男ひとり旅の美学

[旅の恥は書き捨て]ってことで。あと、BMWと読書感想文も。

2017年12月

連載40周年記念ということで足を運んできた(2017/12/16)。

広くない会場の95%を占めるは、やはり女性だ。当時のカラ-版を含む原稿が多数、ガラスパネルに納められ、それを見るだけで熱いストーリーがわかる。
王道を行く大河ロマン。本物は、やはり良い。

僕は男だから興味なし、のはずだった。何を間違えたか、レンタルビデオ店で手にしたアニメ版『ガラスの仮面』に心を奪われたのが2000年代という……。

で、「紅天女」って、まだ決着がついてなかったんだな! 昭和、平成、そして次の時代へ持ち越されることになるとは。
原作者の池内すずえ氏のパワーはスゴイな。見習わないと!


芸術に触れるのは小さな非日常。空間とともに楽しむのが吉だな。

『ガラスの仮面』展
美術館「えき」KYOTO
2017年12月25日まで開催
http://www.asahi.com/event/garakameten/

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ヴィクトリア朝時代の物語詩を朗読向けに翻訳。美の香り豊かな名訳文が物語を惹きたててくれる。

・3人の幼きときから青春の日々への変遷は、アニーとイノックを結びつけ、フィリップを良き隣人として運命付ける。幸せな日々はしかし、突然の悲劇に見舞われる。新しい運命をアニーと子らは受け入れる。

・漂流の10年。変化(へんげ)したイノックの身体に、それでも神に支えられた精神は宿っている。そして帰郷へ。

・暖かな光の中に、"他人"となった元家族のだんらんを覗き見る悲劇。張り裂けそうな心を必死に押さえ、イノックは一人生きる決意を新たにするのだが……。

真直ぐに堂々と生きてきた。最愛の人の幸せをたしかめた。そして最期を悟り、語ること、想いを託すことのできたイノックは、まだ幸せだったのではないだろうか。

暖かな思いをもって読了。紙面の質も装丁も近年のものと違って格調高いつくり。文芸本はかくあるべし。

ENOCH ARDEN
イノック・アーデン
著者:Alfred Tennyson、原田宗典(訳)、岩波書店・2006年10月発行
2017年12月10日読了

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イノック・アーデン
アルフレッド テニスン
岩波書店
2006-10-04


グラフィックデザインの黎明期に新しい仕事を切り開いていった杉浦非水の作品が「三越の仕事」「デザインの仕事」「図案集」「非水百花譜」の4章にバランスよく収められている。

・三越呉服店の華やかなポスターと会報誌。和風アール・ヌーヴォーと呼ぶべきか、100年を経過した現在でも古臭さを感じさせないセンスは、やはり本物だ。

・「<美>と<経済>のバランスのうえに成り立つデザインというジャンルの本質」(p79)、顧客の無茶で過大な"要求"と現実的かつセンスある"成果"をどう両立させるのか。広い意味でのデザインの本質を、彼は心得ていたんだなと思う。

・『東洋唯一の地下鐵道上野浅草間開通』(1927年)は何度見ても飽きない。着飾った婦人たちや子供の姿、煙草を手に近づく電車へ目をやる紳士。そしてこの構図。良いなぁ(p86)。

・各種「図案集」も秀逸。アール・ヌーヴォーのみならずアール・デコの風潮を逃さず、日本風にアレンジ。素晴らしい。

本書そのものも美術作品集にふさわしい手触りとなっており、申し分ない。ただ、できればB5ではなく、A4サイズで出版して欲しかったと思う。


HISUI SUGIURA : A PIONEER OF JAPANESE GRAPHIC DESIGHN
杉浦非水のデザイン
パイ・インターナショナル・2014年3月発行
2017年12月7日読了

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杉浦非水のデザイン
杉浦 非水
パイインターナショナル
2014-03-12


ヴィクトリア時代に刊行された総合雑誌を対象に、そのインド論、中国論、日本論を分析することによって、当時のアジア・イメージの変遷と「文明化の使命」の史的変遷が描かれる。
インド・イメージ(第4章)と中国イメージ(第5章)が本書の半数を占め、引用される当時の雑誌評論文の数量は圧倒的だ。日本に関する情報の少なさはやむを得ないところ(第6章)。

・インドについては、統治手法の変化が決定的となる1857年の大反乱をキーに据えて1800年代を四期に分け、70を超える雑誌評論文を読み解き、その傾向からイギリス人にとってのインド・イメージの変遷を考察する。
・「停滞した物質文明と、イスラム教とバラモンに支配され、カースト制にとらわれた中世的な精神文化」のイメージに彩られたインドを、「普遍的な西洋文明」の光をもってヨーロッパ的なレベルに引き上げるべきであるとする「文明化の使命」(p88)論は、大反乱を経てもなお主流であった。だがドイツとアメリカに追い上げられてワールド・パワーとしての大英帝国の地位の低下が明らかになる1880年代になると、インドを不可分の帝国領土とする帝国主義的論調が堂々と目立つようになるという(p103)。

