男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

2019年02月

データを突き付けられて唖然とする。そうか、世界はこんなにも変わっていたのか。「知っていると思いこんでいるだけで、本当は印象に流されている」(p38)だけの自分を発見する。著者(故人)は、事実に基づき、世界を正しくみることを、そして自分を批判的にみることを教えてくれた。

・「先進国と途上国」から「4つの地域と4つの所得レベル」の世界へ。まだ普及はしていないが画期的な分類方法だ。
・「最もコストパフォーマンスが良いやり方で、できるだけ多くの子供の命を救うこと」(p166)には考えさせられた。
・テクノロジー、国、社会、文化、宗教は刻々と変わり続けている(p237)。これらのこともつい忘れがちになる。気を付けないと。
・「ドラマチックな対策よりも、たいていは地道な一歩に効果がある」(p308)振り返ってみれば、その通りだと思う。
・ウィキペディアの情報の偏りについての言及がある(p155)。留意しておかないと。
・極度の貧困は克服されつつある。次は温暖化対策、テロ対策、疾病対策……。110億人全員が望んだ生活を送られるような、新しいテクノロジーの開発か(p281)。おおいに啓蒙されたぞ。

世界について、感情的な考え、あるいは自分勝手なバイアスがかかって考えていたことを思い知らされた。
頭にこびりついた思い込みをクリアにするのは容易ではないが、本書をヒントに常に知識をアップデートし、世界と自分のありのままの姿を直視し、そこから比較・相対化して判断・行動することにしよう。

FACTFULNESS
ファクトフルネス 10の思い込みを乗り越え、データを基に世界を正しく見る習慣
著者:Hans Rosling、上杉周作、関美和(訳)、日経BP社・2019年1月発行

新興国家クシュ。1960年にフランスから独立した北西アフリカの社会主義国家であり、1968年の軍事クーデターにより政権を奪取した「非常事態革命軍事最高評議会」議長の治めるイスラム国家である。その議長にして終身大統領であり、クシュ陸軍大佐でもある「私」を軸に物語は進む。
・干ばつは厳しく国民は飢える。人道援助に訪れたアメリカ人を火刑にし、前国王を三日月刀で公開処刑し、腹心の内務大臣に裏切られ、年上の第一婦人に罵られ、米国人の第二婦人に悲しまれ、新しい愛人の変心に合う。デタントとはいえ、米ソ冷戦真最中の1970年代だ。領土深い山地に隠された2基の核ミサイルと駐屯するソ連兵。CIAと思われる小集団の襲撃。祖国のためにクーデターで権力を奪取したものの、為政者に心休まる暇などない。これもアッラーの思し召しか。
・1950年代、主人公のアメリカ大学時代。黒人仲間での自由討議(p158~)はなかなか興味深い。ブラック・ムスリムの会合で、ついに彼は「未来の自分の姿」を発見する。それがイスラム社会主義国家クシュの統治につながるのか。
・「斬首エドゥムー廟」を中心に、自分に知らされずに開発されたプロジェクトの存在を知る大統領。国際資本の侵入は容赦できない、国境閉鎖だ。外国人観光客の銃殺を命じる大統領だが、その後に訪問した、自分の名が冠せられた近代都市と石油精製工場を目の当たりにしたときの驚きと怒りは、いかほどのものであったか。そして彼の感性はマルクスとアラーのそれに同一する。「往古の荒涼たる姿を回復せよ」(p296) イスラム・マルクス主義の理想。高尚なエレルー大統領の演説は、彼自信をムハンマドの再来であるように満足させただろう。だが群衆の選択は「アメリカ人技師から無料でふるまわれる一杯のビール」であった。

クシュの旧宗主国フランス、あるいはイギリス、ベルギー、ポルトガルに代わってアフリカ大陸を侵食するはもっぱらアメリカだ。この20世紀最強の資本主義国家が、文化帝国主義の側面を隠そうともせずにクシュを覆い、その過程で「私」の運命も定まるわけだが、伝統と儀式的生活、外国からの援助による開発の相反する側面からみると、(あるかもしれなかった)もうひとつの日本の姿もみえてこよう。

THE COUP
クーデタ
池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 Ⅱ-05所収
著者:John Updike、池澤夏樹(訳)、河出書房新社・2009年7月発行
2019年2月26日読了
DSCN4185

クーデタ (池澤夏樹=個人編集 世界文学全集 2-5)
ジョン・アップダイク
河出書房新社
2009-07-11


産業革命を経て都市への人口集中が加速し、新しい文化を築いたヴィクトリア朝英国。本書は1850年代以降に普及した新しいメディア=写真をふんだんに使い、大英帝国絶頂期の社会と都市文化を活写した写真が満載の一冊である。
フランスのダゲレオタイプに対する、イギリスの「タルボット氏によるカメラ研究」の一節も愉しい。

