イスラム教徒の思想の基底に深く組み込まれ、生活そのものの規範ともなっている経典、クルアーン。それは、単に読まれるに非ず。日常的に読誦されるべきものであり、ユダヤ教、キリスト教の経典を補完し、アッラーの意志を伝える完全かつ最後の聖典とされる。
本書は、入門編として、イスラム教の成立と発展過程、クルアーンの詩句を題材にムスリムの価値観が簡潔に解説される。その上で、クルアーンと他の二大宗教の聖典(旧約聖書、新約聖書)との違い、使徒ムハンマドとアブラハムとのつながり、天界からクルアーンが啓示される様子、大正期、戦前、戦後の日本におけるイスラム教の理解と「利用」計画等、著者の研究成果が十二分に、かつわかりやすく示される。
われわれの価値観との大きな隔たりは、やはり多々あるのだ。特に「運命」に対するムスリムの態度、その死後と墓の概念等が、新鮮な驚きとして理解できたように思う。

ムスリムの世界観は、仏教と神道、そして似非キリスト教の入り混じる宗教観を抱くわれわれ日本人には、理解しにくいものだ。だが、クルアーンとハディース集の内容を知ることこそが、そのあまりにも違う価値観の差異を埋める"王道"であることを再認識させてくれた。

聖典「クルアーン」の思想 イスラームの世界観
著者:大川玲子、講談社・2004年3月発行
2007年7月14日読了