有名な美術作品の背景となるセーヌ川、19世紀パリを舞台に働く女性たち、20世紀初頭の海浜リゾート地の解説書として面白く読めた。
で、印象派は何を描かなかったか。
ルノワールやマネの味わい深い作品はいつ観ても良い。特にルノワールの明るい筆に活写された若い女性像は、はっきり言ってほれぼれするほどだ。だが本書によると、上流階級出身でない彼女たちの私生活はふしだらだったらしい。
著者の見解はこうだ。
「良家の子女でない職を持つ女、溌剌と働く庶民の女、たとえばお針娘などは、みな娼婦またはそれに近い存在であった」
その具体例として、モーパッサンの小説や、ルノワールの絵画「舟遊びの昼食」や「ラ・グルヌイエール」などが挙げられる。
う~ん。マネの"ナナ"など、有名な絵画作品のモデルや有名女優はそうかもしれないが、陽気な庶民の女がすべて"ふしだら"だと決めつけるのは、強引な気がするなぁ。
気になるのは、マネの作品「ナナ」の解説だ。本書では、絵画の右端でナナの腰を嬉しげに見つめるパトロンの男の表情を意図的にカットし、さも鑑賞者にパトロンの存在を忘れさせるような書き方をしている。(p90)
そこまでして"庶民の女は娼婦だ"と強調したいのだろうか。
「フォリー・ベルジェールのバー」(1882年のマネの作品)は僕の好きな絵だ。それだけに悪いことを書かれると、あまり面白くない。
最後に……。本書で最もインパクトを受けたのは、"ブージバルのダンス場"を宣伝する鉄道会社のポスターだ(p55)。女性用の水玉ストッキングとヒールを履き、赤いリボンを腰に巻き巻き、ほろ酔い気分で軽やかに踊るヒゲの中年男……いいじゃないか!
誰も知らない印象派 娼婦の美術史
著者:山田登世子、左右社・2010年10月発行
2012年1月31日読了