アーネスト・ヘミングウェイと、彼の『日はまた昇る』の主人公ジェイクの足跡を求め、現代のパリを歩く、見る、味わう。数多くのアメリカ人ボヘミアンが芸術談議に花を咲かせる左岸のカフェ、いまも変わらぬ緑の輝きを提供してくれるリュクサンブール公園、モンパルナスの輝き。そして、昼日中の喧騒が嘘のように静まり返ったオペラ・ガルニエの夜。「彼ら」の足跡を追ううちに、1920年代のパリに没入する心地よさを愉しめる。
・戦間期パリにおけるヨーロッパ文化の薫り。それはアメリカから一人の若者を惹きつけ招き寄せることとなる。22歳のヘミングウェイは新妻を伴って新聞記者としてこの地にやってきた。昼間は記者として右岸=表のパリで働き、夜は作家になるという野心を静かに燃やし、左岸のカフェに居場所を据える。有象無象の芸術家との出会い、そして街の空気が、シングルモルト・ウィスキーのように、ゆっくりと作家の魂を熟成させる。
・モンパルナス、カルチェ・ラタン、サンジェルマン・デ・プレ、セーヌ河のほとり。ヘミングウェイがいたパリが現在でも健在なのに少なからず驚かされた。次のパり旅行ではぜひ訪れてみたい。
・ヘミングウェイの手にかかると、一片の新聞記事ですら文学作品に昇華される。セーヌ河の描写は見事だ(p48)。
・不夜城のパリ。その夜をセーヌにかかる橋を眺めずしてパリを去るのは惜しい(p95)とは、まさにその通りだと思う。

旅に必須ではないが求められるもの、それは好奇心のエネルギーだ。1920年代から100年近くたった今でもそれは変わらない。僕もそのエネルギーを失わないでいたいと思う。

ヘミングウェイのパリ・ガイド
著者:今村楯夫、小学館・1998年12月発行