20世紀のプラハ・ベルリンと21世紀のロサンジェルス。子供の世界から大人の領域へ踏み出そうとする、時代を超えた二人の少年の冒険。その奇跡の邂逅が魔法を現実のものとする。
・モシェの人生最初の試練=母親の静かな旅立ちのシーンでは思わず涙した。そしてページをめくると「永遠の愛の魔法」ときた。やられた(5章、6章)。
・人生の変わる一瞬は存在する。錠前師に連れられて観たサーカスの公演は、モシェに決意を促した。父を置いて家を出てサーカス団を追ってプラハからドレスデンへ、小さな者の大きな冒険(11章)。泥と酔いの中で授けられた名前こそ、ザバティーニ(p160)。
・モシェとマックスの出会いと再びの邂逅はとてもユーモラス(18章)。自宅の前に眠る大魔術師の姿には驚かされただろう。「ピエロがいるの?」(p187)にはニヤリとさせられた。
・サーカス団からの脱出。そして「非理性の街」ベルリンでモシェ青年=大ザバティーニはめきめきと頭角を現す。ナチス突撃隊の幹部までが彼のサロンに出入りするようになる。
・ホロコースト。この、人道に対する極めて非道な罪状のもたらした惨禍を語るには、言葉はいくらあっても足りない。モシェにとっては「アーリア人の末裔、大ザバティーニ」として目撃した「水晶の夜」が、顕現された恐怖であり、忘却の対象でもあった(p264)。そしてユダヤ人モシェを「真夜中の訪問者」が訪れる……。
・ゲシュタポに連行されて拷問され、その挙げ句に……。モシェが見せられた凄惨な光景も、優しかった隣人の豹変もキツイ(p306)。
・「カディーシュ」を唱える者(p390)。こうつながっていたのか。

そして披露される愛の魔法。アウシュビッツ強制収容所で行われた奇術が魔法を生む。33章「トランク工場」には涙した。時空を越えた絆の奇跡。これぞ愛の魔法か。
会話はウィットに富み、シリアスな場面ではたっぷり涙を誘ってくれる。信じられないほどグータラなモシェ老人だが、彼の言葉には大いに同意させられた。「〇、信じるなら、〇のままで終わらない」(p192)
時代を越えて二つの人生が交錯し、ひとつの終着点=感動へと結実する。これぞ著者の魔法なんだな。

Der Trick
トリック
著者:Emanuel Bergman、浅井晶子(訳)、新潮社・2019年3月発行
2019年4月18日読了
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トリック (新潮クレスト・ブックス)
エマヌエル ベルクマン
新潮社
2019-03-29