「あなたは、王になって、旅に出なくてはならない」(p27)
唐突。あまりにも唐突な、マカオのホテルでの娼婦の宣託が、38歳の独身ビジネスマン、中井優一の疲れた身体に染み渡ってゆく。「北の国」の亡命王子から持ちかけられる取引、謎の幽霊子会社の存在、そして、過去の憧れの女性、鍋島冬香。
旅の意味とセキュリティ・コードをキーワードに、香港、マカオ、ホーチミン・シティを巡る冒険譚は、ページをめくるたびに興奮させられる面白さだ。そうか、香港のオクトパス・カードはEDYだったのか。

・自身の存在意義を守るためなら、人は、企業は、どんな所業でも行う。暗号化方式のセキュリティの欠陥と親会社への還流資金の流れをつかんだ中井は、自身の存在を護るため、ある行為に出る。二泊三日の亡命劇。王になるために「一線」を超えたとき、人はどう変化(へんげ)するのかをみせてくれる。
・「誰が誰を監視しているのかさえ、絡み合ったスパゲティみたいで分からなくなっている」(p584)
・高校一年の入学式からはじまる戯曲は恩讐に彩られている。顔と名前が変わっても、その恋しい後ろ姿は懐かしく、次々と物語の謎は解かれてゆく。

「旅を続ける力って、何だろう?」(p517)著者の答えは明快だが、誰もが異なる解釈をもって人生の旅を続けている。
カーテンコール「収音機時代」での二人の女性の哀しすぎる邂逅も、その旅のこたえなのだろうか。

未必のマクベス
著者:早瀬耕、早川書房・2017年9月発行
2018年8月12日読了
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