・本書の真髄は第3部「変わりゆく街並みと人々」にある。19世紀中葉にイギリスを”都市化”させた鉄道が近世の光景を一変させたが、その様相をとらえた写真が多数掲載されている。解説文も満足のゆく内容だ。
・海野弘さんの「写された英国」では、英国写真協会、1851年万国博覧会とアルバート王子、カルト・ド・ヴィジト、絵葉書に関して解説され、本書で取り上げる時代光景を把握できる。
・建築中のウェストミンスター寺院とトラファルガー広場の写真を見るのは初めてだ(「王都ロンドン古今ロマン紀行」)。
・「人々を魅了した英国美女」のポートレート集も良い。エレン・テリー16歳の美しさときたら……(p81)。
・南方熊楠、夏目漱石、高村幸太郎だけでなく、コナン・ドイルの肖像を描いた牧野義雄や、詩人の野口米次郎のエピソードも取り上げてほしかった(「日本人の見たロンドン」)。
・個人的には、1910年の日英博覧会会場となったホワイト・シティと、活況を呈するコヴェントガーデンの写真を見られたことに満足。

社会の下層を捉えた写真は、本書ではホワイトチャペルの一枚のみだ(p154)。撮影リソースが貴重で高価な時代、どうしても王侯貴族などの華やかな対象を撮影しがちで、そもそも絶対数が少ないのかも。絵入りロンドン・ニュースやパンチなどを併読しないと、写真だけで時代の全体像を切り取るのは難しいってことか。

できれば同じシリーズ構成で、戦間期ヨーロッパを対象に一冊発行されることを切に願う。

レンズが撮らえた19世紀英国
著者:海野弘、山川出版社・2016年8月発行
2019年2月19日読了
DSCN4183


20年以上前に読んだときは先生に同情したが、今回はその身勝手ぶりが微妙に感じられた。残された「お嬢さん=妻」は何も知らずに、このさき何十年も一人で生きていく身となる……。
・私と先生の年齢差は10年程度だが、世代間の格差は大きいとされている。社会的には明治の10年は現在の10年よりも進歩が激しかったんだろうなぁ。
・生きているうちに両親を安心させてあげたい、喜ばせてあげたいとの気持ち(両親と私 一)。僕もいまになってよくわかるようになった。
・奥さんが先生を脅かしたという何気ない言葉。確かに、瞬時に心が凍えるな。(先生と遺書 四十七)
・自分も、自分を裏切った叔父と同じ類の人間だと気づき、先生の矜持はガラガラと崩れ去る。前後不覚に陥ると、生死の判別さえつかなくなるのか。(先生と遺書 五十二)
いつページを開いても味わいのある文章は絶品。年月を経ても色あせず、読む時期によって多様な読後感を得られることが漱石作品の魅力だ。

漱石全集第九巻
心 先生の遺書
著者:夏目金之助、岩波書店・1994年9月発行
2019年2月16日読了
DSCN4182

こころ (新潮文庫)
夏目 漱石
新潮社
2004-03


17世紀のチューダー王朝期の木組み住宅から20世紀初頭のエドワーディアン様式まで、物件によっては建築から数百年を経た現在でも使われているという、英国住宅。その魅力は何か、長持ちの秘訣がどこにあるのか、併せて英国人のライフスタイルが多数の写真・図版により解説される。

・イギリス人の考え方は「家は物ではなく文化」「家はその土地から生えている」「土地は所有するものでなく利用するもの」か。日本とずいぶんと違うことがわかる。それに小さくても庭は必須らしい。
・チューダー・ジャコビアン、ジョージアン・リージェンシー、ヴィクトリアン、アーツ&クラフツ、エドワーディアン。それぞれの時代の建築物の特徴と、テラスハウス、セミデタッチドなどの建築様式と、実際の生活スタイルが紹介される。
・ロンドン、コッツウォルズ、湖水地方、ウェールズ、スコットランドなど、地域によって異なる街並みの様相とそれぞれの美しさよ。旅の楽しみが一つ増えた気分。
・暖炉とウィンドウ・ディスプレイ、室内照明、壁面デザイン、キッチンの考え方……。日本でも参考になりそう!
・英国人の家への思い。「私たち日本人は、自分の家を紹介するときどこか自慢できるところはあるでしょうか」(p116) 僕も自室と庭をきれいにすることにしよう。

ハリー・ポッター、小公女、ディケンズ博物館、ダウントン・アビー等、数多いコラムも愉しい。それにしてもヴィクトリアン・スタイルのテラスハウスの美しさは筆舌に尽くしがたいな。

