男ひとり旅の美学

[旅の恥は書き捨て]ってことで。あと、BMWと読書感想文も。

2009年03月

明石市立文化博物館に行ってきた。明舞団地の創世と昭和高度成長期の生活文化の催しらしい。前々からやっていたのだが、いよいよ今日が最終日。
明舞団地に36年以上住まう者として、やはり見ておかねばなるまい。

明石と舞子にまたがる団地だから「明舞団地」。大規模都市郊外型団地として、大阪・千里ニュータウンの次にできたのは知っていたが、本当に何もない丘陵地帯を造成したとは知らなかった。

2DKまたは3Kの、40平米にも満たないコンパクトな住まいだが、一般的なアパートや文化住宅に比べたら画期的だったらしい。
ダイニング・キッチンなる概念も、ステンレスキッチンも、当時の主婦層の憧れだったのか。
いまは寂れた住居群だが、当時はピカピカだったんだな。

駐車場に写っている車なんて、昭和40年代そのままだ!
明舞センターの噴水にしろ、まだ活気のあった商店街にしろ、いまでは昭和の記憶だなぁ。
JR朝霧駅って、JR魚住駅よりも後にできたのか。

実に知らないことばかり。いやいや、堪能させていただきました。

展示は1階のみ。2階では第11回祥月会展として、会員さんの文芸作品が展示されていた。

大林卯月さんの「荒城の月」がベストだ。滅びの美学と永遠不滅の月に杯を重ねる光景が目に浮かぶ。
次は青地に象形的な金文字が見事な、森岡心月さんの「一二三」。
杜甫の詩を味のある字体で書いた北村恵月さんの「春望」も良かったな。

で、展覧会のスケジュールによると、10月には「明石市制90周年秋季特別展/山形美術館服部コレクション/美のプロムナード 20世紀フランス絵画の精髄」なる展示会が予定されている。
ピカソ、ローランサン、シャガール……楽しみだ!

http://www.akashibunpaku.com/
明石市立文化博物館

原因不明の不治の病。余命1ヶ月を宣告された50歳のアンブロウズ。
アルファベットの特別の想いのある彼は、AからZまで、思い出の地を巡る旅を始める。
Amsterdam アムステルダム、Berlin ベルリン、Chartres シャルトル……。
除々に変調をきたす体。まとまらなくなる思考。

途中、退屈さを感じた場面の直後は、一気読みだ。
親友、思い入れのある人たち、そして我が家。
男の親友同士の別れの場面には、グッときたゾ。

Kを過ぎるとハンカチ必携。

そして、Z。
妻の愛読書「嵐が丘」。その古本に挟まれた紙切れ。旅の最終目的地だったZanzibar ザンジバルを棒線で消し、その上に力強い筆跡で書き加えられた、ただ一つの言葉。
妻へ遺した、最後の言葉。それは、アンブロウズがたどり着いた最終目的地……。

自宅で静かに読むのに最適な一冊。涙腺が決壊しました。

The End of the Alphabet
最期の旅、きみへの道
著者:C・S・リチャードソン、青木千鶴(訳)、早川書房・2008年8月発行
2009年3月20日読了

ときは1922年。ゴム印の特許を皮切りに、それまでの日本社会の常識だった借家から持ち家志向の萌芽に上手く乗り、土地売買で一財産を築いた玄鶴はすでに老い、肺結核に伏せる日々だ。知事を務めた政治家の次男を娘婿に迎え、その跡継ぎも生まれ、お家はひとまず安泰だ。

5年前から囲っている妾とその息子=庶子を呼び寄せたことで、家に波風が立つ。

玄鶴の専属看護婦、甲野。彼女の屈折した性格ー自分の幸には興味が無く、人の不幸に喜びを見いだし、決して顔に出さない面従腹背の権化ーが混乱に拍車をかける。
医者だけでなく患者からも関係を強要された過去を持つ彼女にとり、"雄"は憎むべき存在だ。婿養子に色目を使い、その義母にヒステリーを起こさせ、彼女を意識しだした婿養子を嘲笑する。
お嬢様育ちで世間知らずの"若奥様"を人知れず小馬鹿にする日々が、甲野の気分を爽快にさせる。

玄鶴の葬式。多くの弔問客が棺を前に彼を想い、門を出ると彼を忘れ、旧友は生前の彼の我儘をからかう……。
ただひとり、焼き場の門の外にひっそりと佇む妾-お芳の姿が婿養子の目に入り、煙のように消えて……。

