男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

2020年08月

単焦点レンズCARL ZEISS Batis 2/40CFを購入しました。
SONY α7RⅣへの装着感も良い感じ。そして軽い!

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神戸・六甲山で試写。きめ細かな描写に満足です。
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ああ、はやく大手を振って遠くへの旅行に行きたいなぁ。

クラスの軟派の女王クレオパトラこと相庭陽子、硬派の大将である佐伯一枝、主人公は個人主義者の弓削牧子。とある東京の女学生たちの日常、ちょっとした冒険と心のやり取りを同時代的に描いた吉屋信子の昭和七年発表の作品。当時の女学生の言葉遣いや時代背景も新鮮にうつる。
・何でもない一枝とのノートの貸し借りに端を発し、お誕生日会への招待、夏の水泳学校、秋の横浜冒険旅行、と派手な陽子に振り回される牧子。こころのどこかで現状を打破したい、との気持ちを抑えての行動だが、残された弟の気持ちに気づくこともない。
・謹厳な父から母亡き後の自分の宿命を告げられた牧子は、心の中でイヤだと叫んでしまう(p155)。「教育的」でない、こういった描写が当時の読者の共感を呼んだんだろうな。
・夏の終わりに大切な母を亡くし、自暴自棄になって新学期を迎えた牧子は、陽子の誘いに乗ってしまう。しかし陽子はモダンガールはだしの活発な娘だな。赤バイ(昭和11年より前の白バイ)との夜のカーチェイスなんて、親が知ったらたまげるだろうに。それにしても戦前の横浜と神戸は、別格の国際港湾都市だったことが物語の端々からみえてくる。
・弟の失踪事件を受けての家族の和解、一枝姉妹との邂逅、そして「魔法の輪」の外へ。クライマックス『家の灯』は実に心温まるエピソードだ。湘南の浜辺でのラストシーンも実に良い。同じ勿忘草の香りでも、心情によってこうまで変化するものなのか。
リアルな心情の吐露も人間関係の難解さも、計算しつくされた構成とわかりやすい文章で読ませてくれる。時代を超越して読み継がれるべき作品は、やはり一味違うな。

吉屋信子乙女小説コレクション1
わすれなぐさ
著者:吉屋信子、国書刊行会・2003年2月発行
2020年8月16日読了
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ある犯行者の意識と行動を追う異色のミステリー。完璧と思われた行為が次々と暴かれてゆく様子は当事者でなくとも恐怖感を味わえる。『樽』に登場したフレンチ警部の活躍も見もの。
・冒頭、被害者の孫がロンドンからパリはル・ブルジュ空港行きインペリアル航空の乗客として飛行する描写が秀逸だ。祖父とその執事と父親との小旅行。事故にあった母に会いに行くためとはいえ、10歳のローズにとっては大冒険だったはずだ。ときに1932年9月、クロイドン空港からフランス・ボーヴェ空港(霧のために行き先が変更された)への航空旅行を終えたとき、祖父が死亡していたことが明らかになる。検視尋問の結果、自殺の線で決着がつくが、ここから甥のチャールズの犯行への長い旅程が語られる異色の構成となっている。
・倒産寸前の小型発電機工場を救うための、遺産の前貸し要請に耳を貸さない叔父への憎悪。「ひとりの命V.S.多数のいのち」「ひとつの悪V.S.ふたつの悪」チャールズの犯行へのきっかけは単純なものだが、そこに人の弱さが潜んでいる。一方的な熱愛を傾注するユナ嬢への恋慕は、行動を決定的にするのだ。
・練りに寝られた計画に則って「行動」は成し遂げられる。後日あらわれた目撃者も、これも消してしまえば恐ろしいものは何もない。
・安堵と高揚感。愛にあふれる未来の予感。だが、明晰な頭脳を持つスコットランド・ヤードのフレンチ警部の執念による捜査は、チャールズの意図を看破する。順風満帆な日々は、深夜の逮捕状をもって永久に崩れ去るのだ。
・法廷に立った瞬間、チャールズは八方から注がれる視線(p284)におののき、訴追側の主任弁護士(検察側)の驚くような追及に精神的に耐え、「恐怖に恐怖が積み重なって」感覚の麻痺する状況(p344)に陥る様子は、臨場感あふれる描写力によっていっそう恐怖感がひきたつ。
チャールズが苦境の日常を変革するために行動に移るまでの日々、犯行後の恐怖感の毎日、みごとな公判の大きく三つのシーンから構成される。人間なるがゆえの弱さ、そして自らの心のスキへの対峙を考えさせてくれる傑作長編といえよう。

