男ひとり旅の美学

[旅の恥は書き捨て]ってことで。あと、BMWと読書感想文も。

2012年05月

昨日の続き。本日はメイン会場を訪問。平日なのに観客の多いこと!(2012年5月31日)

こっちは当たりだった。特に『清盛青春ゾーン』には大河ドラマの撮影で使用された衣裳や小物、松山ケンイチの等身大フィギュアなど、見応え十分。わずか170日で終焉した福原京の復元を試みた3D-CGも良い。

『海の覇者ゾーン』が気に入った。太宰府による大陸貿易に横やりを入れ、瀬戸内航路を開拓するとともに、当時の大国の威信を信用力に銅貨"宋銭"を流通に取り入れて独占したことが、平家の発展の原動力であったことが解説される。その根拠地が"大輪田の泊"か。
いまさらながら、神戸は平家と関わりの深い歴史を有することが理解できたぞ。

それにしても、ホテルニューオータニをはじめ、かつて華やかな賑わいを見せたハーバーサーカスの廃れ具合といったら……。地方都市の定めと言えど、物悲しいモノがあるな。

KOBE de 清盛 2012
http://kobe-de-kiyomori.jp/
2013年1月14日まで開催

「神戸にひろがる平清盛の夢」だそうな。
地元民として看過するわけにいかないので出向いてきた。(2012年5月30日)
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歴史館は、清盛が造築したとされる"経ヶ島"の跡地に設営されている。まず入場者を出迎えるのは、地方官吏視点の神戸史パネルだし、上映アニメの声優は棒読みだし音量はデカイし、正直な第一印象は「金返せ!」、でも会場を奥へ進むにつれて納得する内容だとわかった。

祇園遺跡などで発掘された宋銭、白磁器、青磁器、須恵器こね鉢、播磨産瓦、平安京から移築された故の京都産瓦、等々を楽しめた。

個人的には、大輪田泊から兵庫津、兵庫港から神戸港への発展を表す『神戸の港の歩み』が良かった。古代から中世、近世から近代、現代にかけて人の手が加えられてきたのが神戸港。法隆寺の古文書に"弥奈刀川"と記された、湊川河口を利用した船泊が起源か、なるほど。

ビデオ上映に頼りすぎの感がある。平安末期の時代背景の説明が不足しているように思うし、土産物売り場は半分で良い。3,000円の清盛弁当なんて、わざわざ誰が買うんだ?
展示内容は良いのだから、構成を再考するべきだな。

KOBE de 清盛 2012
http://kobe-de-kiyomori.jp/
2013年1月14日まで開催

ポスト情報化時代の模索が始まっている。イメージと資本が加速度的に世界の姿を塗り替えてゆく中で、人の「手」によるアマチュア的創造が、生産的消費生活が、生きることの喜びを担保するであろう、そんな時代が見えてくる。
キーワードはいくつもあげられるが、たとえばテレコミュニーケーション技術の深化の果てにもたらされるコトが"近接性、あるいは生活圏の再発見"であろうことは、なるほどと思わせてくれる。

「破壊しつくされた世界の中で、もし芸術という言葉が発せられたなら、それはなによりも『創造する手』としての芸術、人間の原点としてのアートであろう」(p208)
何もないところから、モノをつくる。感性の価値が問われる時代が見えてくるな。

芸術回帰論 イメージは世界をつなぐ
著者:港千尋、平凡社・2012年5月発行
2012年5月28日読了

アカデミー賞外国語映画賞受賞作。少し前から気になっていたのだが、神戸で上映中であることを知り、さっそく出向いてきた。(2012年5月23日)

イスラーム法廷での審理から物語は始まる。
大学に勤めるインテリ女性が外国移住許可証を取得するも、銀行員の夫にとってアルツハイマー症の老いた父親を一人にできるわけがない。14年連れ添った夫婦の破局への道のり。
どちらも、娘の親権を放棄できるわけがない。
妻は出て行く。介護に雇われた子持ち女性の家族が、もうひとつの軸となる。別の家族の生活に入り込むことの、特に宗教道徳の尊ばれる世界での厳しさよ。

たとえ家族であっても異性の肌を見ることは許されない。コーランに"誓うこと"の重々しさとあいまって、生活に密着したシーア派イスラームの文化に、"失われた東洋の道徳"が垣間見えたような気がした。

子はかすがい、か。両親の離婚を防ぐため努力を惜しまない11歳の娘の姿が痛々しい。
父親を護るためについた嘘。その涙が、彼女を大人に近づけたと信じたい。

登場人物はみな善人なのだ。暴力に満ちた男も、大切な人を護ろうとするその愛情から見れば、まさに善人なのだ。深い愛情を誰に注ぐのか、人生につきまとう問題を突きつける名画だと思う。

・2011年イラン作品、カラー123分
・監督:アスガー・ファルハディ
・出演:レイラ・ハタミ、ペイマン・モアディ、シャハブ・ホセイニ、他

元町映画館
http://www.motoei.com/

映画『別離』公式サイト
http://www.betsuri.com/

中国人留学生ココちゃん、梅虹智は21歳の大学生。かつて姉が働いていた高級すき焼き店で仲居のアルバイトを始め、赤裸々な日本の人間模様を観察することになる。
「主人がいつもお世話になっております」と言われ、慌てて両手を畳につき低頭するココが初々しい。

日本人の夫を持つ姉の悩みと"明かされた秘密"、人の良い老夫婦の末路、着飾った若い"水商売"の女性=水道局職員(笑)の溜め息、ブルーカラー労働者のささやかな贅沢。
そして実らぬ恋。

同じ大学に通う韓国人留学生から言い寄られるも煮え切らないココ。気になるのは弥生人顔のイケメン店長。日中韓の文化の違い。

弥生人顔のイケメン店長から東京ディズニーランドでのデートに誘われ有頂天になるも、直前に彼が妻子ある身と知り、眠れない夜を過ごす。そこへ韓国人留学生からの電話が、必死のアプローチを試みる電話が届き……多感なココの、揺れる青春が実に瑞々しい。

芥川賞を獲得した外国人の著す日本の姿には、なるほど、と思わせてくれるところがある。
ユーモアに富んだ観察眼ともども、楊逸さんの次の作品を楽しみにしたい。

すき・やき
著者:楊逸、新潮社・2012年5月発行
2012年5月22日読了

口髭の手入れを怠らない小柄なベルギー人にして、灰色の頭脳をもつ男、エルキュール・ポワロの活躍する、同時代にアメリカで発生した誘拐殺人事件への著者の強い怒りが込められた作品だ。
古典ミステリではあるが、1930年代の豪華列車の旅の雰囲気を楽しめた。

フランス人とベルギー人は互いに一体と考える傾向にあり、その目からイギリス人、イタリア人がどのように映っているかが垣間見られる。それでいて、雑多で活気あふれる新興国家、アメリカを、ヨーロッパと対峙させる見方が面白い。
また、東洋と同様、東ヨーロッパに位置するユーゴスラビアを"遅れた野蛮な国"と乗客がみなすなど、この時代の白人のコモン・センスが窺える。

"12の刺し傷"が謎を解く鍵であることには気付いたが、クライマックスでポワロが正体を明かすまで、ハバード婦人の正体には気付かなかった。まだまだ修行不足か。

MURDER ON THE ORIENT EXPRESS
オリエント急行の殺人
著者:Agatha Christie、山本やよい(訳)、早川書房・2011年4月発行
2012年5月10日読了

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