家、身分、そして性別。桎梏に縛られた短い人生劇場。読み終えた後。儚い余韻だけが残った。

玄鶴山房 芥川龍之介全集第十四巻所収
著者:芥川龍之介、岩波書店・1996年12月発行
2009年3月15日読了

著者の若き日のフランス留学に始まり、フランス各地とスペイン旅行記の体裁をとる本書は、実は、多文化共存の生き方が文化を豊かにし、異文化に扉を閉ざした文明の衰退を語る。そして、近代以前の江戸日本や近世の西欧、中世のイスラム・スペインまで歴史的視野を広げることで、技術文明の停滞した21世紀で日本と世界が生きる道を探る。

・歴史の意味。それは違った時代や地域に旅をし、その時空の人になり、生きる知恵や経験を汲み取ること。

・必要なのはITスキルではない。自分自身が足で稼いだ経験に裏打ちされた「判断力」だ。
人の行く裏に道あり、花の山。

・独自の島国文化が存在するのは日本だけではない。大陸欧州から見たイギリスもそうだし、海洋国家アメリカもそうだ。文化のとぎれが外交的能力を乏しくし、軍事力とカネの力に頼る。3国に共通する悲しい特性だ。
フランスに代表される大陸欧州と中国大陸は様相が異なり、古来の多民族間の調和をとる感覚が働いている。

・1972年の世界遺産条約は画期的だ。人と自然の関わりと同時に、人同士の関わりを重視し、人生を楽しく送る趨勢はますます強くなるだろう。

・旅は徒歩に限る。散策、従容、遊歩、ペリパトス。これらぶらぶら歩きこそ、いい考えの浮かぶ源泉であり、車に邪魔されず歩ける道を有する都市が、21世紀に成功する。

・フランスは総人口より外国人旅行客のほうが多い国、観光立国を目指す日本に学ぶ点は多い。
・前近代の日本文化と「生きる喜び」を実感できるしかけが必要。
・良い食事こそより良い人生を送る秘訣となる。

・よそ者と接することのないところで文化は磨かれない。日本文化もよそ者と日常的に接することで、世界中に知られる普遍性を持つことができる。

日本人のきめ細かな感覚と美意識は健在であり、江戸時代に当たり前に存在した寛容と共生のコミュニケーション感覚を取り戻せば、21世紀に主流となるEUと中国のユーラシア大陸文化に上手く溶け込み、同じ島国文化を持つアメリカとの橋渡し役にもなれる、と総括される。

ヨーロッパ思索紀行
著者:木村尚三郎、日本放送出版協会・2004年2月発行
2009年3月13日読了

1904年のロンドン。第一次世界大戦には少し遠く、アフリカ白地図の塗りつぶしをフランスと競いつつ、新生ドイツ帝国に目を向けながらも、それでも大英帝国が世界覇権を謳歌していた時代の物語。

上流中産階級に属する女主人公、マーガレットは三十路を控えてロンドン近郊の一軒家に妹と弟と暮らす知識人だ。帝国主義的な価値観を静かに否定し、人類の営みが蓄積された文化・芸術に生きる価値を見いだす一方で、商業利益を求める実業家の働きがイギリスに富をもたらし、自分たちの金利生活を支えている現実を理解している。かたや妹のヘレンは活発で、恋愛に熱しやすく冷めやすいと言ったところか。彼らドイツ移民二世のシュレーゲル家と、生粋のイングランド人であり、ブルジョア企業経営者であるウィルコックス家のあいだに引き起こされる紆余曲折した交流を軸に話は展開される。

ロンドンを離れた農村部、ウィルコックス家の所有するハワーズ・エンド邸で物語の舞台は幕を開け、人の縁と理解、人が暮らす家の意味、価値観の異なる人間の愛憎、運命の変遷を経て、ハワーズ・エンド邸で最終章を迎える。

印象に残ったのがレオナード・バスト氏だ。下層中産階級=事務系サラリーマンである彼は努めて文化的な生活を志すも、生活費に追われる現実はあまりにも厳しい。平日は昼休みとヘトヘトになった帰宅後だけが自分の時間であり、本を読み熟考する時間すら確保できない。そして思うままにならない低収入。低俗で退屈で嫉妬深い年上の妻。まるで21世紀初頭の日本人サラリーマンそのものじゃないか。
その最期は上流中産階級の男に暴力を振るわれて……何かもの悲しい現実だなぁ。

「……その国の美徳を海外まで持って行くこの人種を超自由農民と呼びたい気もする。しかしこの帝国主義者というのは自分が思っているようなものとは違って、破壊者であり、やがては国際主義を招き、その望みがかなえられるようなことがもしあっても、この人種のものになる世界は灰色をした世界なのである」(457ページ)

