男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

2010年12月

本書は、1841年に創刊され、1992年まで刊行された風刺漫画週刊誌、The Punch, or The London Charivari のアンソロジーとして1940年代の飢饉、二つの国民=貧富の差と生活習慣の格差、1951年ロンドン万国博覧会、テームズ川の汚染、急激な鉄道の発展と鉄道株バブル、ロンドンの不衛生さ、女性解放運動とアメリカ女性風俗=ブルーマー旋風、ヴィクトリア時代の女性ファッション=クリノリン・スタイルなどを取り上げ、思わず笑みがこぼれるカートゥーンと小説家サッカレー等の筆による秀逸=辛辣な皮肉文を紹介する。

産業革命により抜きんでた先進工業国となった大英帝国だが、その内部は貧富の差が拡大し、"二つの国民"の言葉も生まれた。"THE SONG OF THE SHIRT シャツの歌"は、社会の底辺で悲しむヒマも与えられないに寡婦の労働哀歌だ。分かる気がする。

"WOMAN'S EMANCIPATION 女性の解放"からは、米国から流入した風習が当時の保守的な英国人に与えたショックの程がわかる。伝統的なヴィクトリア道徳を破壊する"過激派"に対する批判の目が厳しかったことがありありとわかる。

"A SKETCH DURING THE RECENT GALE 最近の強風の中での情景描写"は素直に笑える。(突風でクリノリンと雨傘が逆さになると……。)

個性的な執筆陣と編集者の確執を抑制・転化し、"統合の中の多様性"として有効活用して多彩な誌面を実現した初代編集長、レモン氏の功績を著者は賞賛する。全編集者の反対を押し切って"シャツの歌"を掲載する等、優れたリーダーの実績は70年を経ても残る、ということだな。

『パンチ』素描集 19世紀のロンドン
著者:松村昌家、岩波書店・1994年1月発行
2010年12月30日読了

PEN誌2010年11月15日号の綴じ込み特集記事により、サントリーミュージアムが閉館することを知った。行こう、行こうと思いながら最終週になってしまったが、12月にしては暖かな大阪・天保山へ出向いてきた。(2010年12月20日)

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欧米の作品を中心に200点が有料ギャラリーで、旧帝国時代の内地・朝鮮・満州・台湾の作品と近年の展示会の作品を中心に200点が2Fロビーで展示されていたようだ。ロビー展示も半端ではなく、電話室の内部やトイレ近傍の壁面までポスターで埋め尽くされていた。

ギャラリーではいきなり、ロートレックの"ムーラン・ルージュ ラ・グーリュ"が迎えてくれる。特大サイズのポスターだけあって、印刷した3枚を貼り合わせていたんだな。

ジャンヌ・ダルク。……既視感あると思ったらサラ・ベルナールか! 1889年のポスターで作者はウジェーヌ・グラッセ。なるほど、ムシャの"ジスモンダ"が画期的だったことがよくわかった。その"ジスモンダ"は無いが、ミュシャのリトグラフは"椿姫"、"モナコ・モンテカルロ"が展示されていた。後者は華やかでお気に入り。

カッサンドルの"ノルマンディー号"はアール・デコの幕開けに相応しい斬新さ。

スタンランの"夢"、シュブラックの"ミス・ロビンソン"、ルヴェールの"クレマン自転車"は19世紀末の日本観が前面に押し出されている。"クレマン自転車"は江戸社会に自転車あれば……の図絵で輸入されていればありえた世界だ。ところで父が使用していた1960年代の自転車とポスターの自転車は酷似している。1890年の段階でフレーム形状等は完成の域にあったんだな。(当時のブレーキは前輪のみで、事故も多かったと思われる。)
"夢"と"ミス・ロビンソン"は正にオリエンタル・ファンタジー。バレエ衣装の上に振り袖を羽織って踊る女性ダンサーたち。男は靴とズボンに袴羽織と二本差し。月夜の松林に巨大な扇子と日の丸! 演し物としては面白いかも。

サントリー16年の蓄積の成果。有名なポスターが目白押しだが新たな発見もあり楽しい。
ジェスマールの"MISTINGUETT ミスタンゲット"には目を引かれた。現在でも通用する華やかさ。
HIGGINS ヒギンスの"ハリッジからヨーロッパ大陸へ"は構図が気に入った。複製ポスターを入手したい。

1950年以降のものにはあまり興味が沸かなかった。

旧帝国時代のものは商品ポスターだけでなく、戦時中の「欲しがりません勝つまでは」的な国民啓蒙的ポスターもある。京城の信和百貨店開店や台北の演劇告知も。実に味わい深いなぁ。
諸外国へ日本のイメージを売り込むためのJTBポスター(京都、日光)は戦後のものらしい。華やかで良い。

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サントリーミュージアム[天保山] サントリー
http://www.suntory.co.jp/culture/smt/

「ポスター天国 サントリーコレクション展」は12月26日まで!

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