男ひとり旅の美学

33の国と地域、南極を含む七大陸を踏破! 海外旅行歴28回の「旅の恥は書き捨て」です。愛車BMW M3と読書感想文も。

2022年01月

 大学を卒業して建築事務所に勤める二郎は人生の目標もなく、年老いた両親、大学で教鞭をとる兄の家族、それに嫁入り前の妹と同居し、これといって事件のない日々を送っている。ある夏、友人と落ち合う約束で暑い盛りの大阪の知人の家を訪ねた二郎は、そこで親類女性の婚約者と会い、これも訪ねてきた両親と兄夫妻とともに和歌山を旅行する。そこで兄から思いもよらない提案を耳にするのであった。
 いわく、兄嫁と一晩を過ごし、彼女の潔白性を確認してくれないか――。
 和歌の浦を襲う嵐の夜。それは長い長い兄の、兄嫁の、二郎の苦悩の始まりとなる。そして平然とする兄嫁の姿と対照的に、兄の精神はやがて変調をきたしてゆく。
・大阪はまだ東京を凌駕する商都であったことが会話の端々から見て取れる。東京一極集中前の良き時代だったんだな。そうは言っても世の中は「金」がすべて、高額の入院費用を払えずに瀕死の娘を引き上げて去る悲しい老婆の姿を、二郎と三沢が病室の窓から見下ろすシーンが印象的だ。
・二郎の友人、三沢。精神に異常をきたした不幸な女性の死に際し、その額に接吻した彼の真の思いは、生き方の定まらない二郎には永久に窺い知ることはできないであろう。「僕は其淋しい笑を、今夜何だか汽車の中で夢に見さうだ」(友達・三十一)
・兄と兄嫁とその娘。何不自由なく暮らす三人は余所目には幸福な一家そのものであるのだが、その実、夫妻の深刻な葛藤は両親の心を悩まし、二郎たちにも影を落とし始める。ダ・ヴィンチの『モナ・リザ』を彷彿させる兄嫁の妖艶な笑みは、そして二郎を戸惑わせる。女の涙に金剛石(ダイヤモンド)はほとんどない。たいていは皆ギヤマン細工だ(兄・三十二)。
・「人間の作った夫婦という関係よりも、自然が醸した恋愛のほうが」神聖であり、狭い道徳の作った窮屈な道徳を脱ぎ捨てて、大きな自然の法則を嘆美(たんび)する声だけが、後世に残ると言い切る兄の姿に、二郎はまた苦悩を見る(帰ってから・二十七)。
・兄嫁は強い。でも当時の女の立場は弱いのだ。男は嫌になれば旅立つなどして逃げられるが、女は鉢植えのように動けない。兄嫁の訴えに「測らべからざる女性(にょしょう)の強さを電気のように感じた」二郎。これも時代の苦悩か(塵労・四)。
・二郎と妹お重の楽しいやり取りが、重い本作での一種の清涼剤となっている。「ワッと云う悲劇的な声を振り上げて泣き出した」彼女は「事実が生んだとんでもない想像まで縦横に喋舌りまわして已まなかった」(帰ってから・九)。実家を出て下宿中の二郎が久しぶりに戻ってきたら、逃げた飼い犬を見るような目つきで「そら迷子が帰ってきた」(塵労・十)。よい関係の兄妹だ。

 いくら学問や研究に長けたところで、何人もひとの心を分かることはできない。それを超越できるのは宗教だけであり、考えるのではなく信じることだとの漱石のメッセージ。そして「信じることもできずに考えるだけ」(兄・二十一)の兄の苦悩の毎日は、そのまま現代を生きる人の姿に重なる。最終章「塵労」ではそのテーマが探求される。「神は自己だ」「僕は絶対だ」。二郎の頼みにより兄との旅行を承諾したHさんからの手紙には、兄の精神と行動が赤裸々に示される。精神衰弱か、うつ病か。否、それらを超克した哲学的病理に突入することで、兄の姿は二郎から遠のくのであった。
 ここで物語は終焉するのであるが、せめて妹のお重と姪の芳江には幸多い人生を望もうか。

漱石全集第八巻
行人
著者:夏目金之助、岩波書店・1994年7月発行
2022年1月30日読了
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行人 (新潮文庫)
漱石, 夏目
新潮社
1952-03-24


カメラ界がZ9とα7Ⅳの話題で盛り上がっているのを横目に、2021年12月末にSONYフラッグシップカメラ、α1を購入した。
愛機α7RⅣは絶好調だが、夜間撮影に一抹の不満があったのは事実。
昨年春にα7SⅢで体験した新しいEVF:電子ビューファインダー(約944万ドットの高精細OLED、α1とα7SⅢのみ)が衝撃的だったので、α7Ⅳ(α7RⅣ以下のEVF)を買う気にはならず。そこで、α9系の高速連写性能、α7R系の高画素素子、α7S系の高感度性能と動画機能を兼ね備えたα1にトライすることとした(5年ローンだが)。
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SEL50F12GM、SEL1224GM、SEL70200GM2、SEL20F18G、SIGMA 100-400(これらも全て2021年に購入)を装着してみる。良い感じだ。
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さぁ、今年からこの「相棒」でどんどん撮影するぞ!



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