1937年の東京。女学校を辞めて音楽私塾での女中奉公にいそしむ波津子は、ふとしたことから『乙女の友』編集部に雑用係の職を得る。不慣れな会社員生活。理解を示さない同僚。孤独感と辞意。それでも思いとどまることができたのは、幼馴染から譲り受けたフローラゲームのカードと『乙女の友』への熱い思いだ。それが、編集部員見習いとなるチャンスを呼び寄せて……。一方で戦局は熾烈を極め、1945年に向かって出版環境は厳しくなってゆく。
運命を時局に左右されるは庶民の哀しき定め。だがそれが一度きりの人生の礎となるなら、懸命に生きるしかない。

・マルチアーチスト・長谷川純二(中原純一)の表紙画と挿画を目いっぱい散りばめた『乙女の友』(『少女の友』)誌。長谷川の才能を見いだして大抜擢し、自らの詩へのイラストも任せた編集主筆、有賀憲一郎(内山基)。銀座にビルを構える大和之興業社(実業之日本社)社長と個性的な編集部員たち。川端康成や吉屋信子をモデルとした作家陣。愛読者の集い「友の会」(「友ちゃん会」)。そして昭和13年1月号附録・60枚の花占いカード『フローラゲーム』(『フラワーゲーム』)など、当時実在した華やかな世界観が本書全体に散りばめられている。一方で、楽しい誌面を世に送り出す労苦は並みのものではないことも理解できるようになる。
・「泣いてはいけませぬ」ヒヤシンスのカードの「言の葉」に何度も心を奮い立たせる波津子。縁(よすが)とするものは大切だ。そして、この「言の葉」が繰り返される昭和20年の地獄絵図の展開(p402)には圧倒された。
・子どもから大人になるわずかな期間、美しい夢や理想の世界に心を遊ばせる(p181)、「こんな時代だからこそ、少女たちには美しい夢を」(p111)、この有賀の信念は軍部や内務省の圧力を当初は跳ね除けるが……。
・『フルーツポンチ大同盟』が抜擢される怒涛の展開(p196~)ではワクワク感を楽しめた。「すがる思いで美蘭を見る。美蘭が横を向いた」(p200)は新人作家にとっての厳しい現実だ。
・有賀、社長、上里編集長の緊張しつつも、互いへの想いに溢れた「男の世界」も、本書の魅力を最大限に引き出している。「いや、ここにいる。君が先走ったことをしないと、確証が持てるまで」(p223)。うん、良い。
・「永遠に慕い続ける思い」(p229)、有賀憲一郎への波津子の淡い思いも、本書が大切にするひとつだ。
・やれなくても、やってやる!(p265)
・東京大空襲による銀座の消失。それでも、希望を捨てないことの強さ(p382)。
・「友へ、最上のものを」(p334) エピローグは涙が止まらない。

勇気づけられるエピソード満載。

「遅れてきたのですが、僕たちもまた『友』なのです」(p437)、最良を目指す精神は時代を超えて受け継がれる。この、読者に向けての著者のエールを胸に受け取り、感謝とともに書を閉じた。

彼方の友へ
著者:伊吹有喜、実業之日本社・2017年11月発行
2018年9月18日読了
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彼方の友へ
伊吹 有喜
実業之日本社
2017-11-17