国境をたやすく越えられる時代に生き、その恩恵を享受する日々の中、毎日のように報道される国家間紛争、内戦とその影で絶命する無数の人々の声なき声……。
そもそもナショナリズムとは、国民国家とは何なのか? その発祥の地とも呼べるフランス、ドイツ、連合王国の地政学的経緯と国民概念の違いが明らかにされます。
「ドイツ語を話すドイツ人」がドイツ国民の条件であるのに対し、自由・平等・博愛(友愛)の精神を有し、フランス領生まれである者は無条件にフランス国民となるのです。この違いが、サッカー・ワールドカップのメンバー構成に現れます。(フランスチームは金髪ラテン系、北アフリカ系、メラネシア系有り、ドイツチームは全員がゲルマン民族)
フランスの特徴とも呼べる啓蒙文明主義は、18世紀に欧州の国家体制の変革をリードした一方で、それがやがて植民地主義に転じようとは、1789年当時には予想すらできなかったでしょう。まさに歴史の皮肉といえます。
連合王国(ブリテン)の場合は「外に帝国、内にも従属国家」を抱えるイングランドの場合、世界帝国を維持している間は内政も安定しますが、帝国が瓦解するに従い、アイルランドを筆頭にスコットランド、ウェールズの自治・独立の動きも激しくなります。しかし、危機的状況になる前に、EUに加盟したことにより「三重のアイデンティティ」すなわちEU、連合王国、アイルランドのおのおのに属することとなり、かえって国内政治が安定したことが明らかにされます。
より大きな連合体に属することで、ローカルが安定するとの逆説。近い将来の東アジア、特に中国の動向を考える上で、参考になりました。
国民国家とナショナリズム
著者:谷川稔、山川出版社・1999年10月発行
2005年12月20日読了