プロイセンが席巻する遙か以前、領邦国家のひしめく18世紀ドイツ。近世から近代へと移り変わる節目にゲーテは生まれた。ライピチヒ、ストラスブールを経て、ゲーテ30歳。生地フランクフルトで、この作品は世に放たれた。

親しい女友達の死去を契機に故郷を飛び出し、新しい散策の地にて書物や人間関係の束縛から解き放たれた自由を謳歌する我らが主人公、ヴェルテル。愛くるしいシャルロッテと出会い、心奪われ、婚約者の存在を知りながらも夢中になるその姿と、狂気へと至る半生が、彼自身の遺した手紙と、彼の死後に編集者から読者への語りかけとして回顧される。
大学で法律を修め、ギリシャ語を自由に操り、そこそこの資産を持つ20歳代の主人公。貴族の身分は持たないが、従僕を持ち、都会で育ったヴェルテルの姿は、ゲーテ自身を写したとも考えられる。

大多数の人々は、食わんがために一日の大部分を働き暮らす。わずかばかりの自由が手元に残るが、それは彼らを不安にするから、今度はそれから逃れるためにどんなことでも探してこようという訳だ。
自分の惨めな仕事や時としては自分勝手な趣味にさえも大げさな名目をつけて、人類の救済と福祉のための一大事業だと売り込む人たち……。静かに、自己のうちより自らの世界を紡ぎ出し、自分が人間であることの幸福に充ち足りる。

ロッテとの別れのシーンは! 男の視点からしても辛すぎる描写。それでも耐えなければならないのか。

それにしても文学の醍醐味というやつは! 流行りの小説ばかり読んでいると、感性が惰性に流されてしまうようで、たまに古今東西の文豪の作品に触れると、新鮮な気分が味わえる。

DIE LEIDEN DES JUNGEN WERTHERS
若きヴェルテルの悩み
著者:ヨハン・W・V・ゲーテ、集英社・1991年5月発行
集英社ギャラリー[世界の文学10] ドイツⅠ所収
2007年3月7日読了