Fascism ファシズム。ブリタニカ国際大百科事典によると「第一次世界大戦後の労働者階級の革命運動の高揚に対抗し、議会制民主主義を否定して反革命独裁を志向したファシスト党の運動、体制、イデオロギー」(抜粋)とある。語源のFascio は「結束」か。
政治・経済の混乱を収拾し、正常かつ「本来あるべき偉大な」イタリアを求める大衆の欲求-ある意味不条理な熱狂-は、ムッソリーニの20年に及ぶ独裁を存続させた。
本書は、その時代に生きた芸術家たちとファシスト権力との距離と作品を俯瞰し、政治体制と芸術について考察する。
小説家、劇作家、美術家、建築家、そして映画人。ムッソリーニは芸術家を庇護し、彼らもムッソリーニに期待する。少なくとも表面上は支持し、むしろ自分の芸術を拡げるために体制を利用する。
古代ローマの栄光とルネッサンスの革新、その二つの要素を内包したファシスト礼賛。そんな作品を求められ、伝統と近代の融合を模索する画家や建築家は苦悩する。
自ら体制の要求に応えようとする者は表舞台に立ち、名声と権力をほしいままにする。一方でファシズム芸術に迎合しない者は離反し、非難され、亡命の道を選ぶ。
どこにでもある光景だが、世に遺された名作の鑑賞には、そのエピソードを探ることで、より楽しみが深まるようだ。
世界史リブレット78
ファシズムと文化
著者:田之倉稔、山川出版社・2004年8月発行
2010年6月26日読了