男ひとり旅の美学

[旅の恥は書き捨て]ってことで。あと、BMWと読書感想文も。

2015年05月

自らの努力不足を棚に上げ、資金と創作時間の少なさの原因を世間に転嫁して些末な日々を送る文学士、高柳君。出自の差異はやむを得ないとして、富裕な友人、中野君の文学界での成功をうらやんでいる。煩悶はむなしい。
ある日、中野君を通じて壮年の文学士、白井先生と知古になるが、彼は高柳君が中学校時代、他の教師から扇動されて学校から追い出した人物その人であった。
5章に示される「解脱と拘泥」論と11章の白井先生の講演により、高柳君は救われる。

8章。一人ぼっちだと不平を鳴らす高柳君を、白井先生は諭す。
人より高い平面にいると自覚しながら、人がその平面を認めてくれないと不平を鳴らすから一人ぼっちなのだ。そんな平面は人も昇ってくるレベルであり、煩悶するのは矛盾だ、と。
「枯れる前に仕事をするんです」(p387)

そして11章。束縛の無い自由。この自由をいかに使いこなすかは個人の権利であり、大いなる責任である。偉大なる理想を掲げよと白井先生=漱石は説く(p429)。僕はここが気に入った。
理想を持ち、行けるところまで行くのが人生(p433)。そのために何をなすべきか、日々考えるようにしたい。

野分
漱石全集第三巻所収
著者:夏目金之助、岩波書店・1994年2月発行
2015年5月24日読了

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執事、家政婦(ハウスキーパー)、レイディーズ・メイド、フランス人料理人、一般メイド、フットマン、ナニー(乳母)等を章立て、古今の英米文学と演劇・映画を題材に、広く海外に輸出、あるいは拡張されたイギリス使用人の「イメージ」を探る一冊となっている。

・バトラー。日本での「執事」のイメージは「従僕」のそれであり、本来の執事の役割は、旧約聖書の時代から飲み物の管理だったそうだ。とはいえ、時代の推移とともに旧来の家令の役割を兼ね、屋敷の運営を差配する身となる。それゆえ、執事は使用人の中でも最高の地位を占め、場合によっては主人を超え、その屋敷の顔ともなってゆく。

・メイドさん。アッパークラスの大邸宅に住み込む専業者=ハウス・メイド、キッチンメイド、パーラー・メイド、レイディーズ・メイドは労働者階級を出自とする若者にとって出世街道の第一歩でもある。人気ドラマに表出する確執、恋愛、破滅など各種人間関係の舞台でもあり、中には雇用主の恋愛・結婚に至る例もあったとか。一方で恋愛沙汰の「罪」で破綻した彼女たちの末路は「夜の女」であり、その実態は悲惨だ。また、低ミドル・クラスに雇われる「メイド・オブ・オールワーク」の過酷な環境にも同情せざるをえない。

・フットマン。「下男」と訳せば戦前日本の辛苦の労働青年を思い描くが、イギリスのはイメージが異なる。採用には「華やかな容姿」が重視され、その給料は身長で決定付けられたという。20世紀になっても大時代的なお仕着せに身を包み、「ジェームズ」や「チャールズ」といった名で大げさな挙動で客に応対する様は、その家の「格」を顕現したものである。一方で、主人や客以外には不躾で傲慢な態度(p171)をとり、プライベートでは種々の問題を引き起こす遊び人でもあったとされるから面白い。

著者あとがきにあるように、いまやイギリスの文化遺産ともなった使用人のイメージは広く海外に輸出され、たとえばアメリカでは多忙なワーキング・ウーマンになくてはならないプロフェッションナル・ナニーとして、日本でも「執事」や「メイド」として存続している。
強い階級制によって育まれた職業「使用人」が時を経て淘汰・変質し、「イギリス文化」へと昇華した小歴史を面白く知ることができた。


