前作『日本人村事件』から1年後の1886年8月、ロンドンより汽車で数時間のドーバー海峡を見晴るかす海岸にある伯爵の別荘、アルカディア・パークが舞台となる。ヴィタ奥様とロード・ペンブルックとの確執、エジプトから持ち帰られたミイラのある噂、謎の結社『ミネルヴァ・クラブ』と、前作よりもミステリー要素が高められている。そして貶められた地位に留めおかれた淑女たちは、男性支配のイギリス社会に抗いはじめる。

・「金色の雌獅子」の異名をとるヴィクトリア朝レディ・トラベラー、ミス・ナポレオーネ・コルシ。髪はまとめず、上背も高く乗馬服の上に孔雀模様のインド更紗を纏って貴族のパーティに出席するその雄姿は、表紙画の通り。
・「暴君は老いても暴君である」の最終段、癇癪もちで謹厳な老伯爵の前で、2人のレディ、ミス・コルシとヴィタ奥様が「土埃を蹴立てて丘を駆け下ってきた姿」に一同唖然とさせられるシーンにはニヤリとさせられた(p124)。
・後半は事件が続発する。「死者は生者を呪詛するか」の深夜の図書室(p174)。あの時の伯爵の立場だったら、『ミイラ』には実が凍えるほど驚いただろうな。
・復讐のやりきれない哀しみ。せめて彼女たちの残り少ない人生に幸訪れんことを……。

華やかな貴族と社交界。ヴィクトリア女王治世の裏側の、女性たちの苦しみが見事に描かれる。それだからこそ、毎日を生きることに意味がある。
「守るべきものは守る」(p240)
おおっ、素晴らしき明日とわれらがレディに「乾杯!」

LADY VICTORIA : THE MYSTERIOUS MINERVA CLUB
レディ・ヴィクトリア 謎のミネルヴァ・クラブ
著者:篠田真由美、講談社・2018年6月発行
2018年7月7日読了
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