実は、サン=テグジュペリの作品は初めてだ。米米クラブの「浪漫飛行」のイメージも重なり、前向きかつ楽天的な、寓話「星の王子さま」みたいな作品像を勝手に浮かべて読み始めた。
読み終えて、嘆息が一つ。仕事をする男の、厳しい世界がそこにあった。行動こそがすべて。
人間の幸福は自由の中にはない。それは義務の受諾の中にこそあり、仕事に裏打ちされた力強い生活だけが、価値ある生活だ。
そして緊張した意思だけが獲得できる自己超越こそ、尊いものであるとされる。
この作品の舞台は1920年代のアルゼンチンだが、まるで現代のサラリーマン社会と同じではないか。
それにしても潔い生き方だ。仕事を終えて「よし、これでいい」、疲労感、哀しみ等の感情を押しのけ、「私の人生はこれでいい」といってのける。
悪天候のために部下を死なせ、なおかつ、次の飛行を命じる飛行郵便会社の支配人こそ、本当の強さを知る人物だと思う。
僕も会社組織の末端に身を置く男だ。生き方を考えさせてくれる作品を遺してくれた、このフランス空軍少佐に感謝の意を表したい。
VOL DE NUIT
夜間飛行
著者:サン=テグジュペリ、集英社・1990年12月発行
集英社ギャラリー[世界の文学8] フランスⅢ所収
2007年2月25日読了