男ひとり旅の美学

[旅の恥は書き捨て]ってことで。あと、BMWと読書感想文も。

2014年03月

ドイル『ボヘミアの醜聞』のスピンオフ。
女性の自立なんて「とんでもない」時代、その自由闊達さと冴える知恵と気転を武器に美貌のアイリーン・アドラーが活躍するさまを、"牧師の娘"ペネロピーがワトスンよろしく相棒の視点で綴った実録物語となっている。

緋色の研究(緋色の習作)のあの復讐者の登場は、序盤の嬉しいサプライズだ。

女探偵(ただし副業)として、アメリカ宝石商ティファニー氏よりマリーアントワネットの秘宝「ゾーン・オブ・ダイヤモンド」の探索を持ちかけられたアドラー。
ティファニー氏をバックに社交界に華麗にデビューし、オスカー・ワイルドら英国文学・演劇界の著名人、ロンドンを賑わすボヘミアの音楽家アントニーン・ドヴォルザークの後押しを得てメジャー歌手への階段を駆け上る姿はなるほど、逞しい。

そして、あの名探偵との邂逅。面白くないわけがない。
「ヴィクトリア朝推理冒険大活劇」の宣伝文句は大げさだと思うが。

後に良き伴侶となる法廷弁護士ゴドフリー・ノートン氏。その人柄はとても魅力的だし、「ゾーン・オブ・ダイヤモンド」の消失にからませて本書のキーパーソンとした手腕はなかなかのものだと想う。
なかでも上巻p198~199にかけての「幼少期のゴードン氏の決意」が印象に残った。
「ぼくの哀れな家族にとっての真の幻の宝はなんなのか教えましょうか?」


個人的にはドヴォルザークがロンドンでアイリーンの才能を見抜き、ミラノ、ワルシャワ、そして運命のプラハへと導くくだりが印象に残った。スラブ舞曲とユモレスクが身近に思えてきたぞ。


下巻はボヘミア、プラハに舞台を移す。皇太子の求愛が危険な執着へと変化ヘンゲするおどろおどろしい感情が目を引く。
オーストリア=ハンガリー二重帝国の軛への反発が強まる中、ボヘミア王室は、プラハの愛国者の罠を見破ったアイリーンに対し仇を持って返す
王侯貴族に特有の性質と追っ手を振り切り、ロンドンへ逃げ帰ったアイリーンとペネロピーを暖かく迎える男性とは……。
男はかくあるべし。

そして煙幕に包まれるサーペンタイン・アベニュー、『ボヘミアの醜聞』へ!

パリが舞台(サラ・ベルナール!)の続編も気になります。

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Good Night, Mr. Holmes
おやすみなさい、ホームズさん アイリーン・アドラーの冒険(上下巻)
著者:Carole Nelson Douglas、日暮雅通(訳)、東京創元社・2011年11月発行
2014年3月8日読了

近代ミステリーの原点。お気に入りを一作だけ。
『ボスコム谷の惨劇』
娘のことを想う親心が心に沁みる。
そして気高いダンディズム精神を誇るヴィクトリア朝の男としての、ホームズの約束。
21時台にテレビ放映されるサスペンスドラマの原形とも言える内容だが、秀逸な短編だと想う。

THE ADOVENTURES OF SHERLOCK HOLMES
シャーロック・ホームズの冒険
著者:Sir Arthur Conan Doyle、延原謙(訳)、新潮社・1953年3月発行
2014年2月9日再読了

世界に先駆けて産業革命を経験したイギリス。世界中に確保した市場と植民地がもたらした未曾有の富は、ある種の生活様式をもたらした。
本書は、今日でも豊かさの指標でもあり、大英帝国最盛期の都市住民の夢を体現したものといえるヴィクトリア時代の屋内装飾を広く紹介する。

巻頭は、ヴィクトリア時代の室内装飾・調度を当時のまま遺した風刺画家、サンボーン氏の邸宅を紹介する。ロンドンに住まう中産階級の代表的な住宅であったテラス・ハウスには過剰なまでの装飾が施され、伝統的なアンティークと帝国各地からもたらされた流行の品々と相まって、一種のカオス世界が顕れていることがわかる。

『憧れのヴィクトリアン・インテリア』
その中心となるのは、ダイニングルームでの正餐を終えて主客がくつろぐドローイングルームであり、暖炉を中心に据えての調度品や壁紙、テーブル小物に至るまで、女主人のセンスが試される場でもあった。
・指南書として数多くのインテリア誌が創刊された。そのデザイン画から、当時の流行と人々の趣味が伝わってくる。
・観賞植物、ガラス水槽、ガラスシェードに納められた豪華時計、ピアノ、ソファー、手芸、等々。今日のリビング・インテリアの原形がこの時代にある。
・家宝を大々的に飾るインテリアは、これを"秘蔵"する日本文化と確かに異なるな。
・ジャポニスムのもたらした団扇がドローイングルームの装飾だけでなく、室内テニス(バルーン・テニス)のラケットに用いられていたのか(p29)。おもしろいな。

『ヴィクトリア時代の装飾デザイン』
この章では、隆盛を極めたタイル産業、アーツ・アンド・クラフツ運動を主導したウィリアム・モリスの「ネイチャー・テキスタイル」が紹介される。
・生活の中のデザイン。それはそれで素晴らしいのだが、芸術的なまでに装飾の施された水洗便器の姿を見ると、掃除するメイドの気苦労が偲ばれる(p36,58)。
当時は何にでも装飾を施さないと気が済まなかったのかな。

巻末に綴じられた復刻絵本"AT HOME AGAIN"には、当時の子供たちの生活様式が詰められているが、これが川端有子さんの『暖炉をめぐる物語』(p65~)により、親と断絶された"こどもだけの世界"であることがわかる。

本書自体もヴィクトリア時代の趣を感じさせてくれる美麗な造りとなっており、廉価ながら満足度の高い一冊となっている。

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The Interior in the Victorian Era
A UTOPIA FOR WOMEN
ヴィクトリア時代の室内装飾 女性たちのユートピア
著者:吉村典子、川端有子、村上リコ、LIXIL出版・2013年8月発行
2014年2月8日読了

最高峰を目指すために。

・人がやらないことを、誰にも頼らずに、創意工夫を凝らして作る。
(頭脳を最高に働かす)

・絶えず最高のものを目指す気迫、ワザにこだわる探求心。そして、カン。
(一人前の職人)

・人の時間とエネルギーは有限。プラスを生む仕事に費やす。
(オリジナリティ)

・狩猟社会型ルールのグローバル社会で生きる。農耕社会の思考は捨てる。考えたくないことを考える。(プロ)

・人に強いものが勝ち残る。生きるための知恵を。
(求められる人として。ノンキャリア・プロフェッショナル)

すでに到来した階級化社会。やるべきことをやろう。

「大差」の時代
著者:落合信彦、ザ・マサダ・1999年7月発行
2014年1月12日読了

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