「内と外からの夏目漱石」(平川祐弘、河出書房新社・2012年7月発行)の『漱石と学生騒擾』に、一橋大学の前身、東京一橋高等商業学校での学生デモが取り上げられている。
官庁の"御用新聞"そのものの朝日新聞(p308)と、野党色濃い読売新聞(p301)。それぞれに掲載された記事の違いが面白いが、"空気"をつくりだすマスコミ操作が明治から存在したことを思うと複雑な心境になる。
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で、麻生自民党。これほどマスメディアから攻撃された政権はなかっただろう。当時の新聞とテレビの報道は酒、家系、漢字の誤読など、ほとんど政権運営能力と関係ない揚げ足取りに血眼になっていた感がある。実は、僕も面白おかしく受け止めていた一人であったが。
一方で、海外ニュースや経済誌等では当時の麻生総理大臣や中川財務大臣は総じて高評価であったように思う。
この乖離はどこから来るのだろう。
偶然に本書を手にしなければ、小さな疑問のまま、何も知らないまま、忘れてしまうところだった。
大衆を踊らせるのは、大手メディアの上層部。民間人でありながら政治に多大な影響を与えられる、この稀有な地位(p226)よ。そして大臣の失脚を仕掛け、自らの出世につなげる官僚の権力の強大さ。
「国家の仕組みなど、有史以前から現在まで、何も変わってはいない」(p208)
事件より何よりも、人の所業と思えぬことを平気で成しうる"権力者"の存在する事実。
恐ろしいことだ。
偏向がかったマスメディアを鵜呑みにしてはならない。
新聞紙と民放テレビ局は大手スポンサーの宣伝媒体であることを忘れてはならない。
ただ「乱舞する日の丸の中で」の最終ページの"裁かれなければならないのは○○である"(p274)との記述には疑問が残る。一義的な罪は、偏向した報道を反省なく続けた連中に存在するのであって、そこまでのリテラシーを一般大衆に求めるのは酷だろうと思う。
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2011年3月の震災報道で男を上げたNHKの花形アナウンサー。数週間前の19時のニュースで、AKB48の卒業うんぬん、と読み上げたとき、彼の心境はいかなるものだったのか。
いつぞやの20時の歌謡番組で、「日中友好」としつこく唱えていたとき、眼鏡をかけたNHK看板アナウンサーの良心はどこにあったのか。
なるほど、NHKニュースは"有料ニュース・ショー"あるいは"政府公報"として、真面目顔のキャスターを笑いながら観るのが正しいのだな。
「意思ある者が、難局を克服する」(p203)と述べた人。そして"矜持"を崩さぬ生き方(p287)。男の理想のひとつが顕現されているのは素晴らしい。
そう、これからだな。
真冬の向日葵 新米記者が見つめたメディアと人間の罪
著者:三橋貴明、さかき漣、海竜社・2012年9月発行
2012年9月22日読了