男ひとり旅の美学

[旅の恥は書き捨て]ってことで。あと、BMWと読書感想文も。

2008年02月

前半は近世イスラームの3大帝国、オスマン、サファヴィー、ムガールに生きたユダヤ人、アルメニア人の姿を描く。
ヨーロッパでは迫害の対象として辛酸を舐めた彼らも、イスラーム圏でも同様に少数民族であった。しかし、民族の離散をネットワークとして活かし、一定の地位を築き上げた。
しかし国民国家の時代に移り、取り巻く環境が変わると、少数民族であることが仇となり、ゆっくりと没落してゆく。
後半は現代イスラーム圏におけるマイノリティ集団の事例として、チュニジア領ジェルバ島に生きるユダヤ人共同体の生き方と、共存を可能にしたイスラーム的要素、すなわち、コミュニティの多様な関係を保証したシステムのあり方が考察される。
19世紀に入るとオスマン帝国は国民国家トルコへと向かい、その過程で生じた諸民族の意識が、マイノリティ集団に同質化または退去(排除)を迫るまでになる。
今日も終わらないテロ行為の源に、宗教ではなく、異なる民族・社会集団を保護するシステムの崩壊がある。そう思えた。

世界史リブレット53
世界史の中のマイノリティ
著者:田村愛理、山川出版社・1996年12月発行
2008年2月19日読了

製紙法を取得したことにより、コーランと科学技術が普及・発展する様子が俯瞰される。また、製糖法の技術がイスラム教徒の手によって中国、ウズベキスタン、イラク、エジプト、西アフリカを経てヨーロッパへ伝達される様子は、キリスト教徒による東インド諸国のプランテーション化、紅茶文化の発展と合わせて興味深い。カフワ=コーヒーを飲む習慣もイスラムの地、アラビア半島のモハ(モカ)から伝搬し、現代社会まで続いている、か。

9世紀頃のイスラーム世界。アラビア語と紙、それに0の概念を含むアラビア数字が、ヨーロッパに先行して科学技術を発展させる原動力となったこと、濃い黒インクで書かれた美しいアラビア文字は、より多く神の心にかなうものとされ、この精神がアラビア書道を生み、クーフィー体などの様々な書体が生まれたこと等、興味深い内容が多い一冊だった。

中世イスラム商人の栄華も、スペイン・ポルトガルによるインド航路の発見、すなわち大航海時代の始まりによって淘汰されてゆく。もちろん、彼らは手をこまねいているわけではなく、工夫を凝らして挽回を試みるが、特産品である砂糖と故障の専売化=国策によって急速に廃れてゆく様はわびしいものがある。大商人、類い希なる大金持ちといえども、君主の舌先ひとつで運命を翻弄されるのか……。

世界史リブレット17
イスラームの生活と技術
著者:佐藤次高、山川出版社・1999年1月発行
2008年1月23日読了

http://www.nankinmachi.or.jp/shunsetsu/spring2008/index.html
「旧暦で節句を祝う中国では旧暦のお正月を「春節」として盛大に祝います。この時期の中国は爆竹が鳴り響き、祝い事にはかかせない龍や獅子が舞い踊り、おおいに賑わいます。
南京町でも旧暦の正月に合わせ、1987年(昭和62年)から「春節」をアレンジし「春節祭」として開催が始まりました。その間、昭和天皇崩御の年と阪神淡路大震災の年の2回は中止となりましたが、2008年は22年目、記念すべき20回目の開催となります。1997年(平成9年)には、神戸市の地域無形民俗文化財に指定され」たそうな。

神戸市立博物館の「ヴィクトリア アンド アルバート美術館所蔵 浮世絵名品展」を観た帰りに、ちょうど18時からの獅子舞ショーに間に合い、近くで見ることができた。
この獅子舞、日本のものと違って何色もあるようだ。
中央舞台でショーを披露したのは赤と青の獅子で、各店舗をまわっていたのは白い獅子だった。

イベント終了後、南京町のレストラン「海星」で食事していたら、その白い獅子舞が店内に入って来た。店内は歓喜と沸き、デジカメとケータイのフラッシュが光り続けた。目前で力強く舞う獅子は大きく見えた(触るのは控えておいた)。
獅子舞を踊る(中に入る人)は18歳くらいの男子数名で、獅子を先導するのは中学生くらいの男女ペアだ。女子(将来美女確定)はハキハキした受け答えで、周囲の評価高し!
ん、来年も来よう。
100_2066_2

