男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

2021年06月

女学校を卒業したまでは良いが、諸学校の入学試験に失敗し、保育士育成学校へ通う滝本章子(あきこ)。彼女はその積極性=やる気のなさを咎められて寮を追い出され、YMCA(YWCA)の宿舎、それも4階の屋根裏部屋へと転がり込む。この、何もない「青い三角形の小部屋」に引っ越した夜にボヤ騒ぎを起こした章子を助けたのは、寂しく儚げな表情を持つ隣室の秋津環(たまき)だった。
中原淳一の挿画が物語を盛り上げてくれる。
・退寮の理由が「学生として懶惰」はともかく、「キリスト教徒として不信の者である」はひどいなぁ。またYWCAの安息日=毎週日曜日の集会で明かされる「キリスト様への思い」の告白や「信者としての決意」表明、科学者や哲学者が何と言おうと神の存在には疑いはないって言い分には狂気すら感じられる。
・「痛ましく傷ついた美しいものの哀しみ」(p86)「黎明を創造し黄昏を描き信也を生む楽音よ」(p128)「夜という神秘な麻薬を呑んだ都市の風景がどんなに美化されるか」(p153) 良い感じ。
・「ふふ……花より林檎よ……」(p147)と積極的にYWCA宿舎の人間関係の構築に尽力した、まるで男のようにサバサバした性格の工藤嬢には好感が持てる。
・人間の努力に関する畑中夫人の言葉(p107)は心に染み入った。
・何のとりえもなく、地を這うように生きるだけの自分。見上げれば航空機。「空をゆく人には燃ゆる如き功名心や華やかな誇りや冒険の好奇心と壮快の意気とに血も踊ろう胸も波立とう」(p298)やり場のない感情が章子を支配し、これが事件を惹き起こすのだ。
・「自我のないところに個人としての生命があるでしょうか。いいえ、ありません」(p316)こう言い切る秋津さんにこそ、章子は神の姿を見たのではなかろうか。そしてここから、章子の真の人生がはじまるのだ。

吉屋信子最初期の作品で、『わすれなぐさ』に比べるとはるかに読みにくい。でも作者自身の体験をもとに綴られた本作が、彼女の原点だ。
そして国粋主義の暗い時代にあって「個人の絶対的価値観と尊厳」(p323)こそ、なによりも守るべきものと、再認識させてくれた。
滝本章子と秋津環。この濁世に生きる決意を誓い合った二人の若き女性に幸あらんことを願う。

吉屋信子乙女小説コレクション2
屋根裏の二處女
著者:吉屋信子、国書刊行会・2003年3月発行
2021年6月8日読了

Victorのウッドコーンスピーカーには前々から興味があったが、手を出せずにいた。このたび、スピーカー一体型のシステムが発売されたことを知り、購入を決意した。これは居間のテーブルの上に鎮座し、主に後期高齢者の母が使用することとなる。
2013年に買ったSONYラジカセCFD-RS500Cの買い替えとなる。その音の差は歴然だ。

ウッドコーンスピーカーの音色は本当に素晴らしく、ヴァイオリンの旋律、ピアノのアタック、ボーカルの瑞々しさも迫力もダイレクトに伝わってくる。タブレットのBluetoothも簡単につながり、Youtubeを高音質で楽しめている。
正面にレイアウトされた電源、CDトレー開閉、再生スイッチなどは使い勝手も良く、本体の操作性は満点だ。
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そんな本機にも欠点が二つ存在する。まず、動作が遅い。電源を入れて3秒、CDトレー開閉スイッチを入れて2秒後にトレーが開く。CD再生スイッチを押して3秒たってから再生が始まり、曲送り釦を押して次の曲が始まるのは2秒後ときた。ICチップ云々ではなく、あきらかにアプリケーション・ソフトウェア側、ユーザー・インタフェース設計に問題あり、だ。母も「遅いなぁ」と嘆いていた。まぁ、これは慣れるしかないか。

