男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

2018年11月

JR九州ホテル長崎はまずまず快適でした。
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長崎駅前の高架橋から見下ろすと、こんな感じ。
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長崎駅から路面電車に乗車。大浦天主堂へ向かいます。路面電車の運転席をしばし観察。なるほど、この「ガチャガチャ」回すのが運転のキモなんだな。
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9時20分、大浦天主堂駅へ到着。
わが国ボウリング発祥の地か。へぇ。
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■大浦天主堂
グラバー坂を上ります。やはりきついなぁ。
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入場料金は1,000円。内部の写真撮影は禁止。強気だなぁ。
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でも綺麗だから良いか。
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天主堂内のステンドグラスも天井の梁構造も見事だったが、キリストさま、云々ってやつは馴染めないなぁ。
併設された博物館も、まぁ、良かったと思う。

■グラバー圜
大浦天主堂を少し歩くと、グラバー園に到着。この辺りが長崎観光のハイライトだな。
入場料金510円。ここは価値があったぞ!
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入場すると、しばらくは複数のエスカレータで上方へ向かう。楽ちんだし、景色も良い。
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最初に入ったのは「自由亭」だ。ここは『色づく世界の明日から』で「明治亭」として登場するから気になっていたのだ。
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紅茶シフォンケーキとロイヤルコーヒーが実に美味しかった。
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さて、園内を散策しようか。
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旧三菱第2ドックハウスからは、広く長崎港を見渡せる。
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これが世界遺産のジャイアント・クレーンだな。
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旧三菱第2ドックハウス内。良い趣味だ。
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プッチーニと蝶々夫人
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旧リンガー住宅
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オペラ『蝶々夫人』にまつわる物品が展示されていた。
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旧オルト住宅
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旧グラバー住宅は見事だった。
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12時にグラバー園を出る。
グラバー坂の江崎べっ甲店で、お土産のペンダントを購入。32,000円なり(僕が身に着けるわけではない)。

いったん、オランダ通りを北西へ向かい、そこからオランダ坂を上ってみる。坂の街だけあって、登り甲斐(?)がある。
東山手甲十三番館を見て、坂を上る。東山手洋風住宅群はレストランなどになっている。今日はタイ料理? 遠慮しておこう。
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■東山公園
急で狭い階段を昇ってはるばるやってきたのに、あれ? なんかイメージしていたのと違うぞ。
春になって桜が咲けば、良い感じになるのかな?
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■グラバースカイロード
昨夜、鍋冠山公園から降りるときに乗った斜面エレベータだ。
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石橋駅から路面電車に乗って、出島へ向かいます。

■出島
ここは鎖国時代の出島の街並みを再現したテーマパークだが、なにかもの足りない。侍やオランダ人(あの特徴あるエリ飾りね)の扮装をした人物を歩かせれば、もっと面白くなるだろうに!
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商館長(カピタン)の屋敷は良かった。
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そろそろ時間がなくなってきた。でも、あの場所へ行かないわけにはゆかない。

■平和公園
大波止駅から路面電車に乗って、平和公園で降りる。車内は満員。外国人も結構乗車していた。
14時10分、あの像へ向かって歩き始める。
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合掌。
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思えば35年前も、ここでこうやって佇んでいたのを思い出す。
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欧米系の外国人の姿が多かった。感慨深いものがあるな。

平和公園前の「和泉屋」でお土産のカステラを購入。

■空港へ
路面電車に乗って長崎駅へ。15時ジャストに長崎駅へ到着。長崎電鉄のアプリから購入した「24時間チケット」も使い尽くした。これは実に良かったぞ。
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15時15分に長崎バスターミナルから空港行きバスに乗車。16時10分に長崎空港へ到着。予定通りだ。
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で、昼食がまだだった。空港ビル1Fの「牡丹」で特製長崎ちゃんぽんと生ビール。旅の終わりのグルメとしては良いのではないだろうか。
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……まだだ。長崎名物「角煮まんじゅう」を購入。これを待ち合いでビールを飲みながら食すのだ。B級グルメ万歳。
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17時15分、伊丹空港行きANA786便にボーディング。普通席は狭いが、1時間の我慢だ。
18時15分に伊丹空港へ到着。
空港内レストランは、どこも行列ができている。
……情けないことに、コンビニで購ったパンとドーナツが夕食となってしまった。

バスで三ノ宮駅へ。20時30分に無事に帰宅。


最後まで拙文にお付き合いくださり、ありがとうございました。

http://iroduku.jp/



修学旅行で訪れた大浦天主堂や平和記念象への再訪をうっすら考えていたところ、放映中のアニメ『色づく世界の明日から』の舞台が長崎だという。 これは行かねば!
タウン・リュックひとつの旅が始まる。

【参考データ】
往路便
 2018/11/23金 伊丹空港13時15分発ANA783便、長崎空港行き
復路便
 2018/11/24土 長崎空港17時30分発ANA786便、伊丹空港行き
宿泊先
 2018/11/23金 JR九州ホテル長崎(1泊)

https://www.nagasaki-tabinet.com/s/course/64519/

■2018年11月23日(金) 長崎へ!

