男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

2011年09月

群島王国を構成する"ぼくらの島"。
僕らを併合した大きな国が戦に敗れ、もっともっと大きな"西の鷲"と呼ばれる国の軍隊を、かつての王朝があったいちばん大きな島に駐留させる。それは、大きな国が"東の龍"と呼ばれる大国に近いから。……かつての琉球王国を彷彿させる。

"ぼくらの島"は神秘の島。"移りの儀式"による覚醒。
生き残るため、島民が大国に明かした秘密。明かしてはならなかった秘密。"その施設"は建設され、島民をより苦しめる。

そして太陽の穴へ。
終盤近くは予想どおりの展開。現代の神話。

太陽の涙 岩波書店Coffee Books
著者:赤坂真理、装画:大島梢、岩波書店・2009年12月発行
2011年9月25日読了

諫早を根拠地とし、戦後の昭和を語る芥川賞作家の随筆集。明石のジュンク堂で偶然手に取り、その端麗な文章に惹かれて購入した。

受験の失敗、古書店と映画館に通い詰める日々、京都および東京の漲る活気に充実した若き時代。
そして故郷愛。

「きれぎれの断片を寄せ集めて過去のある時間を再構成してみること。……ものを書くということは程度の差こそあれすべて過去の復元である」「愛着とは……私の失ったもの全部ということになる。町、少年時代、家庭、友人たち。生きるということはこれらのものを絶えず失いつづけることのように思われてならない」(一枚の写真から)

小説はその土地に根をおろし、一朝一夕では感じられない「その土地の歴史と風土と人間が溶けあった精粋」と合体し、その加護により生み出される。(鳥・干潟・河口)
僕の場合は、JR朝霧駅のホームから見下ろす朝の光にまばゆい明石海峡の光景が、源泉になるんだろうな。

≪大人の本棚≫
夕暮れの緑の光 野呂邦暢随筆選
著者:野呂邦暢、編者:岡崎武志、みすず書房・2010年5月発行
2011年9月24日読了

神戸ファッション美術館(略称:F美)に出向いてきた。(2011年9月23日)

・支那・雲南地方、苗族の民族衣装
・西アフリカ地方の民族衣装(ネイジェリア、ガーナ等)
・新道弘之氏の藍染め作品
・田垣繁晴氏・小夜子氏のジーンズ作品
・ちいさな藍美術館の収蔵作品
・神戸ファッション美術館収蔵作品からブルー系の衣服
等が展示されていた。

もうひと工夫、たとえば実物大模型を使って藍染めの過程を再現する等の展示が欲しいと思った。

「大阪樟蔭女子大学 学館協働事業展」も同時開催。正直、こちらのほうに興味を惹かれた。
学生によるドレス復元研究や素材研究等の成果が披露され、力の入れようが分かる。ベル・エポック時代フランスのモード雑誌の展示も楽しい。
大正・昭和初期の教科書・実習テキスト、試験課題の展示も。勉強の大変さは昔も今も代わらないな。
正面ロビーには同大学/旧制女子学校の制服や歴史ある写真パネルも展示され、こちらも興味深いものだった。

神戸ファッション美術館 藍が奏でる青い世界
http://www.fashionmuseum.or.jp/museum/index.html
2011年9月27日まで!

力強い言葉で語られる甘くない現実。
希望は自ら見いだすしかない。

自分の未成熟さがよくわかった。

"あとがき"に日本の現況が凝縮されている。打開策は見つからない。
「息苦しい閉塞と、緩慢な衰退の時代、きっと有効なのはエッセイではなく、モラルも常識も吹き飛ばす虚構としての……」
現状からのブレークスルーには産みの苦しみが、それも、とてつもない苦しみが伴うが、挑戦してみよう。

無趣味のすすめ 拡大決定版
著者:村上龍、幻冬舎・2011年4月発行
2011年9月13日読了

著者は日経欧州総局編集委員。本書では、2009年以降の世界金融・経済秩序の主導権を巡る各国の攻防・協調の表裏を背景に、今後のグローバル・ガバナンスの将来の考察と、日本の活路に関する提言が行われる。
円高是認論にも一理あるが……長期的には良いとして、すぐ目の前の厳しさに耐えられるのだろうか。

