退役海軍提督を祖父に持ち、ウォールストリートの金融業界に努めるエリート・アメリカ人青年ラリーは、プロポーズした恋人に「日本をみてくること」を告げられる。京都、大阪、別府温泉、そして東京。見知らぬ日本の姿に一喜一憂しながら、ラリーは旅路の果てに何をみるのか。
著者ならではのユーモアとペーソスを楽しめる一冊。

・スマホやPCを持たない、往年の旅のスタイル。これは一度やってみたい。
・旅先で出会う人々。京都で一目ぼれした和装の女性と関係を結び、夜の大阪城を見上げながら旅のオーストラリア人と日本文化を議論し、"地獄"で温泉滞在20年の老アメリカ人と哲学を語る。アメリカ式生活を良しとする商社マン家族の孤独な少年とその母親に己の姿を映し出す。一期一会。
・やがてラリーは北海道・釧路へ向かう。ただ、丹頂鶴の舞う姿を求めて。そこで思わぬ人と出会い……。
・ラリーの祖父の言動には重みがある。「人間はみな、地球というバトルシップのクルーだ」(p133)として、普段見かけない老人ホームレスに躊躇せずに施しを与える。その貴い意識こそが軍人であることを許される所以か。こういう男を共に持ちたい。

ひとり旅。それは自分の過去を振り返ることであるが、著者は「大きな愛を知ること」でもあると解釈する。
釧路での"発見"はやや安直な気もするが、そこは御愛嬌か。

わが心のジェニファー
著者:浅田次郎、小学館・2018年10月発行
2018年10月23日読了
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