男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

2018年10月

退役海軍提督を祖父に持ち、ウォールストリートの金融業界に努めるエリート・アメリカ人青年ラリーは、プロポーズした恋人に「日本をみてくること」を告げられる。京都、大阪、別府温泉、そして東京。見知らぬ日本の姿に一喜一憂しながら、ラリーは旅路の果てに何をみるのか。
著者ならではのユーモアとペーソスを楽しめる一冊。

・スマホやPCを持たない、往年の旅のスタイル。これは一度やってみたい。
・旅先で出会う人々。京都で一目ぼれした和装の女性と関係を結び、夜の大阪城を見上げながら旅のオーストラリア人と日本文化を議論し、"地獄"で温泉滞在20年の老アメリカ人と哲学を語る。アメリカ式生活を良しとする商社マン家族の孤独な少年とその母親に己の姿を映し出す。一期一会。
・やがてラリーは北海道・釧路へ向かう。ただ、丹頂鶴の舞う姿を求めて。そこで思わぬ人と出会い……。
・ラリーの祖父の言動には重みがある。「人間はみな、地球というバトルシップのクルーだ」(p133)として、普段見かけない老人ホームレスに躊躇せずに施しを与える。その貴い意識こそが軍人であることを許される所以か。こういう男を共に持ちたい。

ひとり旅。それは自分の過去を振り返ることであるが、著者は「大きな愛を知ること」でもあると解釈する。
釧路での"発見"はやや安直な気もするが、そこは御愛嬌か。

わが心のジェニファー
著者:浅田次郎、小学館・2018年10月発行
2018年10月23日読了
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1945年、敗戦・分割占領されたベルリンの米軍慰安所でウェイトレスとして働くアウグステの日常から物語は始まる。突然ソヴィエト監視所に連れられ、毒殺された旧知の演奏者について尋問を受けるアウグステ。ここで僕は既視感にとらわれる。冒頭から遠慮なく投げかけられるは、ひとの本質を突く強い文章。そう、これは『朗読者』『階段を下りる女』のベルンハルト・シュリンクを読んでいる感覚、いや、それを超越した骨太さだ。アウグステと"ユダヤ人"カフカの旅を追う「本編」とナチス政権下でのアウグステと両親の苦闘を描く「幕間」のバランスも見事だ。
・Ⅰ章ラスト近くの「高い建物が消え失せて…」の文章には唸らされた(p92)。
・廃墟となった繁華街の中で、それでも楽しく生きようとする人々の描写は心に残る(p138)。
・中盤で明かされるはカフカの運命。俳優として"演じる"ことの真の意味が語られる。
・「幕間」と、特にⅢ章のカフカの独白に表現される全体主義の恐ろしさよ。軍需用ユダヤ人、そして夜間の強制移住の恐ろしさは身の毛もよだつ(p266)。人間性の根幹からの否定。「ドイツ人は皆ヒトラーに洗脳されている」とアメリカ軍士官に言わせたのは絶妙だ。「…どれが"まとも"なのか教えてくれよ!」(p269)
・カフカにとっての"あいつ"。「まだ息があるのに埋めるな」(p267)。アウグステにとってのギゼラ(p214)。一生ついてまわるは後悔の念か、それとも忘却への願いか。
・ベルリン爆撃の描写は迫真だ(p427)。ブロックバスター爆弾と焼夷弾の恐ろしさが強く伝わってくる。
・知人はどんどん死んでゆく。ナチス親衛隊の手により、ユダヤ人収容所により、イギリスとアメリカの空爆により。「最後のひとりまで戦え」。ちぎれたハーケンクロイツ旗。「あんたも気をつけな。生き延びてまた会おうよ」(p432)赤軍の猛烈な侵略を受けたベルリン市民の最期は壮絶だ(p434)。誰もが殺しあう日々……。
・そして、密告者、隣人の喪服の女性が、自殺を試みた瀕死の女性が、アウグステに語ったある事実(p437)……。