・12年ぶりに政権奪取した米国民主党。リーマンショックは、多国間国際協調主義への変換を否応なしに受け入れさせた。フランス等の強い主張も作用し、新興国を全面的に参画させる新たな政治・経済体制構築の模索が、G8拡大論の発展した"G20首脳会議"を誕生させた。
G20はかつてのG7と新興BRICSを内包することになる。
もともと投資対象を示す経済用語だったBRICS。国家体制の差異は置き、新興国の利益を代表する政治体制へと転換された。南アフリカを含め、先進国の主導してきた世界経済体制への挑戦とも取れる動きを示している。

・当時の日本政府によるIMFへの1,000億ドル融資提案が嚆矢となり、世界金融の安定化がもたらされた。この日本のイニシアチブが、各国から絶大な評価を受けたとは知らなかった。
80年台後半から90年代前半にかけて存在感を示してきた日本。残念ながら日本の貢献は、2008年10月のこの提案と実施が最後となった。……その後の目を覆わんばかりの迷走ぶり! 日本の地位を貶めたルーピー鳩山氏と菅氏は末代まで恥ずかしい記憶と共に語られるな。
当時の中川財務相(故人)はよくやったと思う。今度、夫人が遺志を継いで衆院選に出馬される。影ながら応援したい。

・当面の目的="世界恐慌の回避"を実現したことでG20の有用性が立証されたが、その後の価値観の違いが表出すると、皮肉にも葬り去られたはずのG8の重要性が再認識されるようになる。
それでも、無視できない経済パワーを保有する新興国との協調を探る場としては、G20がベターと言える。価値観の差異、特に通貨問題を抱えた米国と中国の対立をどのように調整するかが今後の課題となる。

・2009年のCOP15の失敗が、米国と中国の軋轢を決定的にした。本書を読むと、チャイナ・デイリー紙の報道を含め、当時の中国政府の対応は「相当にひどいもの」で、"コペンハーゲン・ショック"として語り継がれている。これでは中国が世界のならず者だと思われて当然だろう。(p122)
民主主義資本主義国と根本から異なる「国家資本主義国」=中国は、残念ながら世界経済に欠かせない存在となってしまった。

・IMFのストロスカーン専務理事のスキャンダルはセンセーションを巻き起こし、当人は辞任に追い込まれたが、結局は無罪放免となった。本書によると、最初から筋書きはできていたようで、最終的にはライバルの女性フランス財務相が新理事に就任し、副専務理事に中国出身者が就任することとなった。報道されない裏事情は思いっきり黒いようだ。(p193)

・個人的に衝撃を受けたのは、世界に冠たる帝国を築いたポルトガルから、かつての植民地、アンゴラへ多数の労働者が出稼ぎに出向いている現実だ。南欧の構造不況は、かつての宗主国と植民地の関係をも逆転させる……。
・深刻な財政危機に陥り、デフォルトも取り沙汰されるギリシャ、スペイン、ポルトガルが中国による国債購入を歓迎すれば、イギリスはインドに急接近する。
経済新秩序を巡るパワーゲーム。21世紀の世界は、新興国頼みの経済体制がより露骨になりつつある。

・リーマンショックを乗り越えた各国は新たな危機に直面する。政府債務=ソブリン・リスク。景気刺激策による赤字を抑制するには財政緊縮策への転換が欠かせないが、舵取りは容易ではない。ギリシャ・デフォルト危機、アメリカ国際格下げ等に代表される政府債務への不信感は、世界不況を長引かせる要因となっている。

・なるほど、今後はインド、ブラジルに注目、か。(p230、p232)

・世界統一国家の存在しない世界。「グローバル・ガバナンスとナショナル・ガバナンスをどう連動させていくかは重要な課題だ」(p247)。アジアに限定しても米国主導・中国抜きのTPP、中国主導・米国抜きのASEANプラス3、とシステムは並立する。
「多様な国・地域を抱えるG20に過大な期待を抱くのは禁物だが……G20をうまく活用することは、多極化時代のグローバル・ガバナンスを機能させること」と著者は結論する。(p248)

G20の場では、中国の発言力の前に日本は霞んでしまうのが目に見えている。日本は安保理常任理事国ではないが、ミドルパワーとして多数の加盟国と協議・連携の場を増やし、国連総会で、せめて経済社会理事会でのイニシアチブをとることが望まれる。

The Great Game in 21st Century
G20 先進国・新興国のパワーゲーム
著者:藤井彰夫、日本経済新聞出版社・2011年8月発行
2011年9月16日読了

