男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

2020年12月

1900~1902年の風景写真、漱石にかかわった人物の写真(!)に肖像画、デパートの製品カタログ、当時の建築物と社会風俗の品々など、ワット氏の収集した膨大な資料に小解説が添えられ、稲垣足穂氏、恒松郁夫氏の協力もあり、漱石留学時代のロンドンを追体験できる興味深い一冊となっている。
・ちょうど漱石の時代に、紳士の服装がシルクハット+フロックコートからソフト帽+スーツに変わり、乗合馬車を駆逐する勢いで自動車が広まりつつあったのか。そして1901年委テラコッタの外観を持つハロッズ百貨店が新装開店している。
・トラファルガー広場の噴水の彫刻が、現在のものと違っている。1900年当時はこんなだったのだな。
・200年を超える民主主義によって培われた公衆道徳の良さに漱石は驚いている。明治のことを想えばわかるような気がする。
・『味の素』で有名な池田菊苗氏とのロンドンでの邂逅が、ふさぎかけていた漱石の精神を活発に働かせたことがわかる。これを機会に漱石は系統だった、重みのある読書・研究にいそしむようになる。
交通機関を別として。ロンドンの街並みは100年前とほとんど変わらないという。ならば現地へ出向いて漱石の足跡を追体験して愉しむも良し、新たな発見に喜ぶも良し、だな。

漱石のロンドン風景
著者:出口保夫、アンドリュー・ワット、研究社出版・1985年8月発行
2020年12月29日読了
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漱石のロンドン風景 (中公文庫)
ワット,アンドリュー
中央公論社
1995-05T


第一次世界大戦の災厄を二度と起こさないために、いまできることは何か。人類史上初の大規模な軍縮、ワシントン会議に続く、ロンドン海軍軍縮会議が開催されようとしていた。若槻礼次郎を首席全権に就任させるべく奔走し、自らも1930年1月の会議に臨んだ外務省情報部長、雑賀潤。本作は、彼の目を通して米英全権とのタフな交渉、海軍軍令部との軋轢と駆け引き、そして枢密院による反民主政府的な批准審議と、何物にも屈しない浜口雄幸内閣の姿を綴る一級の長編小説であり、当時のロンドンの描写とあいまって、とても興味深く読むことができた。
ロンドンのバーの地下蔵で邂逅する謎の女性、春子の存在も、ミステリーとしての本作のおもしろさを盛り上げてくれた。
・外交官はタフでなければ務まらない。交渉相手国に対しても、国内の右翼と軍人に対しても。条約の締結並びに批准に強硬に反対し、政府に立ちはだかるは、日本海海戦の英雄にして「軍神」、東郷平八郎である。仕事とはいえ、なんとも難儀な。西洋事情を熟知する公家政治家にして最後の元老である西園寺公望が味方に付いてくれたことは幸運だったのかも。
・山本五十六(大佐→少将に昇進)が雑賀の知古であり、随員として参加しているとは知らなかった。
・「論旨明瞭にして有言実行」(p276)。こうありたいものだ。
・当時米英に対して惹起された「国力を度外視した、きわめて感情的な強硬論」(p29)に注意しなければならないのは、現在も変わらない。10年単位で滑り落ちてゆく日本の国力を想えば、対中強硬論など愚の骨頂でしかない。
・大正デモクラシーの華、立憲政党による議会政治はあえなく終焉を迎えることとなる……。それでも外交官・雑賀は、いまや日本を敵対視する米英とのタフな交渉に臨むのだ。

日米英がそれぞれの国内から強い批判を浴びながら、画期的なロンドン軍縮条約を締結・批准した政府・外交当局の華々しい成果に対し、陸軍・海軍は苦い顔で何を悟ったのだろう。ひとり関東軍は柳条湖で浅はかな謀略を実行に移し、大日本帝国中央政府の意向を無視して満州で戦線を拡大した。これを黙認した陸軍は、やがて中国本国への侵略を開始する。海軍でも条約締結に協力した者は排斥され、山本五十六ら強硬な「艦隊派」が権力を掌握し……。
軽挙妄動。日本軍部の独走さえなければアメリカ、イギリスとの関係は違ったものになっていたでろうし、大日本帝国もおそらくは存続していたであろうに。本書を読むと、ABCD包囲網、そしてみじめな敗戦と国民の悲惨は、頑なな日本の軍部の独走が引き起こしたものだとはっきりわかる。
「男子の本懐だ」(p551)。浜口雄幸の生き方には共感させられること幾たび。これだけでも本作を読み終えた収穫といえる。

