本書を読み終えての素直な感想。それは、人文書を主要な対象とする研究者の世界と、文芸書あるいは新書等を主な購読対象とする一般読者の乖離を感じたことだ。
人文書、特に大学等研究機関に軸足を置く学術書の著者にとって、いわば出版物はキャリアを彩る研究成果のひとつになる。この類の出版物はまさしく公共の益に還元されるものであり、国あるいは公共機関により管理と幅広い公開、それも無償公開が望ましいだろう。
一方、現行の著作権制度に依存する、いわば印税生活を営む作家にとっては死活問題だ。現在の図書館にしても、幅広い層に著書を知らしめる効果は期待できるものの、その実、書店での売り上げを妨げる側面を持つアンビバレンスな存在だ。これが「公共の益」を前面に出されたらたまらない。ならいっそのこと、AmazonなりGoogleのシステムに依存するほうがマシというもの。
で、将来的にはこうなるのだろうか。
人文書(発行部数3,000部でベストセラー)は公共機関に買い上げてもらう。
その利益を出版社は次の企画の原資とできる。
文芸書、あるいは書店ならびにコンビニの出版物売り上げの大半を占めるであろう雑誌類は徐々に店頭から姿を消し、電子書籍にとって代わられる。電子書籍は従来のテキストだけでなく、映像、音声データが融合された出版物となる。
(10年くらい前のゲームの一分野を築いたサウンドノベル、ヴィジュアルノベルを思い出したぞ。)
漱石全集(岩波書店)にしろ、最近入手した「モダンガールの誘惑」(平凡社)にしろ、その素晴らしい装丁と、手にしたときに重みというか実物感は、電子書籍(Android版スマートホンね)では得られない充実したものがある。これを味わえなくなるのはもったいないなァ。
書物と映像の未来 グーグル化する世界の知の課題とは
編者:長尾真、遠藤薫、吉見俊哉、岩波書店・2010年11月発行
2010年11月30日読了