となる。西野、そして大庭。せめて救われる物語があれば良いのだが。

書は人の手に渡った時から一つとして同じものではなくなる。それぞれの人生に古書を重ねて、物語は紡がれる。さて、今日も新しい書を開くか。

ビブリア古書堂の事件手帖 栞子さんと奇妙な客人たち
著者:三上延、アスキーメディアワークス・2011年3月発行
2020年1月28日読了
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1990年代後半、最貧国の債務を帳消しにするNGOらの運動が功を奏し、先進国・IMFなどの債務の90%以上が削減されるた世界的な動きが活発となった。だがその時期を見計らって、"彼ら"は活動を開始した。先進国の裁判費用の負担すら重荷となる貧困国にターゲットを絞り、腐敗した社会システムを利用して内部情報をかすめ取り、書類を偽装し、"正当な"権利を奪い取るのである。
「貧困国がデフォルトすると、ハイエナ・ファンドが債権を二束三文で買い取り、アメリカやイギリスの裁判所で訴えて判決を勝ち取り、先進国が債務削減をして多少金の余裕が出てきたところで、資産を差し押さえて回収する、と」(下巻p82)
彼らにとって現地住民の生活レベルなどはどうでもよい。これを至極普通の投資活動とする欧米人の姿には戦慄すら憶える。
・善良なNGO職員が、やむを得ない金銭上の事情によってハイエナ・ファンドに魂を売り渡し、自らの運命を暗転させてゆく様は、他人事とは思えない。
・ハイエナファンドの親玉とされる初老のユダヤ人も、一皮むけば人の親。同性愛者の息子を持ち……。運命とは皮肉なものだが、それを全肯定し、州の法律を変えてゆくパワーには凄まじいものがある。
・腐敗国家のひとつ、アルゼンチンとハイエナ・ファンドの「15年戦争」の結末も興味深い。「結局、弱い者は強い者に蹂躙されるのが、金融ジャングルの掟なのだろうか」(下巻p269)
・コンゴ民主共和国の例など、結局犠牲になるのは貧しい民衆だ。腐敗国の為政者こそがハイエナとともに共倒れするべきであろうに。
・あまりなじみのない英国の議会(15世紀以来続く慣習)や法曹界、国際金融業界の姿などもうかがい知ることができた。

ハイエナ・ファンドを率いるユダヤ系アメリカ人、あまり知られていないが、途上国債務削減のためにNGOで世界的に活躍した日本人女性など、本書の登場人物にはモデルが存在するのも興味深い。

かように世論から忌み嫌われるハイエナ・ファンド(ハゲタカ・ファンド)だが、次のセリフには共感させられた。
「まずは望んで、それに向かって死力を尽くす。これが成功への鍵ってもんだろう?」(下巻p31)
能力と野心の向ける先を、何に合わせるのかが鍵だな。

国家とハイエナ(上巻・下巻)
著者:黒木亮、幻冬舎・2019年10月発行
2020年1月24日読了

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