LONDON RAGING WAVES
ロンドン狂瀾
著者:中路啓太、光文社・2016年1月発行
2020年12月26日読了
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ロンドン狂瀾(上) (光文社文庫)
中路 啓太
光文社
2018-04-27

ロンドン狂瀾(下) (光文社文庫)
中路 啓太
光文社
2018-04-27


ニューヨークの山中商会で実績を積み、渋沢栄一と大倉喜八郎によって日本人初の帝国ホテル支配人を任された林愛作、スキャンダルにまみれながらも、林によって米国から招へいされたフランク・ロイド・ライト、林に案内されてホテルを見学し、やがてライトの助手となる遠藤新(あらた)、林タカ、遠藤都、名もなき職人たち。建築に丸4年、構想から実に12年。世界に誇れる"最新の迎賓館"を実現するための男女の熱い思いが交錯し、衝突し、溶解する。地位を失った者、家族を失った者、完成を待つことなく日本を去った者、それぞれの人生を手繰り寄せながら、物語は綴られる。
・日本人の目には西洋的に映り、西洋人の目には日本的に感じられる、世界のどこにもないホテル(p155)。それがシカゴ万国博覧会でロイドが目にした数枚の日本家屋の絵画に起因しているとは、誰が知るだろう。
・美術品の価値。英語の重要さ(p30,48)。これらは昔も現代も変わらないのだな。
・イギリス皇太子訪日時の火災に、ライト館オープン当日の関東大震災。それらを乗り越えて「帝国ホテルに泊まるために日本を訪れるというブーム」(p308)が引き起こされたことは、生命を賭した関係者にとって最大の弔いとなったことだろう。

「覚悟」と「徹底」。ライト館の建築を言葉で表現すると、こう言えるだろうか。いまや明治村の顔ともなった帝国ホテル旧本館・中央玄関部。フランク・ロイド・ライトの精神が宿った傑作だが、当時の経営者の評判は意想外に低かったのだと本書で知った。情熱の前に立ちはだかる納期とコスト、そして世相の壁。否、それらを曲がりなりにも乗り越えたからこそ「仕事」が永遠に残されたのだといえよう。

The Imperial Hotel Building Story
帝国ホテル建築物語
著者:植松三十里、PHP研究所・2019年4月発行
2020年12月14日読了
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帝国ホテル建築物語
植松三十里
PHP研究所
2019-04-10

しきみさんの挿画が素晴らしく、谷崎の可憐な文章を読みたいのにページを繰る手が動かない。こんな理由でなかなか読書が進まないのは初めてだ。
・磊々(らいらい)、磑多(がいがい)、潺湲(せんかん)などの形容詞を多用し、場の雰囲気をさらに盛り上げる谷崎の手腕と幻想的なイラスト。その二つを見事に融合させる巧みな編集が、本書の魅力でもある。
・しきみさんのイラスト! たとえばp23の「彼の女」なんて、その魅力に吸い込まれそうだし、魔術師の「男性的の高雅と智慧と活発」「女性的の柔媚と繊細」(p60)があまねく表象された造形なんて惚れ惚れさせられる。実に良い。
・「人間界の女王になるより、魔の王国の奴隷」になる方が、はるかに幸福なこと(p65)。良いぞ。そして「私」と「彼の女」の選択は……。

圧倒的な筆力に魅惑的な画力のコラボレーションは、実に103年の時を経て作品に新しい色彩をまとわせた。存分に読書の興奮を味わえた一冊となった。

乙女の本棚
魔術師
著者:谷崎潤一郎、しきみ、立東舎・2020年12月発行
2020年12月13日読了
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魔術師 (立東舎 乙女の本棚)
しきみ
立東舎
2020-12-10


