『切符』
みんな貧しい中での、子供のころの人間くさく切ない体験。東京オリンピックで戦後は終わったのか。決してそんなことはない。この短編の中に、浅田次郎の主張が込められているように思う。
「痩せた体じゅうの骨が、こんちくしょうと言っていた」
そして、広志少年と千香子との関係がいつまでも続くように願ってやまない。

『特別な一日』
サラリーマン人生最後の日、それをいつもの一日にしようとする男。昇格、不倫の名残り、出来の悪い部下、会社への愛着心。すべてを「いつもの立ち飲み屋」でコップ酒として飲み干す夕暮れ。
最終段、「特別な一日」の意味が明らかになる。そうなると、飲み屋での「あきらめられない」の意味も明らかになる。切ない物語だ。

『丘の上の白い家』
こころの真っ白な男。誠実で純情で、でも生き方の不器用な青春の終わりは残酷だ。少なくとも「左官屋」のように、現実が真実を追い越す最期のほうが良いな。

他に表題作『夕映え天使』、『琥珀』、陸士時代の不思議な体験を告白した『樹海の人』を収録。

夕映え天使
著者:浅田次郎、新潮社・2008年12月発行
2018年6月22日読了
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夕映え天使 (新潮文庫)
浅田次郎
新潮社
2011-06-26