SHIROBAKO 6話に触発されて読んでみた。
演出と役者の個性を見せる戯曲。
老浮浪者ゴゴとディディの、ほとんど二人舞台。
「行く手は美しく。旅人は善良だというのに」(p20)
「誰か一人が泣きだすたびに、どこかで、誰かが泣きやんでいる」(p50)
「運悪く人類に生まれついたからには、せめて一度ぐらいはりっぱにこの生物を代表すべきだ。どうだね?」(p140)
十字架、二人の泥棒、待つこと、そして木。平衡(バランス)と帳尻(バランス)。
キリスト教世界を知ればもっと理解しやすかったのだろうが、なかなかどうして、多様な解釈が可能な作品だ。
物語性よりも、自己投影が物語をかたちづくる。作者のそんな挑戦を感じた。
EN ATTENDANT GODOT
ベスト・オブ・ベケット1
ゴドーを待ちながら
著者:Samuel Beckett、安堂信也、高橋康也(訳)、白水社・1990年10月発行
2014年11月29日読了
2014年11月
『ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展』鑑賞記(京都市美術館)
「ラ・ジャポネーズ」を観にいつかはボストンへ……と思っていたが、修復直後の本作が日本で公開されることに歓喜し、晩秋の京都へ出向いてきた。(2014年11月29日)
平安神宮は紅葉を背景に、修学旅行生と外国人観光客が彩を益し、良い雰囲気だった。
全148作品のうち、お気に入りを何点か。
■歌川国貞、歌川広重
「当盛十花撰 夏菊(二代目沢村訥升、初代沢村由次郎)」(1858年)
正面の表情豊かな役者の姿もさることながら、背景の大菊の咲き乱れる描写がすごい。
これぞ、浮世絵の面白さ。
■クロード・モネ
「ラ・ジャポネーズ(着物をまとうカミーユ・モネ)」(1876年)
真っ赤な打掛が衝撃的だ。その中央下部に配置された武将がいま、まさに刀を抜こうとする。
書籍のカラー写真ではわからなかったが、その青い武将の表情が生きているのだ。
カミーユ・モネ夫人、その主役を喰う存在。
グイと前に飛び出しそうな凄み。僕は目を奪われた。
■三代歌川広重
「『百猫画布』より9図」(1878年)
はがき大のメモ用紙に習作として描いた、そんな猫だらけの作品。
地味で他の展示に埋もれていたが、僕はこれが気に入った。
屋根で戯れる猫たち、人家でいたずらに興じる数匹、人の手にじゃれるかわいい猫。
その所作は人と異なる。
なるほど、猫を描くのは難しいね。(SHIROBAKO 7話)
■ルイス・ティファニー
「”松葉文”写真立て」
金細工の模様が良いです。
ニューヨーク、パリの感性と日本的情緒が邂逅すると、なるほど、写真立てもこうなるのか。
「ラ・ジャポネーズ」を見られただけでも満足だ。
ボストン美術館 華麗なるジャポニスム展 印象派を魅了した日本の美
京都市美術館(~11月30日まで)
名古屋ボストン美術館(2015年1月2日~5月10日)
http://www.boston-japonisme.jp/
男ひとり旅の美学 2014年7月 パリとプラハ その8
2014年7月23日、ボヘミアの中枢は快晴。
この日はプラハでアール・ヌーヴォーを満喫した。
朝食はホテル3階にあるレストランL'EPOQUEで。
アール・ヌーヴォーに彩られた内装がとても素敵だ。
食後の運動を兼ねてヴァーツラフ広場まで散歩。
書店にディスプレイされていた1冊の本を購入した。これは後述(その9)。
■Municipal House 市民会館
10時50分に市民会館へ到着。ガイドツアーに参加した。
ここは建物全体がアール・ヌーヴォー、ボヘミア・スタイルで彩られており、まさにプラハ文化の殿堂といっても過言ではないだろう。
説明は英語だが、日本語のパンフレットを貸してくれるのが嬉しい。
でも素晴らしい内装を鑑賞するのに忙しく、結局、パンフを読む暇なんてなかったな。
Smetana Hall スメタナホール
まずはここへ通された。内装に魅せられてしまった。
着座して説明に耳を傾けると、なるほど「プラハの春」音楽祭の会場でもあるんだな。
左右のボックス席はそれぞれ、チェコ大統領とプラハ市長の専用席らしい。
続いて数か所の部屋を案内された。
Confectionery
Moravian Slovak Parlour
Bozena Nemcova Parlour
続くOriental Parlourが良かった。アール・デコスタイルとアジアスタイルの混淆した装飾は面白い。
Gregr Hallはミュシャの絵画で彩られた広大な空間だ。
小冊子によると「19世紀オーストリア=ハンガリー二重帝国の軛への反発の高まる中に結成され、後の独立の運動の中核となったNational Liberal Party(つまり青年チェコ党)の指導者のひとり、Doctor Julius Gregrを記念して命名された」とある。
Mayor's Hall 市長の間
感動的な装飾はミュシャが手掛けたそうだ。圧倒される。
その後のRiegr Hall、Sladkovsky Hallも素敵だった。
