本書は、蒸気機関が船舶に応用された19世紀前半を嚆矢として、巨大なオーシャンライナーをはじめとする外航客船の歴史を取り上げる。興味深いのは平和時の姿だけでなく、19世紀からの戦争に利用されてきた側面も描かれていることである。
見知らぬ土地への好奇心(p1)。それは誰しもが持つものであろうが、本書を読み進めると、イギリス国民のチャレンジ力と、それが生み出した大英帝国の国力の膨大さに圧倒されてしまう。

・北大西洋定期航路、P&Oラインなどの東方路線、ブリティッシュ・インディア、太平洋路線、欧州・アフリカライン、日本の船会社を含む南米航路、フランス・ドイツ・イタリアの船会社と造船業、二度の世界大戦と戦後など、本書は幅広く客船を扱う。
・北大西洋航路を中心に客船の大型化、高速化は進化の一途を遂げる。蒸気機関を完成の域に昇華させたイギリスを筆頭に、フランス、アメリカ、ドイツ、イタリアが追い上げる構図はすごい。
・『グレート・イースタン』(p62)『オリンピック』『タイタニック』『ブリタニック』(p53,298)『エンプレス・オブ・インディア』(p162)『日本丸』(p172)『バルモラル・カースル』(p193無線電信器)『浅間丸』『秩父丸』(p336)等、後世に名を遺すスター・シップの誕生の経緯とその雄姿には、実に興味深いものがある。
・P&O、ホワイト・スター・ライン、キュナード・ライン、パシフィック・メール・ライン、日本郵船、大阪商船、東洋汽船、等々。各船会社の経営と「人」も紹介される。東洋汽船を率いた浅野総一郎はすごい人物だったんだな(p170,308)。
・初期の蒸気レシプロエンジンから蒸気タービン、ディーゼル(p234)、ターボエレクトリック推進(p365)、そしてディーゼル電気推進(p375)へ。機関の変遷だけでも面白い。
・日本の客船が戦火をかいくぐってきた哀しい運命を識ると、実に感慨深いものがある。横浜に係留される『氷川丸』は豪華だったが、今度は違う目で観てみようと思う。
・「当時の日本では船殻製作技術はあったものの、船内装飾のノウハウ~は高くなかった」(p339)というのは、現在でも変わらないと思う。
・船の歴史に海の男あり。本書では船会社、造船会社の経営者を中心に様々な人物像が取り上げられているが、現場の船員については戦時下の『コルンブス』の船長(p391)を除いてほとんど触れられていない。また別の機会にってところだろうか。
・インド、南アフリカ、インドシナ、オーストラリア。客船の航路に付随するのは「内地と外地」「宗主国と植民地」の関係だ。本書は客船・航路の観点から欧米侵略史観が述べられる(p142、p184インド大反乱、北清事変、ボーア戦争、スーダン事変等)。それにしても、19世紀から20世紀初頭は、一個人の熱意と働きが国をも動かす時代だったんだとわかる(p206西アフリカの逸話)。

著者は大阪商船(株)を経て九州急行フェリー(株)の社長を務めた「海の男」だ。それだけに「船」』一隻一隻への思い入れの深さが紙面から伝わってくる。
日本においても造船業が衰退して久しい。それでも「客船」の夢は消えることはないし、こんにちでも往時の航海の様子をクルーズで垣間見られる。本気で「客船」に乗ってみたくなった。

それにしても、20世紀になって登場した豪華客船『ノルマンディー』『クイーン・メリー』『ユナイテッド・ステイツ』は、モノクロ写真だけで見ても実にほれぼれする姿だ。一度で良いからこの目で見たかったな。(と思ったら『クイーン・メリー』がロングビーチに係留されているそうな。出かけようか。p387)

The History of Ocean Liners
客船の世界史 世界をつないだ外航客船クロニクル
著者:野間恒、潮書房光人新社・2018年11月発行
2018年11月27日読了
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