2009年のルーブル美術館展で『大工ヨセフ』に魂を釘付けにされたのを覚えている。あれこそ、芸術に触れる悦びではなかったか。その会場であった、選りすぐりの作品が揃えられた国立西洋美術館の常設展こそ、鑑賞する価値が高いと感じたことを今も思えている。そうか、あれらこそ、松方コレクションであったか……。
本書は、「日本にほんものの西洋美術を。しかも傑作を展示して見せてやるんだ」(p351)との情熱に、そして壮絶な使命感に生涯を費やした男たちの物語である。
・凱旋門を見上げ、シャンゼリゼを眺め、パリの街を呼吸する。不羈の人、ナポレオン・ボナパルトを思えば、そこに松方幸次郎がいる。いま、この瞬間を松方とともに生きている自分が、歴史の一部になるであろうとの予感を抱く田代雄一の気持ちが、痛いほどよく伝わってくる(p196~198)。
・「風の行方を追いかけるようにして……」(p299)クロード・モネの"庭"で、老画家と松方、田代の邂逅するシーンは秀逸だ。
・パリジャン、パリジェンヌが行き交う宵のカフェテラスで、田代が松方に打ち明ける"タブローへの情熱"。「とても幸運な、幸福な愚かもの」(p205)。と言うが、家族の軛と経済的苦境を打開し、政府の援助まで授けられることになったのは、まさにその情熱によるもの。これほどの熱意があって、なるほど、事が成し遂げられるんだとわかる。「タブローへの熱狂」(p206)。そして松方の身の上話がはじまる展開はすばらしい。
・第9章からの日置釭三郎の物語は一気に読ませてくれる。そして宵のカフェテラスで、静かに対面する日置と田代の姿が浮かび上がる。日置にとって松方からかけてもらいたかった言葉(p428)。それを口にする田代こそ素晴らしい!

情熱と使命感。それらはすべてを突き崩し、歴史を造りなすもの。最高の男たちの生き方(スタイル)に魅せられてしまった! もういちど、「国立西洋美術館・フランス美術松方コレクション」に足を運ぼう!

La liste des lumieres retrouvees
美しき愚かものたちのタブロー
著者:原田マハ、文藝春秋・2019年5月発行
2019年6月11日読了
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