11時10分に伊丹空港へ到着。小腹がすいたのでたこ焼きを食す。美味い。
屋上展望台をうろうろ。まだまだ時間に余裕があるぞ。
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早めにチェックイン。ANAはひさしぶりのプレミアムクラスに搭乗だ。でも関西空港国際線と違って、伊丹空港ANAラウンジはハッキリ言ってしょぼい。食べるものはスナック菓子だけ。コーヒー2杯で読書する。

13時5分にANA783便にboarding。プレミアムクラスは3人だけだ。
13時50分頃に昼食が提供される。「本日は和食です」って、美味だから良し。
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14時33分、長崎空港に到着した。

長崎市街への交通は、はっきり言ってバスしかない。片道900円のことろ、往復チケット代金は1600円とお得。
5番乗り場から14時45分に長崎駅行きバスは出発した。

最初は長崎駅へ向かい、ホテルへ投宿する予定だったが、気が変わった。15時20分に新地中華街で降車。

長崎市街はトラム=路面電車が通っており、実に良い。乗車代金は1回120円だが、長崎電鉄のアプリから24時間チケットを購入した。何度乗っても600円だから、これもお得だ。

15時30分、新地中華街駅から路面電車に乗車。めがね橋へ到着。
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なかなか風情があるじゃないか。
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路面電車に乗り、新地中華街駅で乗り替えて、16時17分に大浦天主堂駅で降車。
……港に客船が泊まっているぞ。大浦海岸通へ西へ向かい、岸壁へ向かう。松が枝埠頭に係留されているのは中国船籍の大型客船だ。いいなぁ。(この後、この船が長崎港を出港するのを見届けることになる。)

グラバー坂を上る。結構きつい。大浦天主堂の白い姿を横目に、祈念坂へ向かう。

■祈念坂
ここは遠藤周作が好んで散策した地で、さだまさし『解夏』のロケ地となり、放映中の『色づく世界の明日から』のメインビジュアルでもある。石畳と長崎港と大浦天主堂。良いなぁ。
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で、そのまま鍋冠山公園の展望台を目指すのだ。階段がキツイ!

■鍋冠山公園
16時50分、鍋冠山公園に到着。絶景かな!
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夕陽の沈む女神大橋(ヴィーナスウィング)は美しい!
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三菱重工長崎造船所にはLPG船に加え、2隻の護衛艦『あしがら』と『しらぬい』が係留されている。いいぞ!
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おおっ、夕刻に間近で見あげた客船がタグボートに引かれて長崎埠頭を離れていく。しばし観察。
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これが長崎の夜景か。
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18時だ。暗いのは良いが寒くなってきた。しゃれにならない冷え方だ。下山しようか。
斜行エレベータに乗ったのは生まれて初めてだ。階数表示が斜めになっているのも面白い。

大浦天主堂駅から路面電車に乗って新地中華街へ到着。時刻は18時40分、夕食時だ。
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■皿うどん三昧
まずは「レストラン西湖」で特製皿うどんと海老シュウマイ、ビールを注文。ちゃんぽんの太麺を揚げた麺は新鮮な感覚だ。
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19時40分、2件目は有名店「蘇州林」へ。皿うどんと春巻きとビールを注文。美味いぞ!
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20時10分、お腹いっぱいで、ホテルへ向かいます。路面電車で新地中華街駅から長崎駅へ。
なんか、田舎だなぁ。コンビニで朝食のパンやビール等を購い、JR九州ホテル長崎へ。あれ? 入り口が良く分からないぞ。
駅前ショップビル(アミュプラザ長崎)の中をうろうろし、やっとホテルの入り口を見つけることができた。少し配慮が足りないなぁ。

20時5分位チェックイン。……期待していたほどではない、普通のビジネスホテルじゃないか。これで10,800円も取られるのか。
まぁ、内部は清潔だし、トイレと風呂もピカピカの最新設備だし、素泊まりで文句はない。

一日の仕上げは杏仁豆腐とビール。続きます。



本書は、蒸気機関が船舶に応用された19世紀前半を嚆矢として、巨大なオーシャンライナーをはじめとする外航客船の歴史を取り上げる。興味深いのは平和時の姿だけでなく、19世紀からの戦争に利用されてきた側面も描かれていることである。
見知らぬ土地への好奇心(p1)。それは誰しもが持つものであろうが、本書を読み進めると、イギリス国民のチャレンジ力と、それが生み出した大英帝国の国力の膨大さに圧倒されてしまう。

