『上海』で興味を抱いた新感覚派の旗手、横光利一の作品集を読んでみた。代表作『機械』をはじめとする大正・昭和初期に発表された17の中短篇を収録。日本に定着しなかったとされるモダニズム文学だが、なかなかどうして、斬新で興味深い文体と内容だった。
・『セレナード』は、婚約者のふざけ合いを通じての心の機敏を描く一品。夏の豪華ホテルのパーティ会場、バルコニーと庭園、シガーの煙、上空を行く飛行船の爆音(p63)など、テンポの良い会話と相まって、大正・昭和の失われた光景が目前に浮かび上がる。
・デパートオーナーの息子が活躍(?)する『七階の運動』から無職貧困者の『街の底』まで、多様な階級の視点で現代社会を切り取る。どの作品もダイナミズムに満ち溢れているが、なかでも『街の底』の、貧しい場に、より貧しいものが頼って集う描写はとても痛ましい(p145)。
・『機械』はセンテンスが強烈に長いが、リズム感が生まれて、かえって読みやすく感じた。でもこの文体は流行しない=著者のひとつの実験なんだろうなぁ。
・『薔薇』 上海、東京、分厚い手紙、友人の妹かつ人妻への、押さえていた愛情の爆発。嫉妬感を抱きつつも、主人公自身と友人の立ち位置を客観的にとらえる描写が興味深い。
・『榛名』は、湖を望む旅館での一泊。様々な旅の人々の様相、刻々と姿を変遷させる自然の描写が、流麗な文章と相まって実に心地よい読書感を味わえた。情景と人情がすっと身に染み入る感覚とは、これか。

どの作品にも1920年代の薫りが漂い、興味深く読み進めることができた。触れる機会の少ないモダニズム文学を身近にしてくれる一冊だと思う。

セレナード 横光利一モダニズム幻想集
著者:横光利一、長山靖生、彩流社・2018年11月発行
2018年12月6日読了
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