東京から群馬県高崎市に戻ってきた宇田川静生、三十代独身神主見習いの仕事と長期アルバイトに人生を削る日々の中、東京出身の工房経営者と出会う。自由で奔放な生活は憧れでもあったのか、宇田川はその空気に馴染むが……。
地方都市の美しさと、そこで生き抜くことの厳しさを、緩急ある文章で味わえる。

・木工職人・鹿谷氏の工房で集う愉しみ。高校の後輩・蜂須賀譲との淡い関わり。地元での新鮮な出会いと期待は大きくなるばかり。
・神職、そして人生設計の問題。犬の形をした絶望(p98)。どこかで狂ってしまった歯車は、そのまま回り続けて……。
・「まだこんな時間だからこそかれは、夜をやり直すことができると思ったのだった」(p115)
・手にしたと思ったものが壊れてゆく瞬間は、確かにある。後半のドラマチックな展開とスピード感が素晴らしい。

考えて、考えて、「過去が過去になっていく」(p268)。これって、つまり漸進ってことだ。
人へのたゆまぬ対峙が人生を形づくってゆく。納得の谷崎潤一郎賞受賞作だ。

薄情
著者:絲山秋子、河出書房新社・2018年7月発行
2018年8月26日読了
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薄情 (河出文庫)
絲山秋子
河出書房新社
2018-07-05