・北大西洋定期航路、P&Oラインなどの東方路線、ブリティッシュ・インディア、太平洋路線、欧州・アフリカライン、日本の船会社を含む南米航路、フランス・ドイツ・イタリアの船会社と造船業、二度の世界大戦と戦後など、本書は幅広く客船を扱う。
・北大西洋航路を中心に客船の大型化、高速化は進化の一途を遂げる。蒸気機関を完成の域に昇華させたイギリスを筆頭に、フランス、アメリカ、ドイツ、イタリアが追い上げる構図はすごい。
・『グレート・イースタン』(p62)『オリンピック』『タイタニック』『ブリタニック』(p53,298)『エンプレス・オブ・インディア』(p162)『日本丸』(p172)『バルモラル・カースル』(p193無線電信器)『浅間丸』『秩父丸』(p336)等、後世に名を遺すスター・シップの誕生の経緯とその雄姿には、実に興味深いものがある。
・P&O、ホワイト・スター・ライン、キュナード・ライン、パシフィック・メール・ライン、日本郵船、大阪商船、東洋汽船、等々。各船会社の経営と「人」も紹介される。東洋汽船を率いた浅野総一郎はすごい人物だったんだな(p170,308)。
・初期の蒸気レシプロエンジンから蒸気タービン、ディーゼル(p234)、ターボエレクトリック推進(p365)、そしてディーゼル電気推進(p375)へ。機関の変遷だけでも面白い。
・日本の客船が戦火をかいくぐってきた哀しい運命を識ると、実に感慨深いものがある。横浜に係留される『氷川丸』は豪華だったが、今度は違う目で観てみようと思う。
・「当時の日本では船殻製作技術はあったものの、船内装飾のノウハウ~は高くなかった」(p339)というのは、現在でも変わらないと思う。
・船の歴史に海の男あり。本書では船会社、造船会社の経営者を中心に様々な人物像が取り上げられているが、現場の船員については戦時下の『コルンブス』の船長(p391)を除いてほとんど触れられていない。また別の機会にってところだろうか。
・インド、南アフリカ、インドシナ、オーストラリア。客船の航路に付随するのは「内地と外地」「宗主国と植民地」の関係だ。本書は客船・航路の観点から欧米侵略史観が述べられる(p142、p184インド大反乱、北清事変、ボーア戦争、スーダン事変等)。それにしても、19世紀から20世紀初頭は、一個人の熱意と働きが国をも動かす時代だったんだとわかる(p206西アフリカの逸話)。

著者は大阪商船(株)を経て九州急行フェリー(株)の社長を務めた「海の男」だ。それだけに「船」』一隻一隻への思い入れの深さが紙面から伝わってくる。
日本においても造船業が衰退して久しい。それでも「客船」の夢は消えることはないし、こんにちでも往時の航海の様子をクルーズで垣間見られる。本気で「客船」に乗ってみたくなった。

それにしても、20世紀になって登場した豪華客船『ノルマンディー』『クイーン・メリー』『ユナイテッド・ステイツ』は、モノクロ写真だけで見ても実にほれぼれする姿だ。一度で良いからこの目で見たかったな。(と思ったら『クイーン・メリー』がロングビーチに係留されているそうな。出かけようか。p387)

The History of Ocean Liners
客船の世界史 世界をつないだ外航客船クロニクル
著者:野間恒、潮書房光人新社・2018年11月発行
2018年11月27日読了
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芥川賞受賞作『広場の孤独』をはじめ、『方丈記私記』『若き日の詩人たちの肖像』『時間』『橋上幻想』など、まるで21世紀の混沌を予告するかのような「乱世に生きる強靭な文学作品」を遺した堀田善衛。
そうそうたるメンバー(みな1940年代生まれ)が堀田善衛の作品とその人を語りつくす。

・歴史を透視すること。繰り返し読み込むこと(p7,8)。
・池澤夏樹さんは『若き日の詩人たちの肖像』『方丈記私記』を題材に堀田文学を語る。かつてあった暗黒の時代、「最悪、ここへ戻る」(p25)可能性のある現代、何を頼りにして生きるか。それは個人の思想であり、世間の動きに一喜一憂しないこと(p33)。なるほど。
・国家から離れた時に自分はどこへ行き、何者になるのか(p49)。かつてベ平連に参加した吉岡忍さんの問いは、そのまま自問ともなる。『橋上幻想』の背景も見えてくる。
・異邦人の眼差し。それが鹿島茂さんと大高保二郎さんの文章から感じた重要な点のひとつだ。日本を、あるいは自分を客観的にみること。
・仕事の意味、あるは接し方を、「強靭な文学」(p161)堀田作品に裏打ちされた宮崎駿さんの言葉に見つけられたような気がする。
・世界を歩いて、見て、知る。歴史の重層性を知識のみならず体感として知る。その上で考える、か(p203)。