執事とメイドの裏表 イギリス文化における使用人のイメージ
著者:新井潤美、白水社・2011年11月発行
2015年5月21日再読了

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5月17日を最後に長期休館になるとのことで、思い切って出向いてきた。
(2015年5月16日)

開館30分前に到着したのに、200人の行列が……。翌日で最後だもんね。

お気に入りを何点か。
■青木繁
「わだつみのいろこの宮」(1907年)
皇子と姫の出会いの瞬間が描かれたもの。姫と従僕の衣装も美麗だし、構図も秀逸。何より、未来を直感したような姫の表情に僕は目を奪われた。この、日本の至宝と呼べる作品を鑑賞できただけでも満足だ。

■Gustave CAILLEBOTTE ギュスターブ・カイユボット
「Young Man Playng the Piano ピアノを弾く若い男」(1876年)
男=実弟の表情はともかく、丹念に描き込まれた室内装飾、黒光りするピアノに映る指先などが素晴らしい。

■Georges ROUAULT ジョルジュ・ルオー
「Crist in the Outskirts 郊外のキリスト」(1924年)
ルオーの特徴的な筆遣いが存分に発揮された本作。何の変哲もない日常の街に「あの方」が現れるのも印象的だが、建築物の特に重厚な塗りに惹かれた。

ん。関西で巡回展示してくれないかな。


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併せて、三菱一号館美術館で開催の『ワシントン・ナショナル・ギャラリー展』も視てきたぞ。
ここは丸の内のオアシス空間。いいな。

■Eugene Boudin ウジェーヌ・ブーダン
「Consert at the Casino of Deauville ドゥーヴィルのカジノの演奏会」(1865年)
海辺の仮設カジノに集う有閑階級の貴顕たち。雰囲気が好みだ。
夫人の衣装だが、大勢がドーム型のクリノリンスカート着用なのに、右端の一人だけがバッスル・スタイルのクリノリンスカートを着用しているように見える。この女性、ファッションの先を見越していたのかな?

■Pierr-Auguste Renoir ルノワール
「Madame Henriot アンリオ夫人」(1876年)
唇の紅。背景の青と緑に溶け込む姿が印象的。

■Pierre Bonnard ピエール・ボナール
「Paris, Rue de Parme on Bastille Day 革命記念日のパリ、バルマ街」(1890年)
フランス国旗と夫人服の赤が印象的。
記念にポストカードを買ってしまった。

芸術に触れるのは小さな非日常。空間とともに楽しむのが吉だな。


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前作『おやすみなさい、ホームズさん』から数年後、舞台をパリとモナコ・モンテカルロに移し、ベル・エポックの歌姫、サラ・ベルナール、モナコ公国の公子とその婚約者であるアメリカ人のアリス(後のアルベール一世とアリス王女)等、華やかな登場人物が加わり、アイリーンの新たな探偵物語が動き出す。

悩めるサラ・ベルナールにハムレット役を勧めたり、モンテカルロのオペラ座創設をモナコ公室に提案するアイリーン。史実とフィクションとをうまく絡め合わせた描写が面白い。

・サラ・ベルナールの気まぐれな激情と、アイリーンの放つ落ち着いた輝き(p37)の邂逅する情景なんて、華があって実に良い。

・人物像の比喩もわかりやすい。「光り輝く青い大洋」「その水面を踊りながら照り返すまぶしい陽光」(p213)は気に入った。

・死者の入墨の謎の結末は……なるほど、ミステリアスかつエキサイティング。人生を賭けても不思議ではないな(p362)。

・池澤春菜さんによる解説も秀逸。最後の「その○○ですわ、アイリーン」って、とても良い感じ。

ただ、どうしても前作に比べるとテンポがいまひとつ(特に前半)。せっかくのホームズとの対峙も期待値に至らずといったところ。70点。


THE ADVENTURESS (GOOD MORNING, IRENE)
おめざめですか、アイリーン
著者:Carole Nelson Douglas、日暮雅通(訳)、東京創元社・2013年11月発行
2015年5月11日読了

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2014年12月29日(月)

■マダム・タッソーの館

地下鉄でベーカー街へ。楽ちん。
9時40分、マダム・タッソーの館は長蛇の列。ここは大人しく並ぶ。
チケットを入手できたのが11時で、しかも45分後の入場だと?