1910年の作品だが、キップリングに代表される帝国主義文学とは一線を画す精神が、ここに顕現する。グローバリズムが浸透した現代に本作品を読むと、この時代の価値観が現在も形を変えて残っており、アメリカが大英帝国の正統な後継者であることがハッキリする。そしてアメリカ式資本主義が破綻の色を濃厚にしたいま、グローバル化が地域の独自性=ローカリズムの正しさを際だたせ、個性が力となりうることを示しつつあるのだろう。
100年前の世界文学を手にする意味が、ここにある。

HOWARDS END
ハワーズ・エンド
池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 Ⅰ-07
著者:E・M・フォースター、吉田健一(訳)、河出書房新社・2008年5月発行
2009年3月1日読了

姫路市立美術館へ出向いたついでに、ヤマトヤシキ姫路店の7階特選ギャラリーへ足を伸ばした。(2009年3月7日)

はっきり言って狭いのだが、ガレやドーム兄弟の作品を中心に、19世紀末ガラス工芸の粋を極めた暖かみのある作品が50点以上展示されている。
見応えのある展示品には納得だ。展示即売らしく、すべて値札がついている。良いのがあったら買うぞ!
入り口のガラスケースに厳重に収められたガラスの壺。表面に盛り上げられた紫色のガラスは蜘蛛ですか? 気になるお値段は、え~と、6900万円ですか? 家が買えるんですけど。(トホホ)

マイベスト? 湖水を往く船が浮き彫りにされた淡いオレンジ色のシェード付きランプが気に入った。19世紀末の物だが電球部分を交換して点灯していた。自宅の机に置き、読書灯に実用すれば価値ある人生が得られそうだ。エミール・ガレの作品だから、値段は200万円オーバー。僕に価値ある人生を送ることは無理なのか……。

[丸福珈琲店]
昭和9年創業、大阪では有名なお店が、実はヤマトヤシキ姫路店の8階にある。
この店のブレンドは「実に濃い」のである。角砂糖ふたつと上質なクリームを加え、自分好みの味を完成させる……。コーヒー党にはたまらない魅力だ。
店内はアンティーク調ではなく、昭和モダンと21世紀の上質なデザインが融合したようで、実に良い。いつか大阪千日前の本店に行ってみよう。

-ガレ・ドームを中心に- ヨーロッパアンティーク展
http://www.yamatoyashiki.co.jp/gallery/information.htm
高い芸術性を誇り、アールヌーヴォーの代表的な芸術家であるエミール・ガレや、次々と新技法を開発したドーム兄弟のガラス作品を中心に、世界中を魅了したヨーロッパアンティークの作品を一堂に取り揃え、展示即売いたします。
2009年3月9日まで!

丸福珈琲店
http://www.marufukucoffeeten.com/
http://www.marufukucoffeeten.com/blog/index.html
「オーダーを頂いてから1枚1枚焼き上げるホットケーキにたっぷりのバターと蜂蜜でお召し上がり下さい。」と書いてあるが、ヤマトヤシキ姫路店でも本当に1枚分の材料を鉄板に乗せて焼いていた。次は食べてみよう!

川西英、ムンク、ピカソの版画を一挙に公開する? 気になって行ってみた。(2009年3月7日)

姫路市立美術館の所有品を中心に、国内外の版画が122点。川西英(サーカス、露台、軽業、等)と川西祐三郎(室津、のじ菊、書写山、等)の作品は安心して鑑賞できた。

ピカソの「貧しき食卓」は力作だ。力強いが暗く悲壮で考えさせられる作品だ。リビングに飾る版画じゃないなぁ。

フランスによるスペイン侵略を題材にしたフランシスコ・デ・ゴヤの「戦争の惨禍」シリーズは、報道写真に通じる社会派作品だ。1863年の作品だが、そのメッセージはいまでも強烈だ。

あと木版、銅版はともかく、リソグラフとシルクスクリーンの技法も勉強になった。

で、永井一正「日本の古典芸能 長唄・三味線」が気に入った! 1981年に制作されたオフセット印刷のポスターだ。月夜を背景に、中央を三味線の弦が縦に走り、その前面を日本の象徴である桜が舞う。われわれの共有する精神が、わずか103ミリ×73ミリの空間に顕現しているのだ。本日の最大の収穫だ。(複製ポスターもポストカードも無かったのが大いに不満だ。)

コレクションでたどる姫路市立美術館の25年Ⅱ 版画の魅力
http://www.city.himeji.lg.jp/art/
2009年3月8日まで!(明日か!)

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