都市。そこは集う人の意思により、人類史を変革した政治的事件の舞台にもなれば、知識の積み上げられた学術の地ともなりうる。
本書は、ヨーロッパの古都を事績の集積された博物館と見立て、知的センス溢れる文章が綴られる。
・発信する街ジュネーブ。市民自治と国際的主権の伝統を持ち、規模は小さいが大きく開かれた都市は、しかし寡頭民主制を生み、カルヴァンによる神権政治の素地となった。こうしてジュネーヴはプロテスタントの牙城だけでなく、国際的かつ戦闘的な宣教師の供給地となり、スコットランドやオランダへの影響力を強める(p73)。
・そのジュネーヴに生を得たジャン=ジャック・ルソーも、ジュネーヴ市民の身分に誇りを意識しつつ、フランスと生地への思いに揺れながら、やがて『社会契約論』と『新エロイーズ』を世に遺す(p80)。この相反する著作こそ、フランス文化と厳格なジュネーヴ文化との相克によるものといえよう。
・ロマンティック・エディンバラ。この新市街・旧市街の非規則的な建築物とモニュメントの配置をピクチャレスクの視点でとらえ、それらが古画的庭園を演出する小道具の配置に見立てた論述には合点がいった(p143)。
他にヴェネチィア、バルセロナ、ドレスデン、コヴェントリ、グラナダ、マンチェスター、ダブリン。
それにしても、実に"歴史欲"と旅情を掻き立てられるエッセイたち。夏の旅行先に悩むところだな。