図説 英国の住宅 住まいに見るイギリス人のライフスタイル
著者:山田佳世子、Cha Tea紅茶教室、河出書房新社・2018年2月発行
2019年2月11日読了

日本の古典を底本とする小品と翻訳を中心に初期の34作品を収録。

『クラリモンド』(クレオパトラの一夜、1914年)
ゴーチエ作La Morte Amoureuse(死霊の恋、Clarimondoe)の芥川訳。「こめかみの上へ二つの漣立った黄金の河を流してゐた」(p82)「わしは夜よりも暗く、夜よりも更に語なく」(p124)など、フランスのエスプリそのままに、和文の雅さを加味した作品となっている。

『芋粥』(新小説、1916年)
漱石の推薦を受けた芥川の出世作。ゴーゴリ作『外套』の臆病な小役人アカーキエビッチを彷彿させる主人公が切ない。「人間は、時として、充たされるか、充たされないか、わからない欲望の為に、一生を捧げてしまう。その愚を哂ふ者は、畢竟、人生に対する路傍の人にすぎない」(p229)なるほど、欲望への執着は大事だな。

『野呂松人形』(人文、1916年)
アナトール・フランスの言葉を引き合いに「僕たちは、時代と場所との制限をうけない美があると信じたがってゐる」(p221)との思いを吐露する芥川。その思いは現在まで受け継がれている。

『羅生門』(帝国文学、1915年)
『鼻』(新思潮、1916年)
平安時代にあって雅さとは無縁の非情な世界観が顕わにされる。

『父』(新思潮、1916年)、新渡戸稲造の或る一日に発見した「女の武士道」を描いた『手巾』(中央公論、1916年)も印象深い。他に『バルタザアル』『大川の水』『青年と死と』『虱』『酒虫』『仙人』等を収録。

芥川龍之介全集 第一巻 羅生門 鼻
著者:芥川龍之介、岩波書店・1995年11月発行
2019年2月10日読了
DSCN4181


ロンドン中心部の住宅事情、夏のロンドンで"庭"の持つ意味、年代物のタウンハウスの持つ味わい。
タウンハウスの魅力を引き出す美麗な写真をフルカラーで味わえる。
・1666年のロンドン大火を契機に、街並みは一変した。木造個別住宅からレンガまたは石造による集合住宅への変遷。300年以上たった今でも統一された美しい景観をわれわれに提供してくれる。
・住宅取引の90%が中古住宅とは驚きだ(p80)。
・巻末に、本文中に紹介されたタウンハウスのリストと地図が掲載されているのは嬉しい。
・僕のお気に入りのグロスター・プレイス(ベーカーストリートの近傍)に触れられていないのは意外だった。
「時を経てもなお美しさを増すジョージアンやヴィクトリアンに住むこと」(p84)が、人々にとって憧れとある。古い歴史的文化。それを手入れして「活用」しつつ、後世に伝えてゆくことの素晴らしさが、この日本でも見直されることを願って、美麗な装丁の本書を閉じた。

ロンドンのタウンハウス巡り
著者:加藤峯男、建築メディア研究所・2015年7月発行
2019年2月7日読了
DSCN9800
ロンドンのタウンハウス巡り
加藤 峯男
建築メディア研究所
2015-07-27


1890年代にイギリスで出版された「THE DESCRIPTIVE ALBUM OF LONDON」を再編集したもの。当時の生活風景を映し出す70枚の写真と記事は興味深く、いまでは失われたクリスタル・パレスやアールズ・コートの観覧車などの記述はとても新鮮だ。

・冒頭の鳥観図は貴重だ。またAldwychオールドウィッチの半環状道路は、当時はまだ整備されていないことがわかる(p13)。
・トラファルガー・スクエアに面して建つ「THE GRANDO HOTEL」(p3,77,79)、その華やかなホテルとしての姿を垣間見られるのはうれしい。建物だけは現在でも見ることはできるが。
・セント・ポール大聖堂、タワー・ブリッジ、ロンドン塔、ビッグ・ベンと国会議事堂、シティ界隈の石造建造物など、観光対象でもあるロンドンの主要建築物は100年以上前からその姿を変えていないとわかる。
・セント・トーマス病院も、現在の殺風景なビルと違って、ドイツ軍の空襲によって全焼する前の美しい姿を見せてくれる(p57)。
・コヴェント・ガーデンの賑わい(p69)。ディケンズやドイルの作品等に登場するニューゲイト監獄(p45)。写真を見るのは初めてだ。
・ハイドパークのロットン・ロウは当時は「馬車専用道」だったんだな(p127)。