中東を中心とする現代イスラーム世界の混乱と紛争は、何も宗教対立が原因ではなく、近代、特に19世紀以降の西洋諸国による介入とオスマン帝国の分割が原因であると解説される。
明治維新の少し前、1830年代のオスマントルコの改革は、軍制度の近代化、官僚制度の整備が中心となって進められるも、列強の進出を機会に地方勢力が独立志向を高めたことは、帝国の瓦解を加速した。また、資本制度の導入、鉄道網の整備は、それ自体がイギリスの勢力を深めるものになるとは理解し得なかったのだろうか。結局は財政が破綻し、列強の支配下に置かれることになるとは。
日本も一歩誤れば、同じ運命だったと思うと、先人の英知にただ感謝するばかりだ。

近代化のためのイスラーム改革運動は、その揺り戻しを内包しながらも発展するが、その成果のひとつが、イラン革命につながる「法学者の統治」理論であったことは、西欧社会へのしっぺ返しとも言えよう。

オスマン帝国の一部なるも事実上の独立国であったエジプト。かの国も近代化に乗り出すが、やはり財政が破綻し、棉花栽培への特化=モノカルチャー化への道を歩む。雄大な歴史を有するエジプトは、単なる原料供給地として大英帝国に従属するに至った。そしてこれが、ムガール帝国=インドの綿手工業者を死の淵に追いやることになる。グローバル化は当時から始まっており、いつも弱いものが泣かされる、か。

その他、オスマン帝国の歴史は、当時にあって突出したコスモポリタン的性格を有する中央権力=イスタンブールを中心とし、地方の有力者との権力のせめぎ合いを続けてきた帝国であったこと、アラビア語には住民の帰属を示す5種類の言葉があり、血縁・言語、地縁、宗教・宗派、政治単位、心理的な人間集団によってアラブ人を中心とするイスラーム世界のアイデンティティが形成されてきたことなど、日頃接することのないイスラム社会に関する知識を深めることができた。

世界史リブレット37
イスラーム世界の危機と改革
著者:加藤博、山川出版社・1997年3月発行
2008年2月4日読了

橋下氏が大阪府知事に就任して、はや3日だ。財政の立て直し、第三セクター、関連組織の売却等、話題には事欠かない。以前から大阪府と大阪市の杜撰な運営と職員の好待遇が問題とされていたが、その実態を以前に購入した本書で確認した。

大阪市を中心とした記述だが、カラ残業、怒りが沸き上がる「各種手当て」、既得権益を手放すのに抵抗する職員たち……もはや特権貴族のようにしか見えない。そのくせ、情報公開レベルの低さ、突出した無責任さが目立つ。

収益の95%以上を大阪市からの委託=丸投げに頼る外郭団体。なんと職員の90%が大阪市職員のOBであり、その癒着度の高さは、まさしく公正さが欠けている。ほとんど座っているだけでバカ高い給料が入ってくる仕組みにも呆れるばかりだ。
それにしても大阪市。中央省庁との人事交流が無いとは知らなかった。労働組合幹部と市長と与党会派の三頭政治が平然とまかり通るのも不思議ではないな。

鳴り物入りで建築された超高層ビル、WTCコスモタワー=世界貿易センター。その入居者は「貿易」とも「国際企業」とも関係のない水道局や建設局が8割を占め、実態は「大阪市第二庁舎」か。もはや「お笑い」だが、それで済まされないのは、1193億円もの建築費が費やされ、毎年数十億円の赤字を垂れ流しているからだ。
フェスティバルゲート、アジア太平洋トレードセンターなどの散々たるハコモノも、同じような状況だ。

「先見性」と勘違いした希望的観測と趣味的要素、そして甘い甘い採算性とが公共事業に結びついた結果が、この有様か。
莫大な借金を解消する魔法はなく、地道に返済するしかないんだろう。

で、兵庫県は大丈夫なんだろうか?

大阪破産 Osaka Bankrupts
著者:吉富有治、光文社・2005年10月発行
2008年2月8日読了

正直、最初の数ページで違和感を感じた。いわゆる「神の視点」と第一人称の混在を感じたからだ。だが読み進めると、自然に世界に引き込まれた。
けむりづめ、醤油差しの注ぎ口など、小道具的キーワードの配置が巧みだ。
8月の最終日、主人公は清涼飲料水を自動販売機に詰めて回る。アルバイトだから正社員の女性ドライバーと一緒だ。その半日で、「心の病」を持つ妻との離婚話が語られる。明日の離婚日を控えての回想は淡々と続く。その日を境に異動する女性ドライバーの反応はドライで、クールで。
弱いものが持つ、元気。
第135回芥川賞受賞作か、なるほどなァ。
受賞第一作の短編「貝からみる風景」も同時収録だ。

八月の路上に捨てる
著者:伊藤たかみ、文藝春秋・2006年8月発行
2008年2月6日読了

このページのトップヘ