うすっぺらな人生を歩んでいるうちに、時間はどんどん過ぎてゆく。本書を読んで、密度の濃い生き方をしようと僕は心に決めた。

堀田善衛を読む 世界を知り抜くための羅針盤
著者:池澤夏樹、吉岡忍、鹿島茂、大高保二郎、宮崎駿、中西進、高志の国文学館・編、集英社・2018年10月発行
2018年11月25日読了
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貧しくとも幸せかつ心豊かに人々が暮らすルップマイゼ共和国で、マリカは生まれる。生後一日目にして与えられたのは小さな赤い手袋、ミトンだ。そう、この共和国の人々にとって、ミトンが生きる象徴であり、気持ちを伝える媒介でもある。恋をして、一生懸命に生きたマリカの生涯が、ここに綴られる。
ロマン・ロラン『ピエールとリュース』、テニスン『イノック・アーデン』を彷彿させる、美の香り豊かな文章。そして温かな挿画が物語を惹きたててくれる。

・共和国にはYESの言葉が存在しない。プロポーズの返事にミトンを心を込めて編み、自然の中で結婚式を迎える……なんとも素敵じゃないか。
・氷の帝国に支配される共和国。長い長い年月、人は耐えて、明日を信じ、そして旅立ってゆく。
・一日だけの長生きを神に願う描写が良い。(p115)
・最終章。「だって、泣いていても何も生まれないじゃないですか」(p188)この強さを、そっと胸に刻みたい。
・巻末にカラーで紹介されるは、モデルとなったラトビア共和国だ。1991年、ソビエト連邦の崩壊と前後して独立を取り戻した彼らの喜びは、報道を見て聴いていた僕にも伝わってきた。そして、マリカも最愛の夫と「手をつないで」静かに旅立つ(p191)。最後は涙なしでは読めなかった。

第6章、そのラストを読み返すのは辛い。胸に希望の灯のともる時、人は明日を信じて生きてゆくことができる。きっと、良い明日を信じて。

ミ・ト・ン
著者:小川糸、平澤まりこ、白泉社・2017年11月発行
2018年11月12日読了
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ミ・ト・ン (MOE BOOKS)
小川 糸
白泉社
2017-10-27



1925年に勃発した五・三〇事件を題材に、貿易商社・GEやAEGなどの国際的企業人、国で食っていけない流れもの、ロシア人亡命者、港湾の苦力、インド人商人、そして売笑婦。彼らとまじりあう日本人会社員・参木と甲谷の姿を通して、猥雑なエネルギーに満ち満ちた上海の姿が活写される。
いわゆるモダニズムの手法を駆使して書かれた文体は新鮮だが、読みやすい。

・上海の街の姿、特に夜の露地の描写が群を抜いている。襤褸を纏って眠る苦力、欧米人に群がる極彩色に着飾った売笑婦、裏露地の猥雑な商店、怪しげな物売り……。現在の上海からは想像できない混沌が、目前に顕われるようだ。
・祖国を追われた白系ロシア人。もと上流階級の彼らに生きる術は少なく、若い女性となればなおさらだ。参木の腕を取りながら「モスコウに帰りたい」とつぶやくオルガの姿が印象的だ(p83)。
・二八章、お柳の中国人の旦那と、木材商・甲谷とのやり取りは圧巻だ。中国の大きさを見せつけられた最後には、阿片に溺れる姿を見せつけられる甲谷は何を思うだろう。
・やがて勃発するは、日系紡績工場での中国人工員による罷業と死人、そして日貨排斥の嵐。邦人が街角で襲撃され、上海全市で大規模なストライキが発生し、食糧難となる租界。そんな中でも参木は、甲谷は女を愛で、自らの死を思い、飢えた胃袋を肴に煙草を飲む。
・随所に顕われるは、中国人の底意地の悪さ。これは現代と変わらないか。
・巻末の「横光利一の『上海』を読む」は五・三〇事件の背景と経緯が中国人の視点から解説される。2012年の反日暴動。上海で、北京で、瀋陽で、日系デパートや自動車工場が破壊される有様が蘇った。なるほど、反帝国主義、現在まで続く「反日」の源流は1925年に溯るのだな。

巻末の解説で唐亜明氏が述べるように、「人類はまちがいなく交錯した歴史の流れのなかで生きてきた」(p341)ことに同感。歴史教科書の内容をアジアで統一しようとする試みなどは一笑を買うであろう。
著者は序文(初版)に書いている。「自分の住む惨めな東洋」と(p312)。作中、李の山口宛の書簡(p276)に記された、世界支配を目論む西洋白人への東洋人の対峙こそ、著者が問題にしたかったことなのだろう。

上海
著者:横光利一、岩波書店・1956年1月発行
2018年11月10日読了
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上海 (岩波文庫)
横光 利一
岩波書店
2008-02-15



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