1935年、小さな作家ブライオニーの創作から物語は始まる。久しぶりにロンドンより帰郷する兄のため、客人として招かれた従妹たちをキャストに自作劇の上演を計画するが、ふとしたきっかけで放棄することとなる。
延々と続く情景描写から一転、ロビーの「誤った手紙」を持ったブライオニーが屋敷の扉を閉ざしたとき、物語は突然に動き出す(p161)。「あの言葉」「タイプ文字四つの悪魔」(p194)が13歳の想像力たくましい少女に襲い掛かる。
親愛なる姉セシーリアと幼馴染というだけの使用人の息子、ロビー。男と姉が急接近する中、その「事件」を目撃したブライオニーは決意を行動に移す。それがどのような結末をロビーの人生にもたらすかを深く考えもせずに……。

・第一部はロンドン南東部サリー県にあるタリス邸での長い一日が、主要人物の意識の流れをもって描写される。ブライオニーの成長、すなわち末娘の子供時代の終わりに寄せる母親の思い(p257)にはぐっときた。
・ブライオニーの思春期は不安定な危うい時期でもあったのだ。ああ、思い込みの恐ろしさは犯罪的ですらある。
・第二部はロビーの視点から物語が進められ、第一部とは違って動きのある描写だ。6年前の出来事、川べりで演じられたブライオニーとロビーのドラマの回想(p390)。戦場にあってはセシーリアのたった一言が生き抜く糧となるのだ。
・第三部。ロンドンはテムズ川沿いの聖トーマス病院に、見習い看護師として忙しく働く18歳のブライオニーがいた。大学進学をあきらめ、だが作家としての自分を忘れず、おまるやシーツを洗う毎日。正看護師となった姉のセシーリア同様、家族とはほぼ絶縁状態に身を置くことで、彼女は何を思うのか。オランダとベルギーが降伏し、ドイツ軍がドーヴァー海峡に迫るとき、彼女は思いを強くする。「自分は許されざる存在なのだ」(p473)
・突然戦場と化した病院で患者の「旅立ち」にブライオニーがひとりで直面するシーン(p515)。そして姉の言葉(p561)。その筆力には恐れ入った。

神の視点と人間の思い。「最後の善行であり、忘却と絶望への抵抗」(p618)ラストの展開には涙腺が緩むのを禁じえなかった。小説はこうでなくっては!

Atonement
贖罪
著者:Ian McEwan、小山太一(訳)、新潮社・2019年1月発行
2019年2月2日読了
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贖罪 (新潮文庫)
イアン マキューアン
新潮社
2018-12-22

つぐない [Blu-ray]
キーラ・ナイトレイ
ジェネオン・ユニバーサル
2012-04-13