日本社会の都市化に伴って生まれた概念の一つ。それが「少女」だ。本書はモダンな戦前、窮乏の戦間・敗戦から復興、高度経済成長へと、激動の昭和期に少女時代を送った女性たちの衣食文化、勉学・稽古ごと等の日常、戦争の影響、そして社会的立場の違いによる生活の差異、特に都市の女学生と地方の若年労働者の「格差」が取り上げられる。
■第1章 昭和を少女たちはどう生きたか
少女文化。それは大正から昭和にかけて拡がった都市中流家庭の開明的な文化嗜好を背景に、特有のメディア=少女雑誌に示されるモダン志向文化であった。それは結婚までの短いモラトリアムの育んだ、彼女たちの生活文化の特徴でもある。
その中で、彼女たちに勉学は求められない。花嫁修業として重要視されていたのは稽古ごとであり、いかに多様な技術をものにすることに時間を費消していたのかがわかる。
p38~39の写真がお気に入りだ。
女学校の独身寮には、厳しい指導の中にも華やかな彩がみられる。一方で女学校への進学率は15%(p27、昭和5年)であり、多くの少女は小学校卒業を待たずに労働環境に身を置いた。地方の工場へ働きに出た者は会社の寮で寝起きすることになるが、その実態は現在の基準からみて実に過酷、非人道的なものであったとわかる。
そして戦争。日の丸鉢巻の軍国少女と言えば聞こえ良いが、貴重な人生の一側面がいかに破壊されたのか。
「エライ人のいうことを簡単に信じてはいけない」(p87)とは、現在にも通底する真理だ。
■第2章 道を拓いた女性たちの少女時代
日本近代女性史研究の第一人者、永原和子さん。女性漫画家の草分け、亀井三恵子さん。象設計集団を率いる建築家、富田玲子さん。在日二世として朝鮮人の姿を伝え続ける宋富子さん。
先駆的なチャレンジと地道な努力によって自身の運命を花開かせ、いまなお第一線で活躍する四人の女性の半生が振り返られる。
読んで感じたのは、彼女たちの人生がそのまま、貴い人生指南書であるということ。そして家庭や生育地での教育環境がいかに重要であるかということだ。
「はっきり自己主張すること、自由に生きること、社会貢献すること、幅広い趣味を持つこと」(p139、富田玲子さんのお母上のお言葉)
自信をもって自立すること(p22)の重要さ。
先駆者に恥じない生き方をしなければ、とあらためて気を引き締めさせてくれる。そんな読後感を得た。
少女たちの昭和
編者:小泉和子、河出書房新社・2013年6月発行
2015年6月6日読了