グレート・ウォーが終了して間もない1920年、平和への強い希求が結実しつつも、帝国主義を内在させて発足した機関、国際連盟。
本書は東アジア=中国への集中的な技術援助をテーマに、イギリス帝国および日本帝国の既得権益領域への国際連盟の「進出」が引き起こした混乱と、国際秩序の変化を検討する。また、国際連盟を事実上一国で支えたイギリスの姿勢の変化にも着目する。
中国大陸、特に上海に多大な既得権益を有していたイギリス帝国にとって、また彼の地への進出を画策する日本帝国にとって、中国へ「支援」の手を差し伸べようとする国際連盟の姿は、それぞれいかに映り、どう対応したのかが解説される。
・国際連盟といえば、日本が脱退を宣言する強烈な場面が印象深いが、本書を一読すると、それも仕方のなかったことと理解できる。例えば、事務次長という要職に日本人を置きながら、その存在をほとんどスルーし、まともに分担金すら支払わない中国に対する経済「援助」(連盟は"協力"と表現した)に積極的な保健部長(ユダヤ系ポーランド人)の姿は憤慨ものだし、対中「協力」に傾く事務総長の姿も面白くない。またこの時期、イギリスが労働党政権であったことも不幸であった(第二章)。
・保健衛生、労働、教育、農業、交通など、純粋に技術的とされた援助が、やがて政治的な性格を帯び、常任理事国の日本をスルーし、分担金の納付を10年も滞納する中国への欧米系連盟幹部の肩入れが明らかになる。「ほとんど盲目的に支那に特恵的待遇を与へん」とする(p76)との杉村事務次長の批判は妥当だろう。一人の国際官僚(保健部長)が、職務を逸脱して排日的活動を自由に行う様は、きわめて不快なものに映る。
・国際連盟の理念である和平、国際協調を常任理事国である日本が自ら破壊し、世界の信用を失っていったことに対し、したたかな外交戦術で臨時非常任理事国の地位を確保するに至った中国の手腕はあっぱれというべきだろう(第五章)。また現在の国際連合と異なり「事実上、ひとつの国に資金を注ぎ込む」(p150)連盟の体制を最大限に利用したのも中国だ。本当にしたたかだ。
・WHOもUNICEFも、原案(例のポーランド人が作成した)は戦勝連合国のみを対象としていたんだな。それをアメリカが日本、ドイツを含む「世界」を対象に修正したとある(p244)。

日本が脱退したことをいいことに、日中戦争期の国際連盟では、黄河の堤防に対する事実無根の爆撃非難(イギリスは中国が破壊したと知っていた:p173)やら、連盟規約を最大限に活用しての日本非難決議(p175)など、中国のやりたい放題。日本は連盟を脱退するべきでは無かったのだ。これが、本書を読んでの素直な感想だ。

国際主義との格闘 日本、国際連盟、イギリス帝国
著者:後藤春美、中央公論新社・2016年5月発行