南アフリカ戦争にかろうじて勝利し、第一次世界大戦が勃発するまでの狭間、日本では日清戦争と日露戦争の間にあたるエドワード朝英国のロンドンに公使、大使として長期滞在し、彼の地の有力者との人脈を築いた大日本帝国第24代首相、加藤高明。本書は、加藤が当時の英国の社会・政治情勢を幅広く見聞した経験に基づき、その概観したところを日本のそれと比較しつつ述べた「時事新報」紙の1912年の連載記事とともに、国家学会および慶應義塾での講演を収録する。
・英国人の長所が数多く述べられるが、その本質は、彼らが"個人の自由"とともに"秩序とオーダー"を重んじることにあり、これが加藤の理想とするところとみえる。
・議会政治、ロイド・ジョージ首相の「人民予算」、婦人参政権運動、国防、民主主義、タイムスに代表される第一級の新聞記者の品格、労働問題、社会主義勢力への応対の仕方、手紙を書く習慣など、話題は多岐に渡る。晩餐会・夜会・舞踏会への言及も興味深い。
・貴族制社会と四民平等の考察には考えさせられた(p172)。分相応が一番か。
・英国人は、その目的の達すると否とにこだわらず、自己の職務と決めたことについては勉励して決して怠らない美質を備えている。日本人も見習うべしとある(p129)。これは世界規模で公式・非公式の植民地帝国を築き上げた彼らの気質に通じるところがあるな。

ブリティッシュ・マインド。明治の国難を切り抜けた大人物の英国観は参考になったし、おおいに鼓舞されたようにも思う。ただ、加藤高明の負の遺産として、第一次世界大戦後、英国の利権を十分に知りつつも、あえて対華二十一か条要求を突き付けて英米に強い警戒心を抱かせ、ひいては日英同盟の終焉を招いたことを思うと、残念でしかたがない。

滞英偶感
著者:加藤高明、中央公論新社・2015年2月発行
2019年6月16日読了
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滞英偶感 (中公文庫)
加藤 高明
中央公論新社
2015-02-21