文化薫る上野の地、特に図書館を熱烈に愛する喜和子さん。小説家志望のわたしは、"奇天烈"な装いをして「あらやだ」を口癖とする自由奔放な彼女から、帝国図書館を主人公とする小説を書くように求められる。
作中作「としょかんのこじ」を手がかりに、喜和子さんの生涯を追いかける物語と、樋口一葉、宮沢賢治、淡島寒月、和辻哲郎、吉屋信子、中條百合子ら著名人や数々の著作、さらには上野動物園の動物までもが活躍する小説『夢見る帝国図書館』が併行し、交錯し、その最後に行き着く先は……。
・大学名誉教授と藝大生、「どんぐり書房」の店主、ホームレス彼氏。喜和子さんの知人が集い、彼女の人生と帝国図書館の関係が少しずつ明らかになってゆく。
・この国の女性にとって、至極封建的な家庭から解放されるということ。本作の根底に流れるテーマは深い。
・母と娘、そして家族のかたち。「あのね、ずーっとそうだったの。あたしの人生。ずーっとそうだったの」(p174)

自分のなりたかった自分になるということ。ウングリュックリッヒ(p215)な「女の子の一生」は最後に寿がれる。

最終章。帝国図書館と「小さな女の子」喜和子さんの物語は「発見」され、幕を閉じる。「バラック小屋の思い出」は最後になって涙を誘う。そして彼女を寿ぐ「祝祭」(p400)、人生の終わりにこれほど良い言葉はないだろう。感動を禁じえないままに書を閉じた。
時をおいて、また読みたいと思わせてくれた一冊となった。「いつか、図書館で会おう!」

夢見る帝国図書館
著者:中島京子、文藝春秋・2019年5月発行
2019年6月1日読了
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夢見る帝国図書館
中島 京子
文藝春秋
2019-05-15