夏目漱石と同時代、単身でアメリカ、パリ、ロンドンに渡り、苦節十年の末、独特の水彩画がブレークし、"霧のマキノ"としてイギリス美術界、社交界に名を馳せた人物がいた。霧の画家、牧野義雄である。
本画集では、牧野のロンドン時代の作品を中心として紹介される。また、第二巻にはパリ、ニューヨーク時代の作品も含まれる。
・『ピカデリー・サーカスの夜景』:夏の夜だろうか、まだ薄明るい中に立ちこめた霧が電灯に照らし出され、エロス像と馬車が広場を行き交う人々を引き立てる。一番のお気に入り。
・『ハイドパーク・コーナー』:霧に灯が浮かび上がるハイドパークの夜の闇。それでも馬車と人の群れは絶えることがない。ヴィクトリア時代からエドワード時代にかけての大英帝国の活況が画面から溢れ出てきそうだ。
・『月夜のヴィクトリア・タワー』:雲に月光が反射し、薄明るい夜に国会議事堂の黒いシルエットが浮かび上がる。灯りの下に佇む(たぶん)若い女性は、ウエストミンスター・ブリッジの向こう側から来るはずの良人を待っているのだろうか。ムード溢れる一作だ。
・『ヴィクトリア・アンド・アルバート博物館』:霧の満ちたサウス・ケンジントンの一角で、宵の中に歩む貴婦人達は、鑑賞したばかりの質の高い芸術をたたえ合っているのだろうか。後期印象派の影響が感じられる一作だ。
・『凱旋門』:よくある全景を描く構図ではなく、凱旋門の部分を切り取り、夜の通りの雰囲気を醸し出した作品となっている。

漱石と同時代の牧野義雄、その作品の魅力を堪能することができた。

DSCN4215
DSCN4217

牧野義雄画集
牧野 義雄
雄山閣
2007-10