同窓会に出かけたはずの夫が、会場にたどりつけずに戻ってきた……。夫婦の『長いお別れ』の日々は静かに始まった。
アルツハイマー病、それが年々ひどくなりゆくとき、彼あるいは彼女とどうつきあうのか。本書は日常に重い課題を投げかけてくれる。

・「ねえ、お父さん。つながらないっていうのは……」(p153)は母の本音。そして次女が、母の本当の労苦を確かに識るシーン(p209)はとても切ない。
・忘れるということ。それでも夫は妻が近くにいないと不安そうに探す(p259)。「確かに存在した何か」の件にはグッときた。

自分が「その立場」ならどう振る舞うだろうか。母と三姉妹、孫たちの中にヒントはあるだろうか。そして「その時」までのQOLを考えるとき、それが確かに家族や友人の「絆のかたち」であるなら、とても幸せな人生を送れたと言えるのだろう。人生のターミナルはかくありたいと願い、温かな気持ちで書を閉じた。

長いお別れ
著者:中島京子、文藝春秋・2018年3月発行
2018年7月12日読了
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長いお別れ (文春文庫)
中島 京子
文藝春秋
2018-03-09