夏目漱石、牧野義雄、少し時代は下って長谷川如是閑の見て歩いたロンドンがどのような光景だったのかを想像するは楽し。本書はその強力な一助となってくれた。

100年前シリーズ 100年前のロンドン
マール社・1996年4月発行
2019年2月6日読了
DSCN4180

100年前のロンドン (100年前シリーズ)
マール社編集部
マール社
1996-04




オールカラー絵画32点を収録。マネ、バーン=ジョーンズ、ルーベンス、ブリューゲル、ゴーギャン、ベラスケス、ターナー、ティツィアーノ、クリムトなどなど。
一枚の絵画に秘められた神話・歴史的史実・文学的要素。中野京子さんの解説を頭に入れて鑑賞すると、作品がここまで面白くなるのかと唸らされました。

・どの章も興味深く読めたが、『選択』『マクベス夫人に扮したエレン・テリー』による世紀末大女優の物語が特に印象に残った。
・『アンコレ橋のナポレオン』『死刑囚の監房』作品が認められ、底辺から身を起こして成功することは称賛されるべきだが、富と地位を得ると人間はかくも変わるのか。
・「相手の個人的事情も正義も悪も立場もいっさい考慮しない」女神フォルトゥナ(p30)、女性を次々に毒牙にかける天空の支配者ゼウス(p128)、半獣人マルシュアスの生皮を平然とそぎ落とす太陽神アポロン(p180)、「人間ごときを歯牙にも」かけない女神アテナ(p185)。神々の力=大自然と運命に翻弄される人間と動物の物語は哀しくも力強い。

個人的な話で恐縮ですが、2014年4月にコートールド美術館でマネ『フォリー=ベルジェールのバー』を鑑賞し、数日後にパリのFOLIES BERGEREを訪問しました。その時は漠然としていましたが、華やかなミュージックホールの裏側、うつろな目でこちらをみる彼女の思い、時代の残酷さと可能性など、本書の「若さと綺麗な顔だけを武器に」によって作品世界が拡がった気がします。

中野京子と読み解く運命の絵 もう逃れられない
著者:中野京子、文藝春秋・2019年1月発行
2019年2月5日読了
DSCN4179DSC_0358



1935年、小さな作家ブライオニーの創作から物語は始まる。久しぶりにロンドンより帰郷する兄のため、客人として招かれた従妹たちをキャストに自作劇の上演を計画するが、ふとしたきっかけで放棄することとなる。
延々と続く情景描写から一転、ロビーの「誤った手紙」を持ったブライオニーが屋敷の扉を閉ざしたとき、物語は突然に動き出す(p161)。「あの言葉」「タイプ文字四つの悪魔」(p194)が13歳の想像力たくましい少女に襲い掛かる。
親愛なる姉セシーリアと幼馴染というだけの使用人の息子、ロビー。男と姉が急接近する中、その「事件」を目撃したブライオニーは決意を行動に移す。それがどのような結末をロビーの人生にもたらすかを深く考えもせずに……。

・第一部はロンドン南東部サリー県にあるタリス邸での長い一日が、主要人物の意識の流れをもって描写される。ブライオニーの成長、すなわち末娘の子供時代の終わりに寄せる母親の思い(p257)にはぐっときた。
・ブライオニーの思春期は不安定な危うい時期でもあったのだ。ああ、思い込みの恐ろしさは犯罪的ですらある。
・第二部はロビーの視点から物語が進められ、第一部とは違って動きのある描写だ。6年前の出来事、川べりで演じられたブライオニーとロビーのドラマの回想(p390)。戦場にあってはセシーリアのたった一言が生き抜く糧となるのだ。
・第三部。ロンドンはテムズ川沿いの聖トーマス病院に、見習い看護師として忙しく働く18歳のブライオニーがいた。大学進学をあきらめ、だが作家としての自分を忘れず、おまるやシーツを洗う毎日。正看護師となった姉のセシーリア同様、家族とはほぼ絶縁状態に身を置くことで、彼女は何を思うのか。オランダとベルギーが降伏し、ドイツ軍がドーヴァー海峡に迫るとき、彼女は思いを強くする。「自分は許されざる存在なのだ」(p473)
・突然戦場と化した病院で患者の「旅立ち」にブライオニーがひとりで直面するシーン(p515)。そして姉の言葉(p561)。その筆力には恐れ入った。

神の視点と人間の思い。「最後の善行であり、忘却と絶望への抵抗」(p618)ラストの展開には涙腺が緩むのを禁じえなかった。小説はこうでなくっては!

Atonement
贖罪
著者:Ian McEwan、小山太一(訳)、新潮社・2019年1月発行
2019年2月2日読了
DSCN4178
贖罪 (新潮文庫)
イアン マキューアン
新潮社
2018-12-22

つぐない [Blu-ray]
キーラ・ナイトレイ
ジェネオン・ユニバーサル
2012-04-13


↑このページのトップヘ