1885年、ロンドンはナイツブリッジに開かれた「日本人村」。宝飾品詐欺、殺人、放火による全焼と事件は続く。合衆国出身の奥様に、アイルランド人執事、フランス人レディ・メイド、中国人コック、アメリカ黒人キッチン・メイド、、インド人フットマンと実に国際色豊かな使用人たち。「チーム・ヴィクトリア」の活躍がはじまる。
・泥水を飲んで生きてきた女。複雑さと偶然の重なりあった事件の一端が一挙に明らかにされるのは、それまでの物語の進行に比べて性急な気もするが、「……の顔が、眼の中で二重写しに滲んだ」(p251)の件は良いと思う。二重の異人の悲劇か。
・「翡翠の香炉」事件。その終着は、ギルバート=サリヴァン・オペラ『ミカド』の舞台と絡み合い、実に見事(p260)。舞台装置といい、時代考証といい、良く練られた物語だ。
・鹿之助と史郎、そして佐絵。第九章「夢の終わり、旅路の果て」の苦悩は、男ならよくわかる。裏切りに次ぐ裏切り。史郎の振る舞い(p274,288)にはグッと来たぞ。
・幻想のジャポニスムの終焉(p298)。それでもレディ・ヴィクトリアの優しさが溢れるエピローグは実に心地よい。「……善悪の外にあるものとして、ただ平安を祈るものなの」(p301)

人生に希望を持て! 篠田真由美さんの著書ははじめて手にしたが、ヴィクトリア女王の世に、瓦解した幕府の臣民=日本士族を登場させた冒険譚はとても面白かった。

レディ・ヴィクトリア ロンドン日本人村事件
著者:篠田真由美、講談社・2017年3月発行
2018年6月30日読了
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