ナチス・ドイツの傀儡であるフランス・ヴィシー政府は、ユダヤ人の子供を次々と拘束・殺戮した。終戦時に生き残った者は1万人中わずか300名という。見て見ぬふりが横行する中、パリ5区に1926年に建設された大モスク(グランド・モスケ・ド・パリ)の指導者と仲間たちが、ユダヤ人を積極的にかくまいフランス南部へ避難させた逸話が明らかにされる。

本書の全篇にわたる美麗な絵と簡潔な文章が、1946年に起きた思い事実を淡々と読ませてくれる。イスラム文化の特徴とナチスに怯えるユダヤ人の姿をよく捉えた絵がとても印象に残る。

「我が同胞よ、あなたの心は寛容である」(p29)
この心温まるエピソードはオスカー・シンドラーや杉原千畝のようにもっと喧伝されてしかるべきなのだが、アルジェリア独立戦争が「フランス白人とムスリム(カビール人)の紐帯」をまるで無かったことにしてしまう様相はとても哀しいことだ。

パリのモスクではないが、僕も2016年8月にアウシュビッツを訪問した際、言葉に表すことのできない無力化を感じた。膨大な犠牲の上に「人道に対する罪」の法概念が誕生し、われわれの世界に活かされていることを想うと、「人の力」の偉大さにあらためて敬服せざるを得ない。

THE GRAND MOSQUE OF PARIS : A Story of How Muslims Rescued Jews During the Holocaust
パリのモスク ユダヤ人を助けたイスラム教徒
著者:Karen Gray Ruelle、Deborah Durland DeSaix、池田真理(訳)、彩流社・2010年7月発行
2018年7月2日読了
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パリのモスク―ユダヤ人を助けたイスラム教徒
カレン・グレイ・ルエル
彩流社
2010-07-15