エレベータだって一味違うぞ。
素晴らしいものを見せてもらったな。
■
昼食は市民会館地下のレストラン「Francouzska Restauraceフランツォウスカー・レスタウラツェ」で。(12時30分~13時15分)
こちらは素晴らしいアール・デコスタイルの内装。
チェコ料理のグラーシュ(パブリカと牛肉のシチュー)、白ワイン、水、チェコ風ブルーベリーケーキ、カプチーノを注文する。(550kc)
料理は美味だったが、店員のサービスはパリと比べるといまひとつ。
■ミュシャ美術館
作品ではなく、ミュシャその人に焦点を当てた、そんな博物館。
パンフレット込で285kc。土産は625kc。日本人観光客も多かったが、正直言っていまひとつ。
■国立美術館
プラハ城の隣にあるナショナル・ギャラリーへ。タクシーを利用するに限る(370kc)。
前日に偶然知り、楽しみにしていた「チェコにおけるジャポニズム展」を鑑賞した。(16時~、100kc)
実に面白かった。これは後述(その9)。
17時20分よりナショナル・ギャラリー横のカフェへ。
■市民会館ギャラリー「アール・ヌーボー展」
「Vital Art Nouveau 1900」としてプラハ装飾美術館のコレクションの一部を公開展示されていた。
以前に六本木で鑑賞した展示会とは比較にならない小ささで、18時10分~50分の間に鑑賞できたレベル。
それでも、初めて目にするチェコオリジナル(?)の作品も多く、十分に楽しめた。
■スメタナ・ホ-ルでのコンサート
家へのお土産はどうしよう。
少し迷って、旧市役所前のeppetへ入店。ボヘミアガラスの花瓶を購った。3990kcなり。
時間は20時前だ。さあ、市民会館はスメタナ・ホールへ。
予約した座席は2階の一番前。舞台が良く見えるぞ。
だが、客の入りの少ないこと。だだっ広いホールの十分の一も埋まっていない。演奏家の指揮に影響しなければよいのだが。
その心配はなかったようで、さすがはプロ。素晴らしい演奏を披露してくれた。
RUBINSTEIN、VIVALDI、MOZART、GRIEG…
ANTONIN DVORAKドボルザークのHUMORESKAユモレスクと、
BEDRICH SMETANAスメタナのVLTAVAヴァルタヴァが最高だった。
ちなみに、これがチェコのシンボルだそうな。
■2014年7月24日(木)、最終日
3時40分起床。辛いなぁ。でもタクシーは来てくれた。
4時20分にチェックアウトし、一路、プラハ空港へ。
5時30分に出国。
プラハ空港のビジネスラウンジへ。食事がプアー。
F32ベースのBMW M4が良いな。チェコだと、どのクラスの人が乗るんだろうか。
まぁ、ゆっくりできたからよしとするか。
7時10分にtake offして、すぐに朝食。
窓外は風力発電設備か……もう降下し始めた。
8時25分にスキポール空港へlanding。急ブレーキを踏んでくれたので体への負担が大きい。頭上の物入れのあちこちでぶつかる音がして冷や汗もの。それでアナウンスはgood-byのみ。頼むよ。
スキポールは広大だが効率的な空港のはず。なのに免税手続き場へたどりつくのに恐ろしく時間を要した。
なるほど、わざとわかりにくい場所に設置しているんだな。当然か。
KLMのラウンジでうたた寝。待ち時間が長い。
13時50分にゲートE20へ到着。セキュリティに念を入れてくれて、また恐ろしく時間がかかる。
16時に出発。えらく遅れたな。
夕食は、もしかしてエールフランスより充実? 気に入った。
原子力発電所が見える。ロシアのものかな。
朝食は卵料理。
10時頃に無事に帰国できた。良し。
続く。
写真ばかりですみません。
東京プリズン 赤坂真理 [読書記]
最終章『16歳、私の東京裁判』で第7章までの400頁分のエピソードが一気に収斂する。
「35年前の戦争に傷を負い、日本人に深い恨みを持つであろうアメリカ人」衆目の中、公開ディベートで「アメリカ人らしい」高校生と、指導教官と対峙する1981年の日本人留学生。
公開ディベートのテーマ。日本の天皇ヒロヒトには、第二次世界大戦の戦争責任がある。
不愉快、読む人によっては実に不愉快だろう。だが正鵠を得た力強い文章に迷いはなく、16歳のマリ・アカサカは、赤坂真理は断言するのだ。
「日本人とは何かを、私は、答えられない」(p454)
シャーマンの系譜でもあろう「あの人」が現われる描写も、あくまでも自然だ。そう、自然界の一部としての人間がこの作品に通底している。最初違和感があった世界観も、「東京裁判」のはじまる頃には自然と受け入れられる。赤坂真理の描写力!
最終弁論ふたたび。被告席に座るマリが昭和天皇その人の魂と一体となり、敵意むき出しのアメリカ人たちと対峙するは姿は圧倒的で、鳥肌が立つ。
キリスト教の敵。
「東京大空襲や原子爆弾投下は、ナチスのホロコーストと同次元だ」(p521)
そうか、ここまで踏み込んで議論するべきだったのだ。
著者の勇気に感服。
戦争で敗北した日本人が「日本人」としてあり続けるために、われわれは議論するべきなのだ。