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ものは考えようで、その待ち時間を利用してリージェントパークを散歩することにした。
兵庫県立明石公園とはまた異なる趣き。
春から夏にかけては、草花がきれいなんだろうが、冬の公園もまた良し。

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氷の上を滑り歩く鳥たち。かわいいものだ。

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Park Crescentの高級アパート群。どんなクラスの人が住んでいるのかな。
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で、マダム・タッソーの蝋人形の館だが、ここは素直に楽しめた。
残念ながら日本人(葉加瀬太郎さんとか)には会えなかったが、著名人と写真に納まることができた。
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12時に館を出る。
シャーロック・ホームズ博物館も長蛇の列。ここは以前(2010年4月)に視たからいいや。

地下鉄でいったんホテルへ戻る。ジュビリー線はまた故障で、他線を経由。
ホテルのラウンジで小休止(多い)。ビール2本とクッキー3枚が昼食となった。

13時50分に再出発。バス9番でナイツブリッジへ。
ハロッズで土産探しも楽しいが、どれも高い!

■科学博物館

14時45分、Science Museum科学博物館へ。
ここは発電、交通、航空宇宙、コンピュータなどあらゆる産業遺産を集めた博物館で、実に面白かった。

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蒸気タービンって、1891年に実用化されていたのか。
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Apple Home Computer 革命的PC
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Cray-1A 懐かしのスーパーコンピュータ
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世界標準時の時計システム
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A piece of the moon
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■夜の路地は人でいっぱい

タクシーでCovent gardenコヴェントガーデンへ。ここは大盛況。
The East India companyで紅茶を購入した。(24GBP)
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歩いてLIBERTY リバティ百貨店へ。ここで良いお土産を買うことができた。
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リージェントストリートはものすごい人、人、人。
タクシーも全くつかまらず、歩いていったんホテルに戻る。

■THE PHANTOM OF THE OPERA

HER MAJESTY'S THEATREへ。
オペラ座の怪人を鑑賞するのも二度目。前回(2014年4月)と演出が異なっていた。
地下の隠れ家に「人形」がいない。なるほど、このほうがすっきりするな。

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劇場ではついに日本人に会わなかった。中国人の活気の良いこと。
3人組の若者と会話したが、彼らは上海近郊の街からやってきたそうな。
彼らの活力ある姿を見ていると、彼らの国と我国の将来の対比も垣間みえてくる。
楽しい劇場で、少し悲しくなった。

22時30分に戻る。
夕食は6オンスハンバーガーだ。ファストフード店のものと全く異なり、実に美味。
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■帰国です。

2014年12月30日(火)

6時50分にホテルをチェックアウトし、直下のチャリング・クロス駅から地下鉄ピカデリーラインに乗る。
8時10分にヒースロー空港ターミナル4に到着。

オランダ時間11時15分にスキポール空港着。ここは広い。
ラウンジでシャンパン、赤ワイン、チーズ、ハム、クッキーを摂取。

復路・関西空港行きのKL867便777-200のエコノミーコンフォート席は空いている。
今回も最前列にしたが、往路777-300と違って足元が広くて快適。

10時間45分の航空旅行が始まった。

日本時間の午前4時。西シベリアはもちろん雲の上。厳しい寒さの窓外に、恐ろしいほどの星々が輝く。特にオリオン座が際立つ。こんな空を間近に見られるのも夜の航空旅行の醍醐味だな。

ふと、エンジンと主翼に目をやると、上方に影がついている。遠方、東の太陽が下側を照らしているのか。初めて見た。
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平成26年の大晦日の10時に無事に帰国できた。良し。

駄文にお付き合いいただき、ありがとうございました。

END

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