物語に通底するは、非占領国民の強さと"哀しみ"だ。4か国の外国人に蹂躙され、未来を見通せない中で日々生きていくことの困難さよ。
戦後70年を経過しても"ナチ狩り"に執念を燃やすドイツ人の姿は、わかるような気がする。それは自らへ課す贖罪でもあるのだ。

旅路の果てに、それでも希望は、ある。ベルリンは晴れているか。これだけの物語を紡ぎ、胸奥深いところを緩やかに刺激する文章を書きあげた著者の力量に脱帽だ。

ベルリンは晴れているか
著者:深緑野分、筑摩書房・2018年9月発行
2018年10月16日読了
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虚偽の報道で利益を得る者、訂正されない誤報とメディアの責任。ジャーナリストの矜持と個人の見得と名声。中盤までの展開からこのようなテーマを想定していたが、"レベル"が違った。終盤の圧倒的な展開に著者の凄みを思い知らされた。

それぞれがジャーナリスト個人の姿を追う連作短編集の形式で物語は進行する。巨大新聞社の体質、虚報がもたらす被害者の悲劇の人生、ネットの出現と新聞離れ、記者という仕事のやり甲斐以上の誇り(p115)、テレビの堕落、司法権力とメディアの結託・特権。そして、匿名性とネット時代の人権。

新しい時代の、得体の知れない大波(p270)に抗うこと。
タイトルの「歪んだ波紋」の意味は、最終章で明らかになる(p272)。そしてその処方箋も。

フェイク・ニュースとレガシーメディアとの関係。テクノロジーが引き起こす新しい"社会革命"。これが真実なら恐ろしい事態が進行していることになる。メディア・リテラシーが問われて久しいが、彼らはその上を行く。厳しい現実だ。

歪んだ波紋
著者:塩田武士、講談社・2018年8月発行
2018年10月6日読了
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歪んだ波紋
塩田 武士
講談社
2018-08-09

2018年9月17日(月)晴

■旧開智学校校舎

5時50分起床。朝食バイキングは和食テイストに。
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8時50分チェックアウト。良い宿でした。荷物を預けて観光に出発。
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市内周遊バス「タウンスニーカー」に乗車し、重要文化財・旧開智学校校舎へ9時15分に到着。
明治6年開校か。
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明治期の洋風建築。
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明治~昭和の教育現場を再現した内部は興味深いものがあった。
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■旧松本高等学校……。
交通手段に乏しい観光地なので、近くの営業所でタクシーを呼んでもらった。
1,500円かけて旧松本高等学校へ。
え? 臨時休館? 台風21号の影響で破損? そんなぁ……。
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しかたがないので歩きます。

■松本市美術館

10時45分、松本市美術館へ到着。インパクトあるなぁ。
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全館、草間彌生の水玉がアイデンティティとなっている。
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常設展示、洋画家・田村一男の作品などを観る。ふむふむ。

『弁天本店』が良かった。
観光客にまとわりつき「小銭」をねだるガキたち。
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お気に入り
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こんなのもあるんだな。アルファベットが斬新。
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十辺舎一九
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■中町通りを歩く。
松本民芸家具・中央民芸ショールームが良かった(写真忘れた)。
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中の橋を渡って繩手通りへ。絵になるな。
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昼食は明治10年創業の蕎麦処「弁天本店」で。レトロな雰囲気バツグンの店だ。
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ホテルに戻り、荷物を受け取る。タクシーを呼んでもらってJR松本駅へ。
お土産をたくさん買ってしまった。

ワイドビューしなの16号がやってきた。復路もグリーン車だ。
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17時過ぎに名古屋駅へ到着。のぞみ117号に乗車し、ビールを飲みつつ、新神戸経由西明石へ。

これで初秋の上高地・松本旅行は終わりです。
最後まで拙文にお付き合いくださり、ありがとうございました。


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