男ひとり旅の美学

[旅の恥は書き捨て]ってことで。あと、BMWと読書感想文も。

2010年01月

20世紀後半の最大の出来事といえば……ベルリンの壁の崩壊! 1989年の東欧大激変を舞台に、エネルギッシュな日本人と新世代ロシア人の活躍を描く。

スピード出世した総合商社を退職し、事業を興す決意に燃える主人公は、イギリス人の自称"ビジネスマン"(MI6)の仕事を請け負い、ハンガリーへ入国する。
オペレーション・スバボーダ。(ロシア語で"自由"。)
時は1988年。鉄のカーテンの倒壊に向けて、時代の勢いは加速する……。

サーシャの親父、ブラスコフ退役少将は「頑迷な保守的ソビエト人」だ。だがその生き方は、明治人に通底するものがある。最後まで矜持を保つ姿が感動的だ。

作中、ハンガリー外務省職員が登場する。ソビエトの頸木から逃れよう、本来持つべき自由を取り戻そうとの強い思いが、カネを目的としない崇高な行為となる。何より「1956年、20万人同胞を殺害された恨み」は強く、国家として共産主義の挑戦状を叩き付けることの動機が、ここにある。
ドプチェク氏の回想録を読んだとき、少なからぬ感動を抱いたことを思い出したぞ。(こちらはチェコスロバキアだが。)

・ヘーゲルの「地平線の彼方に光を見た男、すなわち英雄」
・小さな知識と狭い経験ほど危険なものはない。
・今日一日、今一刻の命
・国や民族を十把一絡げに考えない。あくまでも個人を見る。
・世界はダイナミックに動いている。不可能という言葉など認めてはならない。

まぁ、最終章手前の、男にとって実に都合の良い展開はご愛敬だが、それも神の意志が働いた、とされる。
この描写を読んで思い出したのは、元ソ連外相、エドワルド・シュワルナゼと著者との対談だ。インタビュアーとしての著者の最初の質問が「神の存在を信じるか?」であり、これはシュワルナゼ氏をひとめ見て、突然、啓示を受けたように湧いた質問だという。で、シュワルナゼ氏の回答は「神は信じないが、天空に偉大な何かが存在することを感じている」だったと記憶している。
ゴルバチョフ氏の隣に立ち、実質的にソ連政治の方向性を決めたシュワルナゼ氏。祖国グルジアの大統領に就任するまでは良かったが、エリツィンのロシアに執拗に圧迫され続けた。軍事介入と傀儡政権の擁立には果敢に対抗するも敗れ去り、ひっそりと舞台から消えていった……。
人生とはままならないものだと、つくづく思う。

王たちの行進
著者:落合信彦、集英社・1998年6月発行
2010年1月28日読了

911同時多発テロ以降、いわゆる「非対称型戦争」に関する記事が雨後の竹の子のように表れたが、これは当該事件の発生前に発表された論文だ。
研究所レベルで警鐘が鳴らされても一般政治レベルで取り上げられる可能性は少ない。その典型的な事例だろう。
ただ、当時の風潮に倣って、北朝鮮に照準が当てられているため、超大国対アルカイダの記述はない。

1986年の米軍によるリビア空爆、1998年の米英軍によるイラク空爆(湾岸戦争以上の爆薬が投入された)がLICの事例として取り上げられ、近代的な軍事力が必ずしも有効に機能しないことが論じられる。
そしてLICの発明者は毛沢東であり「人民の軍隊」、「拠点の自由な移動」、ゲリラ戦術に的を絞った「遊撃軍」がその特徴とされる。1930年代に日本軍を苦しめた中国共産党軍(八路軍)の行動を、当時の参謀本部の記録や将校の回想を通じて改めて見ると、まさにベトナム戦争や、今日のアフガニスタン戦争を先取りした戦術だったことがわかる。
泥沼化した日中戦争の解決の見通しの立たないまま、真珠湾への道を選択したことは、自己の能力を過信した現れだ。
2010年現在の米国がイラク問題に早々に見切りを付け、アフガニスタンとイエメンに注力することを選択したのは、いずれ3桁以上の犠牲者を出すにしても、戦略的に正解かも知れない。

LICに関連して、ネット(1998年にはGoogleはなかったんだなぁ!)やマスコミの活用、迫害されている住民の利用等、国際テロリストに極めて有利な環境が整いつつあり、重装備の正規軍では対処し得なくなるだろうことが述べられる。

その帰結が、あの、911同時多発テロ、か。

「戦争で勝つのは、正しい者ではなく、一番強い者である」
(Hans Kelsen)
国家の上位組織は無いこと、国際テロリストを包囲する統合された国際組織に欠ける現況では、テロは増加する一方だな。さて、どうやって身を護るかな?

21世紀型戦争 LIC (低強度型紛争) とは何か
著者:潮匡人
文藝春秋社刊「諸君! 1999年3月号」所収
2010年1月5日読了

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