大正、昭和初期の銀座を闊歩したモダンボーイ・モダンガールと、彼らが求めた文化的な住宅は、戦間期の日本の都市文化を特徴づけるものであり、現在に引き継がれた"新しい日本文化"の象徴でもある。

・外国人居留地と横浜を結ぶ鉄道。外国人が車窓から"一等国の都市の光景"を垣間見られるよう、入念に計画された先進の煉瓦都市、銀座。歩車道分離、街灯、街路樹、舶来品を扱う商店街。舗装された歩道から眺めるショーウィンドウ。明治10年に登場したハイカラな街は、その後の新興都市の手本ともなった。

・活動映画を鑑賞した後は、カフェで和服にエプロン姿の女給の提供する"コウヒイ"や"ソーダ"を飲み、余韻を楽しむ。「今日は帝劇、明日は三越」の標語よろしく、銀ブラは新しい都市文化として定着する。

・目的から"楽しむ手段"へと変遷した買い物。百貨店の登場は上流層だけでなく、市電、地下鉄など都市交通網の発達と相まって、大衆にも楽しみを提供した。

・宮城を中心とする都心の過密さは飽和を迎え、英国の田園都市をモデルとする郊外新興都市の開発を加速させた。私鉄の延線と相乗して膨張を続ける東京。平和記念東京博覧会にはモデルハウスが登場し、都市中間層(高級サラリーマン等)は先進的な"文化住宅"に移り住む。(田園調布、目白……。)

・文化住宅。この言葉、昭和後期は"風呂トイレ付きアパート"を指していたと思うが、大正期は"伝統的な生活を機能性・合理性から見直した、姿も設備も新しいハイカラな住宅"を指していた。1923年頃には現在の日本人の住居のカタチができあがっていたんだな。和室only(あっても洋室1室)の当時の住宅事情からすれば、革新的だったとわかる。
田園都市の住宅コンペ当選作の設計図には力が入っている。現代住宅としてそのまま居住できそうだ。(p114,p117)

・システムキッチンはすでに1923年に開発・販売されていた。その名も"高等炊事台"。瓦斯ストーブ、瓦斯風呂、瓦斯魚焼器はわかる。瓦斯冷蔵庫なんてものもあったんだな。電気製品はまだ高価か、開発されていなかった。

・「大和郷(やまとむら)での暮らし」(p118のコラム)が気に入った。「上下水道の完備や景観を守るために電灯線や電話線を地下ケーブルとして設置するなど、今日に至っても実現しえていない試み」(p114)が行われていたことは驚きだ。現在だと光ケーブルが加わったせいか、僕の居住する地域の空中はひどい景観になっている。

一戸建て住宅を購入し、勤め人の夫と家事全般を担う専業主婦。使用人はいない。夫婦は居間(リビング)を中心に生活し、子供たちには個別の部屋を与える……。はたして、この時代に姿を現し、現在も主流となる○LDKなる新興住宅の間取りは、現代の「共働き」時代にマッチするのだろうか。

個人的にはp80に掲載された平屋住宅が気に入った。間取りと言い、庭の余裕ある活用と言い、本当に住みたいぞ。

消えたモダン東京
著者:内田青蔵、河出書房新社・2002年2月発行
2011年9月8日読了

装画と相まって純日本文学の香りを楽しめた。
小物(煙草盆、ペットボトル等)により、物語の年代を明らかにさせる手法が上手い。
時代に左右されない文学かくあるべし。

「放生」
タイトル装画と冒頭の文章の相性が抜群。本書中、最も気に入ったページとなった。
柱時計の"刻"に追われ、煙草に逃げ、決意して文机に向かうも、また散策に逃げてしまう作家の姿。わかるなぁ。

「岬」
港町の遊覧船から吊り橋のある岬を巡るひとりの女。
数日間港町に留まり、失恋の痛みを癒す旅であること、そして自殺志願の相貌であることを、他人の口調から自覚する。
わざわざ岸壁の窪みにまで出向いたのは、そこにいたはずの新しい男性を求めてではなかったか。

他に「摺墨」「掛軸」「裏白」「瓦経」を収録。

瓦経(かわらきょう) 岩波書店Coffee Books
著者:日和聡子、装画:金井田英津子、岩波書店・2009年3月発行
2011年9月7日読了

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