地方都市の美しさと、そこで生き抜くことの厳しさを、緩急ある文章で味わえる。
・木工職人・鹿谷氏の工房で集う愉しみ。高校の後輩・蜂須賀譲との淡い関わり。地元での新鮮な出会いと期待は大きくなるばかり。
・神職、そして人生設計の問題。犬の形をした絶望(p98)。どこかで狂ってしまった歯車は、そのまま回り続けて……。
・「まだこんな時間だからこそかれは、夜をやり直すことができると思ったのだった」(p115)
・手にしたと思ったものが壊れてゆく瞬間は、確かにある。後半のドラマチックな展開とスピード感が素晴らしい。
考えて、考えて、「過去が過去になっていく」(p268)。これって、つまり漸進ってことだ。
人へのたゆまぬ対峙が人生を形づくってゆく。納得の谷崎潤一郎賞受賞作だ。
薄情
著者:絲山秋子、河出書房新社・2018年7月発行
2018年8月26日読了