最盛期の大英帝国を統率したヴィクトリア女王。その出生、ケンジントンでの生育、戴冠、アルバートとの邂逅・結婚と死別、そして晩年。彼女の人生の節目節目における当時の社会状況が解説されるなど、本書はヴィクトリア朝と帝国の年代記となっている。女王の日記、愛娘との往復書簡に加え、カラー図版が多数掲載され、当時の王室を知る一級資料でもある。
・旧来の貴族政国家から先進工業国へ。立憲君主制における君主と議会という二つの存在を、若き女王は賢明に理解する(p102)。
・印刷技術と写真術の発達と大衆紙の発刊は、王室一家のニュースを大衆にもたらす。精力的な女王と聡明な夫、それに9人の子供たち。それまでの放蕩な王室と異なり、中流階級の理想とも言えるべき家庭像がそこにあった。
・なんといっても第七章「一九世紀中頃」は圧巻だ。アルバート公の能力がフルに発揮された時期であり、1851年の第一回万国博覧会の大成功は、王室の権威を最高潮に高めることとなった。この成功が、ハイドパーク南側のV&A博物館をはじめとする各種文化施設の設立の礎となる。あと、万博のための「王立委員会」が存続しているとは知らなかったぞ(p226)。
・最愛の夫アルバートと死別して以降、生涯を喪服で過ごした女王。40歳台にしてすでに60歳台の風貌を持つに至った彼女は実に不憫だ。ただ「臣民も自分と同じように長期間を喪に服すべきだ」との考えには、国民は辟易していた様子。
・女王はドイツ人だけでなく、特に晩年はインド人を側近にするなど、出生や人種にこだわらずに接したのは意外だった。この姿勢も、他国と違って君主制に安定をもたらした一要素と思われる。
翻訳文も非常に読みやすく、ヴィクトリア女王と彼女の治世を知るに最適な一冊。

VICTORIA : A CELEBRATION OF A QUEEN AND HER GLORIOUS REIGN
図説 ヴィクトリア女王 英国の近代化をなしとげた女帝
著者:Deborah Jaffe、二木かおる(訳)、原書房・2017年9月発行
2019年1月21日読了
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