・地の果て、極東の古い帝国である中国に対しては、18世紀に論じられた好意的なイメージ=安定した穏健な専制的帝国に対し、いかに西洋文明を輸出するかという議論が、1850年代から盛んになる。こちらも50を超える総合雑誌の評論文を引用・解説しつつ、イギリスにとっての中国イメージの変化を読み解く。
・1890年代になると、険悪化する国際関係の中で、いかにして中国でのイギリスの通商的利益を維持するかに主眼を置き、中国の改革、すなわち近代化・文明化を「強制」すべしとの論調が力を得てくる。改革の一向に進展しないアジアの老大国に対し、「きわめて無知で迷信的な」中国人、「馬鹿げた慣習」の横溢する中国は「東洋における巨大なタコ」だ、等の厳しい表現が顕れるのもこの時期だ。

・1850年代にはほとんど注目されなかった「人形の家の文明」を持つ日本は、停滞する中国と比較され、さらにはジャポニスムの影響もあり、1860年代頃より好意的なイメージで捉えられるのみならず、日清戦争を契機として、アジアにおける大国、男性的国家と評されるようになる。ただ、西洋文明の摂取に熱中するあまり、自身の相対的な芸術的・文明的価値を認識できなくなった(p217)との評論も存在したのだな。

包括的なアジア・イメージは1800年代後半を通じて変容し、それはイギリス自身のイメージにどう影響を与えたか。アジア諸国の工業化の影に怯え、それは「文明化の使命」に疑義を投げかける。そしてパクス・ブリタニアの衰えが見え隠れする1880年代以降は、社会進化論や人種主義の勃興により、全人類の「単一の連合体」への統合を目指す「帝国の使命」をもって世界に君臨するイギリスへと、セルフ・イメージを変遷させた。ここに、帝国主義の正当化が完成する。

自由貿易と「文明化の使命」の両輪をもって、世界をイギリスのイメージに従って変革しようとする衝動。すなわち、文明世界という外観を持ち、自由貿易によってリンクされた農耕の国際分業が貫徹した世界(p253)の実現は、19世紀中葉のヴィクトリニアリズムの楽観的な時代の産物であったというのが、本書の結論である。

大英帝国のアジア・イメージ
著者:東田雅博、ミネルヴァ書房・1996年3月発行
2017年12月7日読了

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都市犯罪に主眼を置くポー、ドイル等の作品に比べ、移動手段を含む観光ミステリーの多さがクリスティー・ミステリーの特徴である。本書は、年代区分別に、特に戦間期における大英帝国の最盛期から戦後の帝国解体・社会福祉国家への変貌が、クリスティーとその作品に与えた影響を考察する。僕のようなクリスティー初心者にはとても参考になった。

・『茶色の服の男』は、独身女性の南アフリカ行きを視野に置き、汽船、鉄道、地下鉄の登場する初期のミステリーだが、そのヒットの要因を、大英帝国博覧会で露わになった人々の「観光願望」を捉えたものと分析する(p58)。1920年代は貴族・ジェントリにとどまらず、中産階級が帝国の版図を中心に海外へ足を延ばした時代でもあり、夢や憧憬であった「海外観光」を身近に感じられる作品として、時代のニーズにマッチしたんだな。

・1930年代のオリエント=シンプソン急行(p89)を舞台とする『オリエント急行殺人事件』(p98)と、『ナイルに死す』(p109)の解題は有意義だ。大英帝国をこの目で確かめ、明るい未来を確認するという国民の潜在的要望に沿った作品群は、なるほど、ベストセラーになりうるな。

・第二次世界大戦を挟んでの中産階級の境遇の変化、すなわち配給制度の継続、帝国の解体による配当の減少、村への見知らぬ帰郷者の増大等が、クリスティー作品に変節をもたらしたとの分析は秀逸だ(第五章、田園への旅)。『予告殺人』をぜひ読まねば。

・帝国の繁栄と変貌を背景に、「観光」と「田園」が20世紀イギリス人の普遍的な関心事とするなら、なるほど、クリスティーの作品はしっかり応えてくれる。

「空間」の旅、過去を呼び覚ます「時間」の旅。その背景にあるのは20世紀イギリスの繁栄と衰亡か。この視点で作品を読み返してみたい。

アガサ・クリスティーの大英帝国 名作ミステリと「観光」の時代
著者:東秀紀、筑摩書房・2017年5月発行
2017年12月1日読了

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