我慢できないのは、うじゃうじゃと小さなボタンが配置されたリモコンだ。はっきり言って使えない。
主役の「CD再生釦」、パッと見てわかりますか?
このリモコン、ビクター社が本気で開発したのですか? 一度、CFD-RS500Cのリモコンを見てみませんか?
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本製品のターゲット層はミドル層のみならず、シニア層も含まれるはず。後継品はユーザー・インタフェースを見直すべきだ。その際、EX-D6/D7にも使える新しいリモコンを別売りしてくれると嬉しいな。

文句を連ねてしまったが、本体の質感と音質はとても満足度が高く、買ってよかったと思う。

オーディオ・システム入れ替え計画も、はや中盤に。少し寄り道してヘッドホンアンプの購入となった。

SONY Signature Seriesと銘打ち、金ぴかハイレゾWALKMAN NW-WM1Z、ハイエンドヘッドホンMDR-Z1R、めちゃ高ヘッドホンアンプTA-ZH1ESの3点が発売されたのは2016年10月のこと。当時は「クレイジー!」と思ったものだが、まさかそのすべてを自分が買い揃えることになるとは思ってもいなかった。
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ずしりと重い4.4kg。
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重いのもそのはずで、「極めて高い剛性を誇る、新開発のFBW(Frame,Beam and Wall)シャーシ」が奢られている。アルミブロックからの押し出し加工とな? 納得だ。
背面。この豊富な入出力端子につられて購入したのだ。ハイレゾWALKMANの出力をDSD変換し、プリアウト端子からメインアンプへ接続し、スピーカーで聴くのだ。
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それでは、金ぴかハイレゾWALKMAN NW-WM1Zの楽曲をアンプ代わりのONKYO CR-N755(笑)の大音量で再生してみよう。スピーカーはONKYO D-TK10だ。
AKB48『365日の紙飛行機』……伸びやかなボーカルに艶が加わり、気持ち良い響き。ハーモニーも素晴らしい。
TRUE『DREAM SOLISTER』……金管のきらびやかな響きが2割増しになって魂に届く。そんな感じ。
桜坂しずく(前田佳織里)『Solitude Rain』……ミュージカルソングの躍動感に引っ張られる気持ちになる。
麻枝准×やなぎなぎ『君という神話』……ヴァイオリン、ピアノ、ギターのアンサンブルの「聞こえなかった音」が前に出てきた!

言葉もない! これまでに体験したことのない音! DSD再生って素晴らしい!

お次はアンプを買うぞ!


スピーカーをONKYO D-TK10に買い替えたのを機に、部屋のオーディオ・システムを入れ替えることにした。
音質を確保するためか、高級オーディオ機器の標準は横幅430mmだ。これでは僕のカオスな部屋に置くことは難しい。かといってもうCDレシーバは嫌だし……。
ちょうど良いのがあった。
LUXMAN D-N150、ジャストA4サイズのCD専用機。これにした。
(お値段178,600円。楽天の逸品館で購入。)
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RCAケーブルも奮発してaudioquest MACKENZIE(0.5m)を購入した。
(Amazonで15,058円。ちと高いな。)
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カオス部屋の一角に場所を確保し、アンプ代わりのONKYO CR-N755(笑)に接続。いざ、聴かん。

「四月は君の嘘 僕と君の音楽帳」よりサン=サーンス『序奏とロンド』……力強く、ときに繊細に鳴る篠原悠那のヴァイオリンと阪田知樹のピアノが、まるで目の前で演奏されているように拡がってゆく。
「Time has come」より葉加瀬太郎&古澤巌『SWINGIN' BACH_Improvisation sur Le le mouv. du Concerto en Re min.』……ジャズのバッハ。渡辺香津美の切れ味鋭いギターに、二人のヴァイオリンがからんでくる。良いなぁ。
「異国迷路のクロワーゼ The Animation オリジナルサウンドトラック」より羊毛とおはな『世界は踊るよ、君と。』……19世紀パリに迷い込んだかのような心地良いサウンドがそこにある。

求めていた瑞々しさと艶やかさがそこにある。音の入口と出口を変えるだけでこんなにもかわるんだな。買ってよかった!
次はアンプだ!




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