THE 12.30 FROM CROYDON
クロイドン発12時30分 
著者:Freeman Wills Crofts、霧島義明(訳)、創元社・2019年2月発行
2020年8月10日読了
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クロイドン発12時30分【新訳版】 (創元推理文庫)
F・W・クロフツ
東京創元社
2019-02-20


神戸を代表する坂道、トアロードの中腹に、芝居の建物のように赤く塗られたそのホテルはあった。昭和17年の冬、逃れるように東京を出でた西東三鬼は、数名の外国人と十余名の夜の女ばかりが長期滞在する国際色豊かなホテルに落ち着く。怪しげなエジプト人、亡命ロシア人、トルコ人、台湾人、朝鮮人たちの驚愕の生業、三ノ宮のバーのマダムたちの生態、半狂人の豊かな精神、俳句仲間との邂逅……「鬼畜米英」「欲しがりません勝つまでは」のスローガンはどこへやら、過酷な戦中・戦後にあってハイカラ・コスモポリタリズムな神戸の街と人々が織りなす稀有な物語が赤裸々につづられる。
・あやしい生肉を仕入れてくるエジプト人、20歳の紳士な台湾人、夜のお相手として日本女性を駐留ドイツ兵に斡旋する白系ロシア人女性ブローカー、もちろん、心身たくましいバーのマダムたち。彼らひとりひとりにまつわる哀しい人生は思わず涙を誘う。
・大正時代に渡仏してパイロットとなり、第一次世界大戦に従軍した日本人、その老境が語られる第七話「自動車旅行」が秀逸の出来だ。
・「当時の官憲、なかんずく軍部という狂人共に、強い嫌悪を感じていた」(p75)、そして「自由を我らに」を信仰する住人たちは、戦時色というエタイの知れない暴力に最後まで抵抗した(p111)。ファシズムへの神戸らしい対抗心は良いなぁ。
・「悪いのは日本軍部。国民は被害者だ」との認識が米軍兵士の間に浸透していたという(p142)。まだ救いか。
・終戦後の広島でのどがカラカラに乾いた「私」。「月もなく、星もなく、何もない。あるのは暗い夜だけだ」(p170)原子爆弾。すべての人間の悪を一心に凝縮して、三鬼は神戸への帰路に就く。
・焼け野原の神戸は悲惨だ。肥え太った中国人に不動産を買い占められて追い出される痩せた日本人。傍若無人なアメリカ兵の夜の振る舞いに日本人女は泣かされる(現代沖縄の悲劇はここに端を発する)。きれいごとではない実態があっけらかんとした筆致でつまびらかにされる。「敵愾心などは通り越して、私は人間そのものがいやになった」(p174)
大本営発表など信用せず、商人のうわさ話や、ドイツ水兵やイタリア兵士のもたらす真実の話などなど、市井の人々が独自に情報を仕入れ、たくましく生きていた記録は想像を超えてすごかった。
自分の力で生きてゆくこと。
空爆で焦土にされるまでの国際都市とそこに住まう人々のあり方は、実に生きにくい令和=コロナ時代を生きるわれわれにとってもおおいに参考になる。

神戸・続神戸
著者:西東三鬼、新潮社・2019年7月発行
2020年8月2日読了
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神戸・続神戸 (新潮文庫)
西東 三鬼
新潮社
2019-06-26


1920年代後半のニューヨークを舞台に、やる気に満ち溢れた田舎娘が新聞記者として成長してゆく姿を、当時の世相と合わせて垣間みる……な物語。日本でいえば昭和ヒト桁にあたるのか。
・グレタ・ガルボ、サーカス団、フォード自動車工場、禁酒法、ギャング団……。時代のテーマがてんこ盛りです。
・自動車工場の非人間的なライン作業の描写はキツイ。仕事を離れることでホッとしたジョーの姿がけなげ。
・「ここは〇〇〇ですか?」(p115)には笑わせてもらいました。『マンハッタンの休日』は肩ひじ張らずに読める面白さ(某映画作品に似ている? そこは御愛敬)。「かぶりつくのよ」(p123)も良いなぁ。そしてチャールストンがステキです。

「マンハッタン、私の街!」(p154)そしてジョーは真のニューヨーカーになる。
華やかな表舞台だけでなく、この時代の負の側面を隠すことなく物語に盛り込み、愉しい世界観に昇華させていることは特筆できます。
楽しい物語をありがとうございました。
「ベルと紫太郎」とのコラボも読みたいな……。
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