20世紀が生んだ人類史上稀にみる巨人、大英帝国そのものを体現するはウィンストン・チャーチルだ。本書は、幼き頃から彼に心酔した一政治家が「チャーチルの生涯」と、その「チャーチル的なる人間の資質」を論ずる一冊となっている。
確かに、1940年5月のイギリス政治の場に彼がいなければ、歴史は著しく変わっていただろう。ファシズムが欧州を席巻し、こんにちのEUや自由市場は存在せず、アメリカは「帝国」として我が道をゆき、大日本帝国はもっと悲惨な形で瓦解していたかもしれない。
・1940年5月の戦時特別内閣。ドイツ宥和主義者の波の中で、筆頭大臣チャーチル一人が気炎を吐く。ヒトラーとの和解はイギリスの伝統、すなわち自由と民主主義を破壊に導くと。若き時分から鍛錬した演説と人心掌握の才能が、拡大内閣のメンバーに感激をもたらし、あの名演説「血、労力、涙と汗」から「バトル・オブ・ブリテン」へとつながるのか。それにしても「一人の決断」の重みよ。ドイツ空軍の爆撃にさらされた無辜のロンドン市民の死者、実に3万人。それでも彼は闘いを選んだのだ。
・第一次世界大戦では自ら塹壕に身を潜ませ、兵士とともに銃弾に身をさらす。政治の場に戻ってからは人類史上初の戦闘装甲車(機密漏れを防ぐため船上への給水車=ウォーター・タンクと命名された。それが「タンク」となって今に残る)のコンセプトを発明して開発を指揮し、航空戦闘機と空軍を創設した。それがチャーチルだったとは!
・名門貴族の家柄に生を受けるも、閣僚だった父親の愛情に恵まれず、大学へも進学できず陸軍士官となり、戦場ジャーナリズムの分野で才能を発揮した若き日々。政治家に転身してはロイド・ジョージとともに、こんにちの社会保障制度の基礎を提案、いちはやく実現した実績を持つ。30台で入閣。悪名高いガリポリ戦役では海相として責任を取ることとなる。華々しい半生と数々の失敗を携え、1940年5月の「人生最高の瞬間」、首相への就任を迎えるのだ。
・彼が帝国主義者であったことは誰でも知っている。だが(ガンジーへの悪口は別として)「開明的な帝国主義」とでも呼ぼうか、本書によるとイギリス人としての彼の使命感が伝わってくる。そこがナイジェリアで暴君として残虐行為を働いたルガード夫妻などと異なる彼の資質でもある。
・「ほかの多くが見て見ぬふりをしていた邪悪さ」(p46)に真正面から向き合う勇気。「自分自身と自分の理想に賭け、大博打を打つ意志」(p82)、「KBO」(Keep Buggering On 死に物狂いでやれ p269)、そして「必要なことは何でもやる」(p332)。これらがチャーチルの原動力なのだな。
・その生涯でシェイクスピアとディケンズを合わせたよりも長い文章を残し、晩年にはノーベル文学賞を受賞した。その文才はあのミズーリ州フルトンの「鉄のカーテン」演説にも発揮された。驚いたことにスピーチライターを起用せず、鉄道の車内で何度も推敲した手書き原稿を「記憶」し、その演説で聴衆に感動をもたらしたという。今度『第二次世界大戦』全4冊をを読んでみよう。

まず大英帝国、英語圏、そしてヨーロッパ。イギリスはヨーロッパの一部ではあるが、それがすべてではない。このことはチャーチルの残した数々の言葉から垣間見えるし、著者、すなわち現イギリス首相、ボリス・ジョンソン氏のゆるぎない信念でもあるだろう。「ヨーロッパを超越したイギリスという世界観」(p422)がEU脱退を正当化する、ということか。

結局、チャーチル的なる人間の資質とはなんだろう。およそ人類にとって良い方向に「一人の人間の存在が歴史を大きく変え得る」(p15)ことか。それだけではないだろう。言葉にできないシンパシー、それを文章の端々に感じ取って本書を閉じることにした。よし、チャーチルのエネルギーにあやかって前を向いてゆこう。

THE CHURCHILL FACTOR, How One Man Made History
チャーチル・ファクター たった一人で歴史と世界を変える力
著者:BORIS JOHNSON、石塚雅彦、小林恭子(訳)、プレジデント社・2016年4月発行
2020年12月11日読了
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チャーチル・ファクター たった一人で歴史と世界を変える力
ボリス・ジョンソン
プレジデント社
2016-04-27



そのコンセプトにおいて常軌を逸したSONY WALKMAN、NM-WM1Zを思い切って購入。
高級オーディオケーブルに使用される純度99.96%以上の高価な無酸素銅の塊から削り出し、金ピカめっき処理を施した筐体は、まさに"クレイジー"の域だし、内部配線にKIMBER KABLEを使用するなど、一切の妥協なし。およそポータブル・オーディオらしくないこだわりようには脱帽するしかない(お値段もクレイジーだが)。
内蔵メモリ256GBもポイント高し。
前の愛機ZX100(アルミ削り出し筐体)と比べると大きくて重いが、音の差は歴然。特に葉加瀬太郎『シシリアン・セレナーデ』のヴァイオリンの豊潤さに感動させられた(MDR-Z7+KIMBER KABLEのバランス接続で)。麻枝准×やなぎなぎ『君という神話』のヴァイオリン、ピアノ、ギターのアンサンブルの「聞こえなかった音」が聴けるようになり、その響きも最高だ!

この機会にヘッドホンも新調した。SONY最高峰のMDR-Z1Rだ。エージングはこれからだが、長く愛用するぞ!
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